▼ネロリ – 柑橘の花が紡ぐ、心を癒す香り – | 第2回

OSAJIが鎌倉で展開する「enso」にて、調香を担当しています。 「enso」は、さまざまな感覚や感情を通じて、自分にとって心地よいものに気づき、本来の自分へと調律していくための場所です。
この連載では、私自身の香りや植物との向き合い方、そして、みなさまの暮らしに香りを取り入れるヒントをお届けしていきます。
enso 調香師
安藤 明日生
第2回
ネロリ
– 柑橘の花が紡ぐ、心を癒す香り –
柑橘の花が告げる、初夏の始まり。

4月の終わりに、橙の花の蕾が静かにふくらみはじめます。
まだ春の余韻を残しながら、初夏の気配が空気に混ざるころ。
町のあちらこちらで柑橘の木を見上げながら、「今年もこの季節がやってきたなぁ」と実感することが、私のささやかな楽しみとなっています。
今年は、鎌倉山の友人の庭や、三浦半島の畑まで、橙の花を摘みに出かけました。
畑一面にただよう、やわらかく上品な香りのなかで作業をしていると、自然と呼吸が深まり、心もゆるやかにほどけていきます。香りの持つ力は、いつも不思議です。
白く可憐な花々がもっとも香りを放つのは、蕾がほころぶ瞬間。
その一瞬を見計らって手折り、水蒸気蒸留によって、香りを丁寧に抽出します。
こうして橙の花から得られる精油が、「ネロリ」と呼ばれるものです。
優雅な甘さにシトラスのフレッシュさが重なったネロリの香りは、私の心をそっとゆるめ、透明感のある余韻をそっと残してくれます。

ネロリの香りを暮らしのなかへ。

皆さんには、日々の小さなルーティーンがありますか?
私にとっては、朝4時に起きて行う調香や読書の時間が、そのひとつです。
とはいえ、もともと朝が得意なわけではなく、目覚めにはそれなりに時間がかかるときもあります。
そんなとき、ネロリの香りに助けてもらっています。
単体でも美しい香りですが、日によって少し青さが立ったり、甘さが強く感じられたり。
感じ方の違いによって、自分のコンディションに気づくこともあります。
朝は〈ネロリ+オレンジ〉のブレンドを。爽やかでやさしい甘さが、目覚めの空気をやわらかく彩ってくれます。ベルガモットやゆずなど、他の柑橘との相性も良く、その日の気分や気候に合わせて香りを重ねるのも、日々の楽しみのひとつ。
一方で、夜の静かなひとときには、〈ネロリ+ラベンダー〉を。
穏やかに包み込むような香りが深呼吸を誘い、私の気持ちを静かに整えてくれます。
アロマウォーマーに数滴垂らし、キャンドルの灯りを眺めながら過ごす時間は、1日の終わりに訪れる小さなご褒美です。
香りとともに、自分を見つめる時間を。

季節の変わり目は、環境の変化とともに、心のバランスも揺らぎやすくなるもの。
そんなときこそ、自分の内側に静かに耳を澄ませる時間を持ってみてはいかがでしょうか。
なお、ネロリ精油は、enso〈kako -a scent-〉の調香体験でもお楽しみいただけます。
香りに身をゆだね、ご自身の感覚と丁寧に向き合うひとときを、どうぞご体験ください。
※精油(エッセンシャルオイル)を使う際の注意点
精油は医薬品ではありません。天然の香りは心身の健康に良い影響をもたらしますが、不調改善を保証するものではありません。予めご了承ください。

PROFILE
安藤明日生
enso 調香師
アロマテラピーや調香について独学で学び、2024年、OSAJIに入社。鎌倉「enso」内、調香体験スペース〈kako -a scent-〉を担当。同年、自身のブランド「Lunef」をスタートし、草花木果の力を借りて、空間や人、物に合わせた企画や表現、調香を行う。
enso
■住所 / 神奈川県鎌倉市小町2丁目8-29
■営業時間 / 平日 10:30〜18:00(調香体験・ショップ)・11:00〜18:00(レストラン) 土日祝 8:00〜18:00(調香体験) 8:00〜19:00(レストラン・ショップ)
■定休日 / 水曜日(祝日の場合、翌平日)
https://www.enso-osaji.net