▼ひまわり栽培を、既存の農業のイメージの枠を拡げて進化させる呼び水に| SPECIAL REPORT〈番外編 前編〉

OSAJI ブランドディレクター 茂田正和が、化粧品を通じて社会課題に向き合う取り組みの一環として、群馬県・みなかみ町でスタートした、ひまわりの栽培。種からオイルを抽出し、最終的にヘアオイルとしてかたちにすることを目指しています。

今回は、“耕作放棄地をものづくりのためのひまわり畑として再生する”という計画に賛同し、畑を管理してくれている仲間、農家とスノーボードインストラクターを兼業している林英汰さんにお話を聞きました。みなかみ町の現状やひまわり栽培に関するリアルな声とともに、現代の社会的潮流を捉えた林さんのワークスタイルにもご注目ください。



地域の特性と響き合う、農業のかたちを模索して。


—まずは林さんの自己紹介、このプロジェクトに参加するまでの経緯をお聞かせください。

林英汰さん(以下、林さん)
はい。群馬県の昭和村でレタス農家をやっています。先祖代々続く農家の仕事に就いて今年で6年目になりますが、数年前、まだ農業というものに少し不安を抱いていた頃に茂田さんと出会いました。

茂田正和(以下、茂田)
出会ってすぐ、群馬に帰郷する前の林くんは、東京のライブハウスで音響の仕事をしていたと聞いて、僕と同じような道を通ってここに至っていることに意気投合したというか。そんな縁から、みなかみでひまわり畑の管理面をお願いすることになったわけだけど、夏はレタス農家、冬はスノーボードのインストラクターっていうユニークな働き方も、今日は紹介できたらと思って。

林さん
ありがとうございます。プロジェクトがスタートする前から、何か一緒にできたらと声をかけてくださって、参画する形となりました。 農家のほかにスノーボードのインストラクター、それからアグリツーリズム*のための貸し宿の運営や体験の引率などもやっています。

既存の農業の在り方だけだと、それなりの制約を感じていた中で、どんな風に広がりの可能性を見出し、伸ばしていくかといったところで悩んでいた時、ちょうど茂田さんからプロジェクトに声をかけていただいた感じです。

*農山村や農場など自然の豊かな場所に滞在し、農業体験をはじめ周囲の環境や文化、地域に住む人々との交流を楽しむ、観光と農業を融合させた旅行スタイル。

茂田
もう8年前ぐらいかな?“東京一極集中人口をなんとかしなきゃいけない”という総務省の命題のもと、僕の仲間の一人がみなかみの町役場と組んで、廃園になった幼稚園をコワーキングスペースにしようと動いていて。当時のみなかみは、新幹線で東京から1時間ちょいで着くというアクセスの良さのわりに、どんどん過疎が進んでいたんだよね。ただ、コワーキングスペースをつくるだけでは人の流入は生まれない。その課題に向き合うため、群馬出身の僕に声がかかりました。

それで、みなかみの町役場と意見交換をし、ユネスコエコパークに認定されたみなかみを案内してもらって。絶滅危惧種のイヌワシやクマタカの生息地でもあり、植物や生物の多様性豊かなすごく素晴らしい地域だと再認識して、環境と人の生活が共存する地域づくりを手伝いたい、という気持ちになりました。


精油の蒸留所をきっかけに広がった、原料栽培への道。


茂田
その後、みなかみの中にある、竹細工とか紙漉き、染物みたいな伝統的な手仕事体験ができるたくみの里の一角のパン屋さんの跡地を、僕らにぜひ使って欲しいという依頼が来て。里山は東京ドーム約70個分(約330ha)もの広大な敷地が広がっていて、猿ヶ京温泉もあったりして、体験工房の建物は築数百年の木造建築を手入れしながら使っているという。ただここも人の流入がそんなに多くはないから、精油の蒸留所にしようとなって。そこから発展して、原料となる植物の調達はどうするか、実際に誰が蒸留の作業をするのか、みたいなことで人材探しが始まって。

林さん
そうですね。それで、知人を通じて茂田さんと繋がれました。

茂田
そうそう、それで夏はレタス農家、冬はスノーボードインストラクターをしている若者、その好奇心旺盛さが良いなと思って。みなかみでの農業から化粧品原料の可能性を追求する第一歩を、共に歩んでくれる仲間を探してるところだったから、「一緒にやろうよ」と声をかけたんだよね。

そうこうしているうちに、またみなかみの町役場から、今度は中学校が持っていた受験合宿やスキー合宿に使われていた白樺荘という場所の活用について相談があって。そこも、少子高齢化や受験スタイルの変化でもう使われなくなっているのに、管理維持費だけがかかっていると。町役場に返還するにしても、ほかにもそういう遊休施設みたいなのがたくさんある状況で、役場としても手に負えなくなっていることから「茂田さん、譲り受けてくれませんか」と。

ならば、そこを拠点にいよいよ原料の栽培をスタートしてみようと思って。白樺荘の裏には耕作放棄地が二反あったから、そこを畑として借り、林くんと一緒にいろいろなハーブを育て始めたんだよね。福岡の八女市でベチバーを栽培している方から株を譲ってもらって、みなかみの気候で果たしてベチバーは育つのか、チャレンジしてみたり。

林さん
ベチバーの株は、今も順調に増えてますよね。

茂田
その後、たくみの里の蒸留所の周辺も、耕作放棄とまではいかないけれど、持ち主が高齢でもう世話をするのが厳しいからっていう声が結構あって、僕らが畑をやることに。

