KALØNWHITE KAORI さん|SPECIAL INTERVIEW

KALØNWHITE KAORI さん

この秋、ビューティーディレクターとして活躍するKAORIさんによる「人生」をテーマにしたユニークなドレスブランド〈KALØNWHITE(カロンホワイト)〉が新たにデビュー。メイクというフィールドを通じてこれまで伝えてきたメッセージ、そしてこれから伝えようとしている女性にとっての幸せや、私らしさの表現と楽しみ方について、お話をうかがいました。


▶︎KALØNWHITE

「KALØN」は古代ギリシャ語で“Beauty”の意。外見だけではないマインドと結びついた真なる美しさ。「WHITE」は何にも染まっていない、まっさらなキャンバス。〈KALØNWHITE〉というブランド名には、人生という物語の主人公である自分が、その幕を下ろすときまでドレスとともに美を体現し、日常の中の記憶を紡いていくように楽しんでほしいという思いが込められている。フォーマルとカジュアルの融合を目指したシルク100%のドレスは、数回の色染めも可能。纏う人の幸福感を高め、年齢とともに色を重ねながら人生に寄り添う、セミクチュールの「ライフドレス」を提案。
https://kalonwhite.com/

はじまりの真っ白なドレスから
人生最後の黒いドレスまで

ドレスを着るということは、女性にとって特別なこと。それは自分のためであり、大切な人たちにとっての祝福でもあります。日本の結婚式でのウエディングドレスは一回限りのレンタルが主流で、いずれも豪華でボリュームがあり、ラグジュアリーなデザインが定番です。〈KALØNWHITE〉ディレクターのKAORIさんが提案するドレスとは、​​ひとりの女性の新たな人生のスタートとその後の人生に寄り添う「ライフドレス」。そこにはこんな思いが込められていました。

「私は美容業界に長くいるので、次なる女性の楽しみ方ってなんだろう?っていうのをずっと考えていたんです。現代社会で色々なストレスを抱えている女性たちが、少しでも楽しめて輝ける方法って顔だけじゃなくて何があるんだろう?というのを考え続けた結果、辿り着いたのがこのブランドでした。世の中の、特に日本の女性の美に対する意識を変えたいという思いもあったので、ドレスを着ることで高揚感を感じてもらって、あなたはそれだけでじゅうぶん美しい!っていうことを伝えたかったんですね。高揚感や幸福感を感じることで『オキシトシン』という幸せホルモンを生み出すことができれば、多くの人が満たされるはず。そんなふうにも思っていたんです」

ユニークかつエレガンスなこのドレスは、はじまりの色である真っ白なドレスから、年齢を重ねながら人生の節目ごとに選んだ色を染めていき、最後は人生の幕を下ろし「土に還る」という意味のブラックドレスに終わる、まさに女性の人生を彩るドレスでもあるのです。

草木染めとシルク生地を組み合わせた
一緒に「育っていく」ドレス

江戸時代に発展したといわれる染物や織物の技術。日本には元々、藍染めや茜染めをはじめとした草木染めの文化とともに、着物を染め直すという考え方が根付いていました。

「たとえば茜は、昔から婦人病に良い薬草として使われていたので、身に付けていることへのお守りみたいな感覚もありますよね。それにドレスだと、下着とも違ってより気持ちが上がるというか。染めるときに何を基準に選ぶかは人それぞれです。藍染めひとつだけでも楽しめますし、好きな色を目がけて選ぶのも良いと思いますよ。ただ濃い色で染めたあとに薄い色に戻すことはできないので、薄いところからだんだん濃くしていくのが良いんじゃないでしょうか」

草木染めの種類はテスト段階のものを含め30色以上もあり、今後は泥染めなども検討しているとのこと。色の種類はもちろん生地によっても色の出方が異なるので、私だけの一着を作ることができるのも大きな魅力です。

「今は縫製職人さん自体も少ないのですが、着物の世界では珍しい広幅の生地を作ってくださる職人の方もごく僅かしかおりません。その方に出会えたのも重要なことでした。サテン生地の華やかな光沢感も美しいですが、ちりめんの上品さというか、これはやっぱり日本の伝統のものだなという感じがしますよね。ブランドでも扱っているシボの出方が高いのが特徴的な『古代ちりめん』は、ブライダルにも使えるだろうなと思ったんです」

ブライダル用に開発されたちりめんも取り扱っているそうで、KALØNWHITEのドレスはある意味、日本の工芸を新たな切り口から見せてくれているようでもあります。

日本の伝統技術を新たな視点で
かろやかに纏い、自由に楽しむ

KAORIさんが着ているドレスは「flow(フロー)」。シルクサテン生地の流れるようなフォルムが美しく、左右で異なるスタイルを表現したユニークなデザインが特徴です。肩やサイドのリボンの巻き方を変えるだけでもぐんと印象が変わり、着方のバリエーションも広がります。

