▼「循環する豊かさ」が生まれる場所。耕作放棄地が紡ぐ、化粧品づくりの未来。| SPECIAL REPORT〈vol.2〉

OSAJI ブランドディレクター 茂田正和が、化粧品を通じて社会の課題に取り組んでいるプロジェクトの一環として、今年から群馬県・みなかみ町でスタートした、ひまわりの栽培。種からオイルを抽出し、最終的にヘアオイルとしてかたちにすることを目指しています。
自給にフォーカスし、ゼロからものづくりを完結させるこのプロジェクトを通じて、茂田が伝えたい想いとは?今回のSPECIAL REPORTでは、そのプロジェクトの“スタート編”として、舞台裏をお届けします。
地元の課題を資源に変える。使われていかなった畑の活用。


—ひまわり畑がある、みなかみ町の農業事情はどういった感じなのでしょうか。
全国的に、法律上は農地であっても農地として使われていない「耕作放棄地」がすごくたくさんあります。みなかみも例外ではありません。仮に農業をできる耕作放棄地があっても、多くの農家さんは、かなりご年配になっているので、担い手がいない。人不足の問題が横たわっています。
一昨年、僕たちがひまわりの作付けを一度試したとき、周辺の高齢の農家の方々から「うちの畑も使って!」という声をかけていただきました。その結果、畑は六反にまで広がり、今年は見渡す限りのひまわり畑!という感じになりそうです。
一方で、福祉人材は仕事不足で困っているという実情もあります。仕事を得られたとしても、本当にお小遣い程度の収入だったり…。国としては「農福連携」「耕作放棄地活用」のための補助金制度を用意はしているんです。ただみんな“点”でやろうとするので、全員の利益に繋がるように上手く回っていないんです。
だからこそ、経済がちゃんと循環して続いていくように、世の中の困りごとや困っている人を全部結んでいく仕組みをつくっていくことが大切。「この指とまれ」と旗を上げる人がいれば、意外とシンプルに動き出せるのではないかと。このプロジェクトは、そんな呼びかけの役割も担っています。
今年は、4月に種を植え、5月に芽が出始めたところです。ひまわりが一斉に咲いている光景を見られるのは、8月。そして秋口、9月ぐらいになると花が枯れるので、オイルを圧搾するための種を収穫できます。現地で作業するのは、レタス農家であり冬はスノーボードのインストラクターをしている昔からの知人や、OSAJIのローソープ(半熟石けん)の企画開発アドバイザーだった町田さんたち。信頼できるメンバーが、農業班として畑を守ってくれています。

ひまわりが地域の暮らしや、化粧品づくりにもたらす価値。

—いろいろな植物がある中で、ひまわりを選ばれたのはなぜですか。
いちばんの理由としては、将来的に福祉と連携することを考えたとき、障がいのある方も作業しやすいのは、種の収穫がしやすいひまわりかなと。ヘアオイルに使うなら、菜の花を植えて菜種オイルも候補に挙がりましたが、菜の花の種はものすごく小さく、収穫には綿密な作業が必要になります。
その点、ひまわりの種は大きいので収穫がしやすい。子ども達の収穫体験にも良いですよね。それに、ひまわりが咲き誇る六反の畑の連なりは、なかなか圧巻の光景で。夏の観光スポットとしても貢献できるかなと。
ひまわりオイルは、化粧品への採用実績のある原料というのも今回選んだ理由です。テクスチャはほど良く重く、さらっとしたテクスチャのオイルより髪にまとまり感が出しやすいので、保湿だけでなくスタイリング力も期待できます。もちろん、収穫したオイルは食用にも使うことができますよ。ひまわりオイルの風味って、料理にもわりと使いやすいんです。

自社で搾油場を設けて、地域循環を生む構想も。
—栽培から取り組んで、あらためて“自給率”に対しての学びや気づきを得るべく生まれたプロジェクトなのですね。
OSAJIは現在、国産原料の自給率を上げるべく米ぬかオイルも積極的に採用しています。今回のプロジェクトでは、ひまわりオイルの搾油工程のみ外部委託をしていますが、いずれは自社で搾油場を持ちたいと思っています。
そうなれば、近隣の米農家さんが精米後に捨てるしかなかった米ぬかを持ち込み、それを僕らが買い取って搾油するという地域との循環が可能になります。みなかみには「眠れるリソース」がまだまだたくさんあるんです。
最近では、僕の友人の一人が、山ぶどうから美味しいワインをつくろうとしています。本来、ワイン用ぶどうの栽培には、水はけの良い斜面が必要ですが、みなかみには残念ながらそういう土地がすごく少ないんです。ただそれを逆手にとって、平坦地で栽培できる山ぶどうからワインを醸造しようという試みです。
地方には、少し視点を変えるだけで多くの可能性が眠っている。好奇心と行動力があれば、まだまだ可能性は無限大です。
大切なのは、化粧品の土台となる原料自給の道を拓くこと。

—今後、新しい植物や機能性成分の栽培に挑戦する予定はありますか?
今の段階では、ないですね。確かに日本のメーカーは、抗酸化成分のような付加価値の高い機能性成分をつくることに力を注ぐところがわりと多いです。でも、化粧品づくりにおいて、そういった成分が製品全体に占める割合は1割程度。仮に輸入が急に止まっても、大打撃にはなりません。
一方で、オイルのような基材は、多くの化粧品の7割〜9割を占めます。ここが枯渇する方が圧倒的に困る。つまり、日常になきゃ困るインフラ的な存在なんです。だからこそ「輸入に頼らず自分達でつくろうとしていかなきゃ」というのがこのプロジェクトの主たる目的です。
例えば、年間何十万トンものパーム油がマレーシアから日本に輸入されていますが、少しでも国内自給に切り替えていくのが急務です。これだけ温暖化が進んだら、数年後には、鹿児島や奄美大島あたりでパーム油を自分達でつくれちゃうかもしれないですし。
—温暖化の話が出ましたが、ひまわりの開花率はいかがでしょうか。
今年の気象状況にもよりますが、7月上旬に開花、8月には満開となりました。果たして六反のひまわり畑からどれくらいのひまわりオイルができるのか。昨年は、4反の畑から、食用ひまわりオイルを試作し、4リットルほどの抽出量でした。
「ヘアオイルをつくるなら、もうちょっと増やさないとね」という話になり、今年は改良を加えています。もちろん、完成するヘアオイルは数量限定販売になると思いますが、原料づくりから商品完成までの全肯定も含めて、そのプロセスそのものを楽しみにしていただけたらと思います。
次回に続きます。

茂田正和
株式会社OSAJI 代表取締役 / OSAJIブランドディレクター
音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI(オサジ)』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香–」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJI、kako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。2024年2月9日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。
https://osaji.net/
https://shigetanoreizouko.com/
text:Kumiko Ishizuka