2024.2.2

OSAJIの美意識とクリエイティブを巡るダイアローグ|STAFF DIALOG

MENBER

OSAJI 代表 茂田正和
OSAJI デザイナー 石井このみ
OSAJI メイクアップアーティスト 後藤勇也
enso シェフ 藤井 匠

「らしさ」とは、つくるものではなく、備わっていたものが見えてくること。意思統一をせずとも「個」が奇跡的に調和しているのが「OSAJI」というブランドであり、集団でもあります。今回は4人のメンバーがensoに集い、対話しながら、自分たちの核となる美意識やクリエイティブとは何なのかを探っていきます。


「わび・さび」の精神が宿る美と
創造性を生み出す良質な制約条件

茂田正和(以下、茂田) このメンバーで話すのは初めてなんじゃないかな。でも今日は僕がメインでしゃべるわけじゃないので。

後藤勇也(以下、後藤) そうなんですか? どんな感じになるんでしょう。

藤井匠(以下、藤井) 僕、時間と場所しか聞いてないですよ(笑)。

石井このみ(以下、石井) 私もです。みんなそうですよね?(笑)

茂田 そうだよね(笑)。まず簡単に説明すると、OSAJIのWEBマガジン「OSAJI Journal 」を立ち上げて今年で3年目になるんです。リニューアルも兼ねて新しいコンテンツを考えようと思ったときに、うちの会社にはおもしろい人たちがたくさんいるわけだし、せっかくなら連載をやってもらおうかなと。テーマや内容は僕が決めるのではなく、それぞれに書きたいと思うことでOK。そこで今日は、OSAJIが考える美意識やクリエイティビティについてあらためて意見交換してみたい。こういうことを話す機会って意外と少ないと思うから。

石井 あらためてってなると、そうですよね。この4人が揃うこと自体もなかなかないですし。

茂田 OSAJIの重要なクリエイティブを担ってくれているという共通項はあるにせよ、ジャンルは全然違うからね。石井さんはOSAJIのパッケージ含めグラフィックデザインまわりをトータル的にやってくれているし、OSAJIのメイクの方向性を考えてくれているのは後藤くんだし、OSAJIの食といえばensoで藤井くんの料理がある。日々、みんなそれぞれの思いの中でやっていて、意思統一しながらやっているわけじゃないのに奇跡的に調和しているのが「OSAJI」なんだよなあって思う。

石井 茂田さんの指示だけでやっているかっていうと、みんなそうじゃないですもんね。

茂田 そうそう。クリエイティブに関してはトップダウンじゃなくて、そこを担う人たちの思いがあったうえで成り立っているのがブランドとしても良いバランスだと思う。だからこそ今日は普段、みんながをどういうことを感じたり考えたりしているのかを純粋に聞いてみたいというか。それがこのOSAJI Journalを通じて、みなさんに少しでも伝わったら良いなと思った次第です。

左から、OSAJI デザイナー 石井このみ、OSAJI 代表 茂田正和、enso シェフ 藤井 匠

後藤 うちって、性格はもちろん違うんだけど、仕事に対する考えの核となるところが近い人が多い気がします。ここにいるメンバーだけじゃなくても。

茂田 不思議と個性が強い人たちが集まっているよね。それでいて、ぶつかり合うんじゃなくて絶妙に融合しているからおもしろいチームだなとは思う。後藤くんって普段、美意識について考えることってある?

後藤 これは自分なりの考えというか哲学でもあるんですけど、「だれも置いて行かない」っていうのが根底にあるんです。もちろんメイクや美容は楽しむものであり、美しくなりたいという気持ちに寄り添うものっていうのは大前提として。だからOSAJIの考え方とも共通していますよね。多くの方に使っていただきやすいような製品設計をしているので、アイテムはお客様に自信を持っていただいたり背中を押して差し上げたりするためのものだと思っています。

茂田 後藤くんが入りたてのころ、スキンケアをどうやってメイクアップの一部として捉えるかということを一緒に考えたい、みたいな話をしたんだよね。

後藤 そうですね。あのときのお話は自分の中でも考えを深めるきっかけのひとつになっています。OSAJIというブランドはスキンケアから始まっているので。昨年ようやくベースメイクのアイテムも完成し、以前よりもトータル的なメイクのご提案ができるようになりましたね。

OSAJI メイクアップアーティスト 後藤勇也

茂田 ちなみに石井さんは、後藤くんや彼のメイクをどんなふうに感じる?

