▼enso artist dinner「言葉のうつわ OSAJI – Madoki Yamasaki」 | SPECIAL REPORT

多様な感性にふれ、次代の美意識を模索するenso アーティストディナー

去る1月、OSAJIによる複合型ショップ「enso」にて、音楽家であり詩人、アーティストの山崎円城さんによるエキシビション「言葉のうつわ OSAJI – Madoki Yamasaki」が開催されました。特別企画のアーティストディナーでは、山崎さんとOSAJIブランドディレクターの茂田正和を交え、参加者のみなさんとともに制作にまつわるエピソードを聞きながら、展示空間の中でensoの発酵料理を楽しみました。今回は、そんな一夜限りの食事会の様子を振り返りながらお届けします。


体験を共有することで、より特別なものになる。

宵の口の鎌倉・小町通り。日中の人通りが嘘のように、ゆるやかな時間が流れています。裏路地にあるレストラン「enso」を訪れると、山崎さんとのコラボレーションプロダクト「OSAJI – Madoki Yamasaki Limited Hand Wash “言葉のうつわ”」をはじめ、本展に合わせて制作されたアート作品を展示した空間が広がっていました。

緻密に描かれたタギングは力強さと繊細さが同居し、ベースとなるガラスの器や鏡との相性もあり、凛とした佇まいには静けさが宿っています。一方で、作品そのものにはひらかれているような印象があり、ensoの空間とも相まって、作品との距離を近く感じられるような感覚がありました。

ゲストが揃って席に着いたところで、発酵料理のペアリングコースがスタート。「発酵じゃがバター 発酵牛」や「発酵鴨葱」など、一皿ひと皿の表現から斬新なメニュー名に至るまで、ensoシェフ 藤井匠の創意工夫が詰まったシーズナルな全6品を堪能しました。

器はすべてensoのオリジナル。九谷焼の窯元である錦山窯で作陶しながら作家活動を行う、𠮷田太郎さんによるもの。互いの拠点である石川と鎌倉を行き来しながら、藤井の料理に合わせて考案されたのだとか。

おいしい料理とお酒で会話も弾み、参加者のみなさん同士も打ち解けた雰囲気。今回のように、展示販売やアーティストトークのみならず、ディナー形式のイベントを行ったのは、どのような想いがあったのでしょうか。

「ひとつには、山崎円城さんという人物や作品にできるだけ濃厚にふれてほしいという思いがありました。アーティストのことを知っている、作品を見たことがあるというレベルから、もう一段階深い領域でのコミュニケーションを実現したかったんです。だからこそ、アーティストである円城さんやディレクターである僕、参加者のみなさんがひとつのテーブルを囲み、フラットな交流の場をつくりたいと考えていました。普段はなかなかできないけれど、直接会って話すことで伝わる部分や体験することで感じてもらえることも大きいんじゃないかなと」(OSAJIブランドディレクター 茂田正和)

ディナーの席では、山崎さんの作品のひとつでもあるピッチャーを使用。飾るだけでなく使っても良いのだということを伝えるべく、日常に溶け込むアートの取り入れ方を提案する意図もありました。

コラボレーションプロダクトのボトルは、タギングで描いた山崎さんの詩をエンボスで表現。佐賀の嬉野にある備前吉田焼の窯元が60時間近くかけてオリジナルの型をつくり上げました。また、今回のテーマは生活の中で使われることにも重きを置いていたといいます。

「たとえば、ある人の元では窓辺に置かれていて少しずつ日焼けしていたり、人がたくさん訪れる場所で使われているボトルは、徐々に手垢や汚れが付いていたりする。そうやって経年変化していく様を美しいと捉えることや、そこに新たな価値を見出そうとする姿勢が、OSAJIが考える美しさとリンクしていると思ったんです。僕自身、ものすごくハイブリッドなものづくりができた感覚があるし、数年経ったときにようやく、これで良かったんだと思えるような気がしています」(山崎円城さん)

ゆえに、ボトルには敢えてマットな白色の釉薬を採用し、使っていくうちに発生した汚れも味わいと感じられるような質感を目指しました。ハンドソープのボトルとして使ったあとは、付属のアルミキャップに付け替えることで一輪挿しへと生まれ変わります。それぞれの使い手の元へ旅立っていったボトルがエイジングした姿もいつか見てみたい、と二人は話します。

過去のOSAJI Journalの対談でも、「エイジング=成熟であり、年を重ねて魅力を増すこと」と茂田が語っているように、エイジングとは、本来とてもポジティブな言葉。ほかにも「熟成」のように、素材をおいしくするためのプロセスを意味する場合もあります。
 
一方、日本では「加齢」や「老化」といった意味で多く使われ、美容の世界においてはエイジングという言葉をネガティブに捉え、年に抗って若さを保つという概念が定着しています。世界的にはエイジングはアンチするものではなく、美しく魅力を増すようにコントロールするものなのです。