プライベートな空間のショールームではフィッティングも体験でき、ドレスの丈もミニ丈からマキシ丈までのカスタムオーダーが可能。胸元の開き具合や深さなども好みに合わせて仕立てることができます。デビューコレクションではドレスが3型。リボン、ラッフル、マントといったアレンジ用のアクセサリーオプションも用意され、薄いシルク生地に施された手縫いによるビーズの刺繍は美しさと品格を兼ね備えています。

「洋服にしてもメイクにしても、自分のスタイルっていうのを持つべきだと思うんですよね。ただ、そのスタイルを分からずしてやみくもに取り入れても、結局ぐちゃぐちゃのまんまじゃないですか。だからそこを考えるべきなんだと思う。自分のスタイルって何だろう?って考えたときに、たとえば日本のものづくりってすごいものがたくさんありますよね。そこにちゃんと気付ければ、他人だってほかの国だって持っているし、それぞれにみんなが違った魅力を持っているっていうことにも気付けるようになると思います」

化粧品と洋服。ものは違っても
考え方やアプローチは同じ

「ドレスのデザインは、私の20年来の友人であるファッションデザイナーが手がけてくれています。はじまりは、彼女が手がけたインドシルクのアイテムを見て、そこから一気にインスピレーションが湧いたんです。フォーマルに使えてカジュアルにも落とし込むには、こういう感じでこういうふうにすれば、こんな世界観ができるだろうなっていうのが、私の中で全部ピンと来たんですよ。だからイメージの方向が一緒じゃないと成立しないんですよね。彼女とだから実現できたことでもあります」

一着のドレスを作り上げる方法として、先にデザインがあって素材や色を組み合わせていく場合もあれば、その逆もあり、それは長年携わってきた化粧品の現場でのものづくりともよく似ているといいます。

「ものは違っても、考え方やアプローチの仕方は一緒ですね。私がRMK時代に提唱してきたメッセージに『顔とボディをつなげよう』と『カラーメイクを自分らしく楽しもう』っていうのがあったんですけど、このドレスはその延長であり挑戦でもあるんです。それに、色と個性や精神を結び付けることでパワーを得られたり、女性がもっと自分に自信が持てるようになるんじゃないかなって。そうすればきっと周りにも流されないし、真なる自分のまま、ぶれることなく居続けられると思うんですよね」

美しさとは、生き様である。
そのときどきの「私」でいい

1本のリップがその日の気分を変えるとしたら、1着のドレスは人生の豊かさを変えることだってあるはず。さらにそれが結婚式だけのものではなく、いつだって自分に寄り添ってくれるものだとしたら、心強い味方のような存在になってくれるでしょう。

「ウエディングドレス姿って、だれもが最高の瞬間で一番美しいって思いますよね。それこそオキシトシン全開で(笑)。その日に向けて、肌も体もがんばって良い状態にするわけですもんね。でも当たり前だけど、変わらずになんていられない。年齢を重ねていけば皺だってシミだってできるし、白髪だって増えてきます。その女性としての変化をどう受け入れるか、自分らしさとして捉えられるかが、まさに今の私自身のテーマでもあるんです。よく思うのが、美しさってその人の『生き様』みたいなものですよね」

皺ひとつない状態だけがシルクの美しさとは限らない。皺がついても、風合いが変わっても、ドレスを纏う人とともに人生を歩み、馴染んでいく。鏡の前にいる「私」と向き合ったときに、どう在りたいのか。どんな姿が私らしいのか。それが分かったときに初めて、自分の中にある美しさの本質に気付くことができるのかもしれません。最後に、KAORIさん自身の中にある、美しさの価値観について。

「私自身はすごくナチュラル派なんですよ。洋服も、スタイリングというよりは一枚でサラリと着るラフな感じがほとんどですが、着飾る場面をあえて作ることも大好きです(笑)。海外生活が長いせいもあるんですけど、日本の女性たちの立場や見られ方、美意識については考えてしまうことがよくあります。ありのままの姿や変化を良しとせず、完璧を求めるというか。それは社会全体が作ってきたことでもあるんですけどね。周りの目を意識するんじゃなくて、自分のために美しさを磨いてほしいなって思います。それは、顔と身体と心のバランスの取れた自然な美しさ。そういう美しさを私も信じたいですね」

〈PROFILE〉

KAORI

〈KALØNWHITE〉代表。1998年より渡米し、以降日本との2拠点で活動。ニューヨークを拠点にメイクアップアーティストとしてファッションとビューティーの現場に携わったのち、2013年より8年間、日本の化粧品ブランド〈RMK〉でクリエイティブディレクターを務める。退任後はその経験を活かし、美容観点からのエシカルなセミクチュールドレスブランド〈KALØNWHITE〉を2023年秋にスタート。https://kalonwhite.com/

Photo:Mitsugu Uehara
Interview:Masakazu Shigeta
Text:Haruka Inoue