石井 まず、良い意味でメイクアップアーティストっぽくないんです。私の勝手なイメージだと、メイクアップアーティストさんって近づきがたい雰囲気を纏っている方が多い印象なんですけど、後藤さんは親近感が湧くというか。きっとお客様も同じように感じる方が多いんだろうなって思うんです。
後藤さんが登場するインスタライブでのコメントを見ていても、ポジティブな言葉がいっぱい流れてくるし、実際にお店でメイクをしてもらった方の感想を聞いたこともあるんですけど、本当に幅広い年齢の方から支持されているなあって感じるんです。それを後藤さんはものすごく謙虚に受け止めているから、着実にファンも増えていて。すごいことだなあって思ってます。

後藤 泣きそうです………(笑)。

一同 (笑)。

後藤 僕の考えとしてあるのは、アーティストにとってのメイクとは自己満足の道具じゃないということです。一番大切なことは、目の前の人に寄り添うことであり、お客様が喜んでくれること。メイクアップアーティストという肩書きのイメージであったり、いわゆる業界の型にはまらずにやろうと思っています。今の自分にとっては来店されるお客様に本気で向き合うことが大きなモチベーションなんです。自社ブランドや製品に愛情を持っていなければ、化粧品メーカーのアーティストとして働くのは難しいと思います。

後藤 もうひとつだけいいですか。世の中の美しいものって、自然とか芸術とかいろいろあると思うんです。その中で僕が挙げるとしたら、目の前の人がメイクを通じて自信が持てたときの“瞳の輝き”です。メイクをする前後の表情って、全然違うんですよ。瞳にぐっと力が宿るのがすごく美しいんですよね。そこに関わらせてもらえる立場にいられるのって幸せなことですし、誇りに思っています。

茂田 後藤くんにとってのメイクって、それを受けた人の心の変化があって初めて完成するものなんだろうね。テクニック的だったり独創性があるメイクを表現することが大事なんじゃなくて、その人が持っている独自の美しさが生まれることに意味があるっていうか。

後藤 まさにそんな感じかもしれません。藤井さんはどうですか?料理を作るときの一番のモチベーションっていうのは。

藤井 今まで見たことがないような料理を形にできたときですかね。かといって高級食材を使うわけでもなく、手の届く範囲の食材を使ってレストランらしい料理を作るっていうのが、自分の中ではひとつのテーマになっています。たとえば大根ひとつでも「こんな料理を考えられるんだ!」って思ってもらえたら、感動にもつながるんじゃないかと思っていて。ゲストが喜んでいる様子もモチベーションにつながります。

茂田 OSAJIの世界観って、わび・さび的な要素があるんだよね。それは藤井くんの料理にも通じる部分があるように思う。それこそensoの料理のテーマでもある「発酵」はわび・さびの象徴ともいえる。食材としての命を終えていくプロセスの途中なわけだから。

藤井 まさにそうですよね! わび・さびって質素なものに趣を感じ、時間の経過によって表れる美しさですもんね。僕は発酵させることで保存しておいた大根やお魚を一年後に使ったりするのですが、これってそういうことですよね! 石井さんの場合、デザインの思考のプロセスについてはどうですか?

