▼くすみのない澄んだ肌を保つ鍵はターンオーバーとphの関係性にあり?

この時期になると「なんとなく顔色が冴えない感じがする」という声が増えます。その理由の1つは、角質肥厚によるくすみ感です。角質肥厚とは、本来ターンオーバーによって剥がれ落ちるはずの古い角質が肌に残って積みか重なり、角質層の厚みが増してしまった状態のこと。特にこのくすみ感と同時にゴワつきなども感じると、化粧品が好きな人は「角質を取り除くアイテムを投入しようかな」という結論に至りがちです。しかしながら角質を取り除くケアは、1歩間違うと肌を敏感にしてしまうという落とし穴もあります。なぜ角質肥厚が起こるのか、そして皮膚科学的な観点からくすみ感を防ぐのに望ましいケアについて今回はご説明しましょう。



乾燥すると角質が厚くなるのは、誰の肌にも起こる生理学的機能。

人の肌に備わっているバリア機能は、環境の変化に対して最前線で体内を危機から守るという重要な役割を担っています。冬の到来で肌が乾燥した空気に接する時間が長くなるほど、それまでと比べて水分が蒸発しやすくなります。そのような水分の蒸発の高まりが体にとって危機的な状況と判断された場合、生理学的機能として角質が肥厚するようになります。つまり、壁を厚くして内部の水分がこれ以上漏れないよう守りを固めるイメージです。生命の維持という観点からすればこれは正しい反応なのですが、美容の観点からすればデメリットでしかありません。角質は本来グレイがかった色をしているため、角質層の厚みが増すほど、肌がくすんだ印象に見えてしまうのです。


ピーリングやスクラブなどの角質ケアは本当に必要?

もともと摩擦に弱い敏感肌の方を除いて、女性は肌のくすみやゴワつきといった角質肥厚を感じると、ピーリングやスクラブ、ゴマージュといった角質除去(エクスフォリエーション)アイテムを使ってみたくなる方が多いと思います。セロテープを肌に貼り付けて剥がした時、確かにその部分は角層が取り除かれて1トーン明るく見えます。しかし、無理に角層を剥がしてしまったその部分は、外からの異物をブロックするバリア機能を人為的に弱めてしまったことにもなります。それと同じように、角質を剥がしたり擦り落とすケアというのは、自己流で行うと時にバリア機能にダメージを与えてしまうことがあるのです。

例えばですが、乾燥によって角質層が20層の厚みになったとして、肌のバリア機能にダメージを与えないよう5層だけを均一に剥がす、ということがお家でのスキンケアで確実にできるかというと、至難のわざだと思います。クリニックでは、シミを薄くする目的などで薬剤を使ったピーリングが行われており、これはあえてターンオーバーを進めてリセットする治療ですが、バリア機能へのダメージを抑えるために必ず医師がアフターケアの指導をします。


角質の肥厚を止めるには2つの条件を揃える必要が。


お家でのスキンケアで角質肥厚を防ぎ、適正な状態へと導くには、無理に角質を取り除く必要はありません。実は2つの条件を揃えるだけでOKなのです。1つ目の条件は、保湿を徹底すること。2つ目の条件は、肌のpH値を弱酸性に保つことです。

今回は2つ目の、肌のpH値を弱酸性に保つことについて、より詳しくお話しします。肌はpH値が弱酸性の時に古くなった角質を脱落させる酵素が働き、新しい角質が上がってくるようになっています。このpH値が弱酸性からアルカリ性のほうへ傾いてしまうと、ターンオーバーが乱れてより角質肥厚が起こりやすくなります。

肌表面を弱酸性に保つには、皮膚常在菌の中でも美肌菌と呼ばれる表皮ブドウ球菌の働きが必須です。表皮ブドウ球菌は皮脂を分解し、保湿成分であるグリセリンと短鎖脂肪酸をつくり出すのですが、この短鎖脂肪酸が肌のpH値を弱酸性に整えてくれています。一方でpH値がアルカリ性のほうへ傾いてしまう原因は、悪玉菌と呼ばれる黄色ブドウ球菌の増殖です。つまり健やかな肌のターンオーバーは、この悪玉菌の増殖を抑え、肌表面の環境をつねに弱酸性に整えることで保たれるといっても過言ではありません。


外的要因で変動するpHを小まめに弱酸性に戻して。

肌にとって悪玉菌である黄色ブドウ球菌の増殖を誘発する大きな要因の1つに、汗があります。汗そのものは弱酸性なのですが、肌の上に残っているとpH値をアルカリ性のほうに傾けるアンモニアを発生させます。秋冬は汗の分泌が減る季節ではありますが、それでも肌はつねに微量の汗に触れています。そのため、弱酸性のミスト化粧水などで小まめに肌表面を弱酸性にコントロールすることが、ひいては角質肥厚を防ぐことにつながります。もちろん、より透明感のある肌を目指すには、保湿を徹底して水分が蒸発しにくい角質層をキープし、肌表面を弱酸性に保つ、この両輪を意識してください。そして自分が使っている化粧品のpH値を知っておくことも大事です。化粧品カウンターなどで教えてもらえると思うので、1度聞いてみるのも良いと思いますよ。


※こちらは2021年に収録した、OSAJIディレクター茂田正和による皮膚科学に基づいた解説のアーカイブです。


PROFILE

茂田正和

株式会社OSAJI 代表取締役 / OSAJIブランドディレクター

音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香-」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJI、kako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。2024年2月9日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。


interview : Kumiko Ishizuka

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