▼搾油量を増やす工夫や地域との繋がりづくりなど、農業派生のクリエイティブ| SPECIAL REPORT〈番外編 後編〉
化粧品を通じて社会の課題に取り組むプロジェクトの一環として、群馬県・みなかみ町で始まったひまわりの栽培。種からオイルを抽出し、最終的にヘアオイルとしてかたちにすることを目指しています。
昨年からスタートし、栽培を重ねる中で見えてきた手応えと課題、そして次の一歩に向けた具体的な取り組みが少しずつ形になり始めています。搾油量を高めるための試行錯誤や収穫後のプロセスの見直し、地域との関わりの広がりなど、そして現場ではさまざまな挑戦が続いています。
〈番外編 前編〉に引き続き、畑を管理する林英汰さんとともに、プロジェクトの現在地とこれからの展望を丁寧にたどります。
レタス栽培に見る、連作が抱えるメリットとデメリット。

—林さんの本業であるレタス栽培と比べて、ひまわり栽培にかかる手間ひまはかなり違うのでしょうか。
林英汰さん(以下、林さん)
そうですね。植えてから収穫までの1回転が6ヶ月ほど、比較的長い時間、畑に置いておけるので経費等もさほどかかりません。レタスに関しては、40〜50日で一回転なので、年に2回、3回と収穫する場合には資材や人手など、経費が結構かかってきます。
茂田正和(以下、茂田)
連作できる効率の良さの背後には、そういったリスクもあるんだね。
林さん
そうなんです。いわゆる粗利や、限界利益*というところでの圧迫はどうしても出ちゃいます。
*売上高から、材料費などの変動費のみを引いた、商品そのものの儲けのこと。
茂田
ひまわり栽培を年2回、という可能性はありだと思う?
林さん
もう少し南の地域に畑を持てたら、可能かもしれないなと思います。植える時期を工夫することで…なんてことも考えたりはしますが、みなかみの気候だと今のところちょっと不安を拭いきれないところです。
茂田
みなかみの気候条件だと、どういうものが栽培しやすい?
林さん
夏場の平地では、暑くてなかなか栽培できない野菜は、みなかみだと品質良く育てられると思います。レタスなどの葉物野菜、果樹だとリンゴとかは栽培しているところが多いですね。果樹は、寒暖差がしっかり確保できることが大事で。ハーブに関しては、夏場もドライでカラッとしたところで良く育つような、ラベンダーあたりは向いています。ゼラニウムも試しましたが、夏場はしっかり生育してくれたものの、寒さに弱く冬を越せないのが難しいなと。
茂田
確かに、暖かい地域でよく栽培されるレモングラスも、育ちはしたけど香りが弱い印象があったよね。
林さん
レモングラスは、冬に一回休眠してまた夏に育つ品種ですが、寒さの厳しい真冬を越すのは難しい感じでした。そういった意味で、福岡からやってきたベチバーはとても元気に増えていて、寒さにも強い品種ですね。
昨年度の栽培を振り返って。すべての経験が今年度の糧に。


—2025年のひまわり栽培が終わったところで、林さんなりの総括を伺いたいです。
林さん
前々回の記事にもありましたが、種を播いて間もなく双葉を鳥についばまれてしまったのが残念でした。結果、最も生育の良い時期のひまわりの収穫量が減り、歩留まり*を落とす要因になってしまいました。一昨年にはそういった被害がほとんど見られなかったので、夏の生育に良い影響があるかもしれないと早目に種を播いたことが裏目に…。どうも春にみなかみを訪れる渡り鳥のような鳥たちに突かれてしまったようでした。ただ、一昨年は一昨年で、暴風雨や夕立でひまわりが倒れて収穫量が減ったという経緯があって、昨年はそういったことが少なかったのは良かったです。
*製造など生産全般における、投入した原料(素材)の量から期待される生産量に対し、実際に得られた製品生産数(量)比率のこと。
茂田
ああ、ここも改善できそうだなというポイントは尽きないよね。
林さん
収率においても、ありますね。収穫したひまわりの量に対し、だいたい30〜40%の油を抽出できたら最高レベルに到達したと言えそうですが、今年に関しては23%くらいでした。とはいえ、一昨年は約10%だったので、順調に上がっているデータが取れています。これについては、ひまわりの収穫タイミングと、収穫後の乾かしが要因かなと踏んでいます。
茂田
確かに。収穫後のプロセスは一昨年より向上したよね。

