“トル”こと | 第1回

ブランドディレクターという僕の仕事。商品のアイディアを出してコンセプトを決め、ネーミング、容器選び、デザイン、処方開発をそれぞれのチームと進めていきます。ブランド全体の世界観やビジョンを決めることもしますし、お客さまとのコミュニケーションの方法も考えます。

スタッフからは「アイディアは枯渇しないのですか?」と時々聞かれますが、これが不思議と尽きないのです。僕自身もよくわかっていない、そんなアイディアの根源をお届けできたらと思います。たわいもない話ですが、お付き合いいただけたら幸いです。

OSAJI ブランドディレクター
茂田正和


第1回

“トル”こと

僕は、どうも“トル”ということに惹かれるようです。
「録る」「撮る」「執る」。音を、風景を、文章を、記録するということです。

中学時代にサックスを始め、高校ではDJ、その後ギターなど、数々、音を発することもやってきましたが、音楽の経験の中で結局たどりついたのは「録る」レコーディングエンジニアという仕事でした。音楽と並行してカメラで「撮る」こともやっていましたし、化粧品の仕事に就いてからは雑誌の連載をいただいたりして筆を「執る」ことも始まりました。

この“トル”ということは、いわゆるアーティストという役割とは少し違いますが、とても創造的ではあって、不思議な行為です。同じ音でも違う人が録れば違う音となり、同じ風景でも違う人が撮れば違う絵になる。同じテーマについて書いても違う人が執れば、全く違う物語になる。聴こえるもの、見えるもの、出来事、そこに「感じる」というプロセスが加わることで、それぞれの解釈が生まれ、その解釈に忠実に“トル”。そして、トッたものを受け止める人は、共感したり、驚いたり、発見したりするわけです。


僕は化粧品であったり、料理であったり、なにかを作る時は、必ず「誰かのために」と思って作っています。作ったものを喜んで使ってもらえたり、食べてもらえることが、純粋に嬉しく、とても楽しいのです。ですが、この“トル”ということについては、誰かのためにというよりも、自分のために、自分のその時の感情を記録しておくという感覚が近く、自分自身の美意識や価値観にストレートに向き合う時間になっているように思います。そしてまた何かを作ることへのアイディアに繋がって行くようにも思います。

“作る”と“トル”。その二つが僕を構成する要素であるというたわいもない話を、シンガポールで撮った写真と共に執りました。


茂田正和
株式会社OSAJI 代表取締役
OSAJIブランドディレクター


音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香-」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJI、kako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』と、HEGEで旬の食材や粥をサーブするレストラン『HENGEN』(東京・北上野)を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。2024年2月9日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。

Instagram: @masakazushigeta


STAFF DIALOG
OSAJIの美意識とクリエイティブを巡るダイアローグ。

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