石井 私は自分のことを「情報整理屋さん」だと思っています(笑)。まず、情報をどう整理するかを考えるのが自分の仕事だと思っているので。制作物の依頼があるとして、相手の立場から目的や用途を考えたり想像したりしながら、これってこういう意味ですか?つまりこういうことですか?みたいなやり取りを重ねていくとキーワードが出てきたりするんです。その上で文字のサイズや色味、テイストなど優先順位をつけて整えていくというか。
商品を作るときは、そこに自分の嗜好を落とし込むということはしません。依頼内容をベストな形で届けるにはどうしたらいいか?を常に考えながら、締め切りまでに動く感じですね。

後藤 石井さんに仕事をお願いすると、思っている以上に完成度の高いものを上げてきてくれるんですよね。こちらがちゃんと言語化できていなかったとしても、ここまで考えてくれてたんだっていう。

茂田 どんな案件でも必ずど真ん中を狙ってきてくれるよね。それにちゃんと俯瞰して捉えようとする姿勢も感じる。以前、僕の友人であり優秀な建築家が「クライアントを憑依させることができる」と話していたんだけど、人が使うものを作る立場の人ってみんなそうなのかもしれない。独りよがりなものを作っても相手の幸せにはならないから。

石井 デザイナーの仕事って、コミュニケーションの中で答えを導き出していくことでもありますよね。だから基本的には相手ありきなんです。それから先ほど後藤さんが話されていたように、商品に対して愛がある仕事がしたいなと考えていて。私の立場のようにメーカー専属デザイナーの場合、商品の企画から製造、販売まで、自分が関わったものがお客様に届けられるところまでを見られるのはすごく良い環境だと思っています。

茂田 ものづくりをするうえでの自分のモットーとして、「良質なクリエイティブとは良質な制約条件の上に成り立つ」っていうのがあるんだよね。人っていざ、自由になんでもやっていいっていわれるとなかなかできない。そうすると、どこかで経験した記憶を引っ張り出してきてオマージュするようになる。クリエイティブの例として考えたときに、冷蔵庫の中にある残り物だけで料理を作ってくださいといわれたとする。そこで重要なのは、自分だったらどうやってここにあるものを最大限に活かすか?っていうように、制約条件を上手に自分に課すことなんじゃないかなと。それでいうと、ここにいるみんながそうだと思うんだよね。

後藤 ああ、そうですね。

茂田 さて、じゃあそんなこんなで(笑)。これからそれぞれどんな連載をしましょうか。僕は本当になんでもいいと思ってる。自分なりに追求したいものとか、表現。それぞれが考えるユートピアみたいなものでも。わかりやすいものとか、万人に受け入れられるものじゃなくていい。そういうのは世の中にいっぱいあるわけだから。僕の場合は去年からずっと考えているテーマがあって、きっといろんな部分とつながってくると思う。では、みんながどんな連載をやってくれるのか、楽しみにしてますね。

〈PROFILE〉

茂田正和
株式会社OSAJI 代表取締役

音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド「OSAJI」を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香-」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJI、kako、レストラン「enso」による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド「HEGE」と、HEGEで旬の食材や粥をサーブするレストラン「HENGEN」(東京・北上野)を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。2024年2月9日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。


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石井このみ
OSAJI デザイナー

多摩美術大学グラフィックデザイン学科にてグラフィックデザインやパッケージデザインについて学んだのちに、2018年より「OSAJI」に入社。「OSAJI」のパッケージや販促物などクリエイティブ全般にまつわるデザイン業務のほか、フレグランスアイテムなどのコピーライティングも手がける。
Instagram @shiii__mi

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後藤勇也
OSAJI メイクアップアーティスト

多数のメイクブランドでのメイクアップアーティスト経験を経て、2020年より「OSAJI」 に入社。社内外のイベントでのデモンストレーションやスタッフの育成に取り組んでいる。OSAJIらしい、その人自身の魅力を惹きたてながら寄り添うメイクが好評。
Instagram @yuyagoto__

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藤井 匠
enso シェフ

大学で心理学専攻し卒業後、都内のホテルやイタリアン、フレンチで調理を学ぶ。2013年、INTERSECT BY LEXUS TOKYO開業時よりスーシェフに就任。2017年にはWE ARE THE FARMグループ全店の総料理長となり、グループが持つ畑作業にも従事。2018年、L’Effervescenceでの研修を経て姉妹店であるbricolage bread&co.開業時よりヘッドシェフを務める。2022年4月より「enso」ヘッドシェフ就任。
enso-osaji.net/

photo:Mitsugu Uehara
location:enso
text:Haruka Inoue