変化することの魅力、そしてコラボレーションアイテムとしてハンドソープを選んだ理由について、山崎さんは過去の対談で次のように語っています。

「毎日使って、時を経て、物が育っていく。ある意味これって体験の芸術、インスタレーションにも近いというか。生活の中で使ってもらって、言葉と一緒に暮らしてもらうことで、アートが完成する。ボトルに刻んだ『言葉はうつわ、あなたはそれになれる』の通り、人間自身もそうだと思ってます。そんな、ダブルもしくはトリプルミーニングを持ったおもしろいアイテムになったかなと。

汚れた手を洗うためのハンドソープというところで、まさか自分が生きてる時代に戦争が二つも起こるなんて思いもしなかったし『いよいよ世の中が行き詰ってきたな』と日々感じている僕としては、『悪しき何かを洗い浄めましょう』っていうメッセージも浮かんだりしました」

(F.I.B JOURNAL 山崎円城さん×OSAJI ブランドディレクター茂田正和|SPECIAL CROSS TALK〈vol.2〉より一部引用)

ensoでのアーティストディナーを通じて、茂田がこれからやっていきたいと考えていることは、お客様と一緒に「次代の美意識」を見つけていくことだといいます。

「メーカーとして、プロダクトをつくって販売することだけではなくて、もっと根底にある美意識や文化的ビジョンを共有しながら表現していきたいと思っています。今回のエキシビションやイベントのように、互いの美意識を共有すること、それらを表現する場づくりというのは、今後もブランドとしてやっていきたいことのひとつです。

多様な価値観にふれ、これからの時代を担う美意識とは何なのか、ひいては人にとっての幸せとは何なのかを模索しながら一人ひとりが考えていくことで、日本はもっとおもしろい国になれるはず。そう願っています」(OSAJIブランドディレクター 茂田正和)

ボトルに描かれた、“You’re the only one to be the container of your words.”という山崎さんの詩。私を満たすものは何か。なりたいと願うものはあるだろうか。この「言葉のうつわ」にふれるときは、そんなことを自分に問うてみるのも良いかもしれません。


PROFILE

山崎円城

音楽家 / 詩人 / タギングアーティスト

1970年、神奈川県川崎市生まれ。10代より独学で音楽活動を始め、1996年にリトル・クリーチャーズの栗原 務らと組んだユニット、Noise On Trashでデビュー。2003年、ファッション誌「Commons & sense」とのコラボレーションをきっかけにF.I.B JOURNALとしての活動を開始、”ジャズパンク”と称される作品を多数発表している。音楽活動のかたわら、詩人としてこれまでに2冊の詩集を発表、現在3冊目を制作中。「好きな言葉の共有」を目的に不定期に開催される朗読会「BOOKWORM」の主宰も務める。また、アーティストとしてグラフィティアートのいち手法とされる「ダギング・カリフラフィー」の制作と発表にも情熱を注いでおり、2022年より3年続けて『galerie-a』(東京・南青山)にて個展を開催、ファッションブランドとのコラボレーションも多い。


茂田正和

株式会社OSAJI 代表取締役 / OSAJIブランドディレクター

音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI(オサジ)』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJIkako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。202429日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。
https://shigetanoreizouko.com/


F.I.B JOURNAL

国内屈指のポエトリージャズバンド。2003年に山崎円城のソロプロジェクトとして始まり、2005年よりEGO-WRAPPIN’のサポートベーシストとして活動する真船勝博、ドラマーの沼 直也が加入、トリオ編成に。現在までにトリオ編成で5枚、オーケストラ編成で1枚、音楽ユニットTICAの武田カオリをボーカルに迎えて1枚の計7枚のアルバムを発表。近作は、過去の楽曲のフレーズの一部をサンプリング・コラージュして再構築した「This is GHOST」(23年秋に配信プラットフォームでリリース)。タギングアートによるアートワークを山崎自身が手がけた。2024年11月20日に最新アルバム『現象 hyphenated』を配信リリース、その後、2025年4月12日にはLPをリリースする。
http://fib-journal.net


〈Product〉

【LIMITED】
OSAJI -Madoki Yamasaki Limited Hand Wash
“言葉のうつわ”
300mL / ¥14,300(税込)

“You’re the only one to be the container of your words.”
-言葉は器、あなたはそれになれる-

山崎円城氏がボトルに書き込んだその詩を、嬉野焼の窯元にて磁器に掘り起こした作品。そこに茂田がこれまでのパラダイムを洗い流し、新たなパラダイムを迎える意を込め処方したハンドソープを満たしました。エディション・ナンバーを一本ずつ入れて、300本限定で販売いたします。磁器ボトルには真っ白なシルクマイカ釉薬を使用。使い込むプロセスで発生した汚れも味わいと捉え、手に取った一人ひとりの人生に寄り添うデザインです。使用後は付属のアルミキャップに付け替えると一輪挿しへと生まれ変わります。


photo:Kotone Ueda
text:Haruka Inoue

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