▼ひまわりの種の収穫。その種に含まれる、酸化に強いオイルが持つ可能性とは| SPECIAL REPORT〈vol.4〉
OSAJI ブランドディレクター 茂田正和が、化粧品を通じて社会の課題に取り組んでいるプロジェクトの一環として、今年から群馬県・みなかみ町でスタートした、ひまわりの栽培。種からオイルを抽出し、最終的にヘアオイルとしてかたちにすることを目指しています。
自給にフォーカスし、ゼロからものづくりを完結させるこのプロジェクトを通じて、茂田が伝えたい想いとは? 4回目となるSPECIAL REPORTでは、枯れた花からひまわりオイルの原料である熟した種(油糧種子)を収穫する様子をお伝えします。
美しい花の季節の後に得られる、良質な油を内包した種。

—ひまわりの開花から約2ヶ月が経ち、いよいよ種の収穫となりましたが、その前に枯れたひまわりを刈り取る作業があるんですよね。
そうですね。前回(SPECIAL REPORT〈vol.3〉)お話した通り、花が乾燥しているほうが種をガサッと取りやすいので、まずは刈り取った花を風通しの良いハウスに運んで干します。そこで花が重なってしまうとその部分にカビが発生してしまうため、花が重ならないよう気をつけながら平たく並べて干します。



—種を取る時はこういった道具を使って取っていくんですね。楽しそうです。
ホームセンターに売っているバーベキュー網にゴシゴシと擦り付けて種を取るこの方法は、現地で一緒に畑を管理してくれている、農家とスノーボードのインストラクターを兼業している仲間が提案してくれました。ひまわりがしっかり乾燥していると、網の上で擦るだけでポロポロと気持ちよく落ちていきます。これらの種もカビが生えるとダメになってしまうので、搾油に適した水分量になるまで1ヶ月くらい乾燥させて保管します。生花をドライフラワーにするプロセスと似ていますね。


—乾燥は、最初に花を丸ごと、次に落とした種のみと2回に渡って。ひまわりの花から一本ずつ手作業で種を取ることも含め、手間ひまがかかりそうです。
9月のみなかみはまだ気温30℃とかで、暑さで大変さが増した感じはありましたね。種取り作業自体は、まあ菜種のような細かな種を扱うことと比べたら楽かなと思います。今回やってみて、大変な要素というか、収穫のタイミングをはかるのが難しいなと感じました。収穫が早過ぎると、まだ種が花にしっかり付いているので乾燥させても擦っただけではうまく落ちてくれない。逆に収穫が遅過ぎると、擦った時に種以外の萼(ガク)の部分なども一緒に落ちてきてしまう。今年の取り組みによって、収穫タイミングが作業効率をかなり左右することがわかりました。

—ひまわりの種は、どれくらいの量を収穫できたのでしょうか。
現在わかっているところでは、3反分のひまわりから約240kgの種が収穫できました。まずまずの量ですね。ただ、もう少し種が熟したら収穫しようと様子を見ていたら、ある日種がボトボトと落ち始め、それを鳥が食べに来てしまった、ということもありましたし、畑の様子をスタッフが見に行ったら、わっと鳥が飛び立ったなんていうこともあったり。収穫量を増やすための改良の余地はまだまだありそうです。
—経験値が増えていけば、種が熟すベストタイミングを見極められるようになりそうですか。
なると思います。種に油が集約して熟すまでは、油は葉っぱとか茎に存在しているんです。今回僕らが植えたのは、油の収率が比較的高いと言われるひまわりで、今後もずっと同じ種類を植えていくかまでは決めていませんが、種にしっかり油が集まってきたベストタイミングを捉えられれば、オイルの収率はもっと上がるはず。こればかりは回を重ねて精度を上げていくしかないですね。いろんなパターンを試してみるつもりです。

ポジティブな反響を励みに、プロジェクトは後半戦へ。


—次の工程は、加工のスタート地点ともいえる、乾燥した種の搾油ですね。
はい。10月中に搾油をして、そこからどんな成分がどんな割合で含まれているか、分析に出します。成分分析では、ビタミンEやリノール酸の含有量のほか、入っていると困る成分の有無もチェックします。例えば、実は土壌汚染があって植物がそれを吸い上げてしまい、分析にかけた時に鉛やヒ素といった重金属が出たらもうそれだけで商品化の道は断たれるわけです。
みなかみは、ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)として認定されているほど水のきれいな場所ですし、前回、商品企画開発の松本が話した通り、昨年収穫したひまわりから搾ったオイルでの分析結果を見ても、そういったことはないと思いますが。今年収穫したひまわりから搾ったオイルを分析にかけつつ、商品のパッケージ案なども動き出して、11月中には商品としてのヘアオイルの最終形態が見えていると思います。
—ひまわりの種から得た油でヘアオイルをつくるこの取り組み、半年が過ぎたところですが思いのほか反響があったそうで。
そうなんです。プロジェクトの進行を公開することで、群馬県内から「来年は何か手伝いたい」「協力できることがあれば」といった声が届きました。その他にも、群馬県で化粧品原料を扱っている会社さんが関心を示してくれたり。いろんな人に共感していただけているのだな、とうれしく思っています。あとは群馬県高崎市山名町にある山名八幡宮周辺にある耕作放棄地とかでもひまわり栽培をできないかと考えています。


—山名八幡宮を訪ねる方々が、その道すがら、ひまわり畑を楽しめるようになるのはすてきな構想ですね。
山名八幡宮は、創建850周年を記念した数量限定のバーソープをOSAJI とのコラボレーションでつくるなど、縁が深い場所でもあるのでそうなったらうれしいですね。
ひと口に耕作放棄地といっても、田んぼの跡地で果実のような生り物(なりもの)を栽培しようとすると、根腐れが起きやすかったりします。その点、適応力の高いひまわりは元気に育つ確率がとても高い。しかも酸化しにくいひまわりの油は、化粧品だけでなく食用にも使えるし、いずれにしても窒素充填してボトリングすれば、未開封なら数年単位で保存できます。これが果実を栽培してジャムにして食品で販売するとしたら、品質保持期限はどんなに長くても未開封で2年とかなので、たくさん在庫を抱えるのはリスクが大きくなりますよね。
—“自給する美しさ”を掲げた、このひまわりオイルを得るためのひまわり栽培が、群馬県で広まっていったらうれしいですね。
資源が非常に少ない日本において、酸化しにくい、つまり品質保持期限の長い油は売れる原材料の1つ。しっかりと分析をして、窒素充填の上でボトリングしたオイルなら、在庫が残ってしまって困ったという事態になることはそうないと思います。なので、耕作放棄されている場所だけでも、酸化に強いオイルが取れるひまわり栽培が根付き始めたら、今回のプロジェクトの第一段階が成功したと言えるのではないかと僕は思っています。
次回に続きます。

茂田正和
株式会社OSAJI 代表取締役 / OSAJIブランドディレクター
音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI(オサジ)』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香–」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJI、kako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。2024年2月9日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。
https://osaji.net/
https://shigetanoreizouko.com/
text:Kumiko Ishizuka