林さん
面積でいうと、白樺荘の裏の畑は二反弱くらいで、たくみの里の周辺はおよそ一反五畝ですね。今は、全体で三反ぐらいの畑のお世話をしています。

茂田
畑は、林くんと林くんの奥さんで見てくれていて。「あれをやってみたいな、次はこれをやってみたいな」という僕のわがままに付き合ってくれています(笑)


ひまわり栽培で、既存の農業の在り方をアップデート。

林さん
ひまわり栽培は、一昨年に思っていたよりも量を確保できたので。ヘアオイルのプロジェクトが本格始動した昨年春の植え付けの際は、僕もちょっぴり興奮気味に挑みました。基本的にひまわり畑の世話は二人でやっていますが、春の植え付け時期と秋の収穫時期に人手を増やす必要があるくらいで、夏場にすることは草の管理くらい。しかも、花の生育が旺盛であれば草の管理もそんなに必要ないんです。なので、畑の場所がやや分散していたとしても、最大で現在の5倍くらい、十五反くらいの見られるかもしれません。


—このプロジェクトに誘われた時の、率直な感想みたいなのも教えてもらえますか?

林さん
はい。以前から、茂田さんが化粧品原料を作りたいとおっしゃっているのは聞いてたので。一緒にやろうと声をかけていただいた時は、自分たちがやっている農業と化粧品が繋がることに喜びを感じました。

先ほど農業に少し不安を感じていたという話をしましたが、農業は大規模にやればやっただけ効率が上がります。ただ、どうしても地理的な条件、畑の形など、その地域で栽培できるものや農業のスタイルは、限定されてしまうところがある。そういった中で、どういう試行錯誤を重ねたら、農業を豊かにしていけるのかなって悩んでいたのですが、このプロジェクトへの参加で農業の可能性の広がりが感じられました。


—林さんの周りの方や現地の方の反応、何か耳に入ってきたりすることはありますか?

林さん
ひまわりが咲くと景観が一変し、華やかになるので、地域の方は開花に向けて何かと気にかけてくださっているのを感じています。なので、たくみの里のやや奥まったところにある畑は、もう少し見えやすくなったら7月からの開花の時期には観光として寄ってくれる方が増えそうだなと思っています。

あとは、もともと僕らは野菜専門のいち農家で、周辺もそういった人がほとんどという環境の中で、化粧品原料のためのひまわり栽培という、ちょっと違うことやっているのが気になって声をかけてくれる、みたいなこともあります。

そしてこの白樺荘の運営に関しては、地域の方で働きに来てくれるスタッフさんもいます。そういったことから、地域ならではの、地元の情報交換の場にも少しずつなってきていますね。総じて、非常に良好な雰囲気というか、良い印象を持ってもらえているのはほっとしましたし、こういった輪を徐々に広げていきたいと思っています。


農業から広がる、新しいサービスの芽。


—レタス農家を営みながらひまわり畑のお世話をして、冬にはスノーボードインストラクターとして活躍と、結果的に1年中大忙しなのでは?

林さん
まあ、そうですね。ただ、レタス栽培に関しては一緒に働くメンバーもいますし、海外の実習生の子もいるので、協力しながら進められています。あとは、こういった僕の動きを、レタス農家の社長がとても理解してくれているのもありがたいです。

このプロジェクトに参加したことで、農業から大きく発展していくものを作れたら、という気持ちが自分の中で定まってきました。一つの関わりとしては、今回のプロジェクトをはじめとする製品づくり。そしてもう一つは、この白樺荘の運営をはじめとした、農業という側面からさまざまに分岐していくサービス。これらのプロセスに立ち会えるのは非常に興味深くて、繁忙期は確かに大変ですが楽しんで取り組めています。

茂田
あと林くんのスノーボードは、Instagramとか見ても本当に凄い。さすがプロだなと。

林さん
ありがとうございます。プロといっても、皆さんがよくイメージする競技の方ではなくて、インストラクター、指導者としてのコンテストとかに出てるプロ、というのが一番しっくりくると思います。僕がやっているのは、雪山を楽しむための滑る技術、という感じですね。

それとスノーボードっていろんな素材で作られているのですが、石油由来の素材でつくられているものなどもある中で、僕はナチュラルな素材でスノーボードを作っているイタリアのメーカーに乗らせてくださいと連絡して、快諾していただけたので今年はそのボードで活動するのも楽しみです。

茂田
そんなフットワークの良さも含めて、魅力的な働き方だよね。農業のプレイヤーって本当に増えない現状があるけれど、レタス栽培もひまわり栽培も冬にはほぼやるべきことがないから、スノーボードのインストラクターとしてバリバリ活躍できる。

そして農業も、食のための作物を栽培するだけじゃなく、化粧品の原料も栽培して、パラレルでやっていくというのが農業の新しい在り方になっていったら。それって、農業としてのリスクを分散させることになるんじゃいかな、なんて僕は思ったりしてます。

後編へ続きます。


PROFILE

林英汰

群馬県昭和村出身。祖父の代から続く農家に就農し、レタス栽培に従事。冬季はスノーボードインストラクターとして活動するほか、アグリツーリズムのための貸し宿の運営や体験プログラムの引率など、地域資源を生かした多角的な取り組みを行う。みなかみ町では耕作放棄地の再生プロジェクトに参画し、ひまわり栽培の管理を担いながら、農業の新たな可能性を模索している。


茂田正和

株式会社OSAJI 代表取締役 / OSAJIブランドディレクター

音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI(オサジ)』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJIkako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。202429日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。
https://osaji.net/
https://shigetanoreizouko.com/


text:Kumiko Ishizuka

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