▼ensoの鰤大根 | 第1回

OSAJIが鎌倉に展開する〈enso〉。
調香専門店とショップを併設するこのレストランでは「鎌倉野菜を主に旬の食材、自家製の発酵食品や調味料を使った創作料理のコース」を季節ごとにメニューを変えて提供しています。

この連載では、食材、調味料、調理方法などに対しての自分の想い、そして、ご家庭でも取り入れやすいレシピやワンポイントなどもご紹介していきます。〈enso〉の料理やコンセプトを感じていただけたらと思っています。

ensoシェフ
藤井匠


第1回
ensoの鰤大根

冬になると根菜は甘味が増しておいしくなりますね。
これは収穫前のお野菜が冬の寒さで、自身が凍らないように糖度を上げて自分を守る植物の防衛機能のためです。

大根は生で良し、火を通しても良し、漬物にして良し。

暑い時期にはおろして、焼き魚と一緒にさっぱりとしておいしいですよね。僕がまだ寒い今の時期に感じる大根のおいしさの一つは、柔らかく煮込んであり味が染みていて、一口食べると味や香りがジュワっと溢れ出すところ。これはきっと日本人なら誰もが経験したことのある食べ方ですよね!
このように、食材の特徴にフォーカスしてみると、新しいお料理を作る時に自ずと調理法が決まったり、味付けの方向性が決まってきます。

ということで今回はまず、柔らかく大根を煮るコツをご紹介します。
まずは大根を食べやすい大きさに輪切りにします。
切った断面を見てみると皮から5mmくらい内側に、もう一周円形に筋が入っているのが見えますね。

この線の外側5mmは筋張っていて、繊維質で硬いため食べた時に口に残ったり、煮込んでも柔らかくなりづらい部分なので、この5mmを目安に皮を剥きます。剥いた皮は千切りにしてきんぴらなどにすると無駄なく楽しめると思います。

ここから大根を下茹でしていきます。

大根を輪切りにしたり皮を剥いている間に、大きめの鍋にお湯を沸かしておきます。
沸いたところに大根を入れ、吹きこぼれない程度の強火で25分程煮込むと柔らかく煮上がります。
ポイントはなるべく強火で!
お湯の温度が低いと柔らかく仕上げたいはずのお野菜が、逆に硬くなってしまいます。

この下茹で後にお好みの調味料や味付けでもう一度煮込むことで、柔らかい大根の煮物が完成します。

下茹を経た大根は大根臭さが抜けるのですが、逆に大根の水溶性の成分が煮汁に溶け出すため味や香りが抜けてしまいます。

おでんや豚バラ大根など濃いめの味付けを煮汁で含ませるのは、きっと下茹でで溶けて抜けた味や香りをカバーするために昔の人が考えた知恵だと思います。

現代に残る伝統料理や昔からの家庭料理を紐解いてみると、よくデザインされたお料理だなと感心します。

さて〈enso〉では下茹で後に溶け出た大根の香りや味を補完するために、一年間発酵させた大根おろしの中で、下茹でした大根をもう一度煮込んで一晩置き、「大根らしさ」を煮含めています。

さらにこちらも一年間発酵させたブリ(ブリの魚醤のようなものです)を使ったソースやお店のお庭で収穫した柚子果汁に漬け込んだ鎌倉野菜のピクルス、焼きねぎなどを添えています。

大根とブリと柚子にネギ

鰤の身はないですが、口の中で伝統的なブリ大根の組み合わせになる今冬のお料理です。

身近な大根という素材を発酵させて一年間保存して、時間の経過が生み出すおいしさを表現できたことは、OSAJIの世界観が持つ詫び寂びの要素とリンクさせることができた良いお料理になったと思います。

※今回ご紹介した「鎌倉産大根 焼きネギ 発酵鰤と発酵大根おろし」のご提供は、3月3日頃までを予定しております。(食材の仕入れ状況により多少前後する可能性がございます)


PROFILE

藤井匠

enso シェフ

大学で心理学専攻し卒業後、都内のホテルやイタリアン、フレンチで調理を学ぶ。2013年、INTERSECT BY LEXUS TOKYO開業時よりスーシェフに就任。2017年にはWE ARE THE FARMグループ全店の総料理長となり、グループが持つ畑作業にも従事。2018年、L’Effervescenceでの研修を経て姉妹店であるbricolage bread&co.開業時よりヘッドシェフを務める。2022年4月より「enso」ヘッドシェフ就任。


enso

■住所 / 神奈川県鎌倉市小町2丁目8-29
■営業時間 / 平日 / 10:30〜18:00(調香体験・ショップ)・11:00〜18:00(レストラン) 土日祝 / 8:00〜18:00(調香体験) 8:00〜19:00(レストラン・ショップ)
■定休日 / 水曜日(祝日の場合、翌平日)
https://www.enso-osaji.net


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