林さん
一昨年は地面に並べ、どちらかというと一時保管くらいのつもりで乾かしましたが、それによってカビが発生し使えなくなったものもあって。今回は、収穫後にネットの上に並べて乾かす時間を取ったので、そこの違いが収率に反映されたのかなと。今年はさらに上を目指したいですね。
茂田
品種選びや栽培する上での工夫次第で、種に含まれる油の含有量がより増える可能性があるよね。あとは、搾油する前に蒸すことで油分の動きが活発になって、取れる油の量が増えるといったアプローチもあるよね。
林さん
栽培する上での工夫は、今回の収穫分で試してみたのですが、油かすや魚の骨粉が入った有機肥料を土に混ぜてみました。その区画に関しては、若干ですが花の生育が良かったのと、鳥についばまれることもなかったんです。有機肥料の匂いがちょっと強いので、鳥が忌避したのではないかと予測しています。
畑に関連する要素は複雑多岐なので、肌感覚ではありますが、感触の良かったものはなるべく今後も取り入れたいと思っています。ひまわりの品種に関しては、オレイン酸を豊富に含むというハイオレック種を主に使っていますが、みなかみのように冬の寒さが厳しい山間地だと、夏場により花の活力が強くなる感じがします。これは本当に僕の体感ではありますが、生育の勢いって、周りの雑草を見てもよくわかるんです。
茂田
初秋の収穫が終わったらそこから畑はお休みで、冬の間に土がしっかり寝るといったことも影響していそうだよね。
林さん
はい。そのほかの可能性としては、春播き(5月頃)専用の「春りん蔵」という品種に対し、夏播き(8月頃)専用の「夏りん蔵」という品種があって。晩夏に生育して秋に収穫するという、この夏りん蔵を栽培してみて、データを取ってみるのはどうかな、と思っていたりします。
茂田
なるほど、それは試してみたいね。


茂田
収穫後に種をバーベキュー網にこすりつけて落とすあの方法は、どこから得たの?
林さん
種を効率的に取る方法はないかなとWEBで検索していて、ああいったアイディアでやっている方を見つけたんです。それで僕たちも今回やってみたわけですが、「こんなにスムーズに取れるのか」と驚きましたね。ひまわりの乾燥具合がちょうど良かったのも、きれいに種だけを取るポイントだなと思いました。乾燥し過ぎても、萼の部分など不要なごみまで入ってきちゃうので。
茂田
きれいに種が取れるあの瞬間は、なかなか気持ちいいよね。
目指したいのは、収穫量や質の向上、そして地域活性も。

—林さんの中で、このプロジェクトにおける今後のビジョンがあれば、ぜひ聞かせてください。
林さん
昨年のように、早い時期から畑に種を播くと発芽してすぐ鳥に突かれてしまうリスクがあるので、今年の改善点としては一週間くらいポットで育苗してから、それを植え付けるということをやってみるつもりです。手間は変わらないけれど、その方が一帯の圃場(ほじょう)*に対する歩留まりや、ひまわりの揃いも良くなる気がしています。
*ある一定の地域やエリア内に広がる農作物の栽培場所(田んぼ、畑、果樹園、牧草地など)のこと。
茂田
鳥がやって来ない場所でまずはポットで発芽までさせて、それから植え替えるってことだよね。
林さん
そうです。あとは堆肥の活用ですね。有機肥料をあらかじめ土に混ぜておくことで初期生育を促し、花にもより力が入って、結果的に抽出した油の成分にも変化が出るかどうか、というところまで検証してみたいです。
長期的なビジョンとしては、こうした栽培プロセスにおける実験と、規模の拡大を繰り返していきたいです。その一つとして、白樺荘の裏の畑は傾斜になっているので、徐々にひまわりを植える範囲を増やしてひまわりの段々畑ができたら面白いな、とか。
茂田
いいね。今年の植え付け予定はいつ頃に?
林さん
4月の最終週から5月いっぱいで考えていますが、試験的にもう少し夏場に差しかかった、6月頭あたりに別の品種を播いたらどういった違いが出るのか、トライしたいですね。

茂田
拡大というところでは、農地を持て余して困っている農家さんがいないか、改めて町役場に聞いてみたりね。それと、障がい者福祉とひまわり栽培を連携させる可能性も深めていきたくて。いずれは社会福祉作業所の課外就労というかたちで参加してもらえたら良いなあという想いが前々からあるので、そのためにもまずは今年、収穫体験の場を設けられたら。
林さん
そうですね。今年は、地域の福祉に関わる方ともお話しできたら。
茂田
ひまわりの収穫や種を取るプロセスは、福祉に関わる方が作業に当たれる範囲がかなり広いよね。みなかみの社会福祉作業所との意見交換も折に触れて続けているんだけど、僕ら化粧品メーカーが関わった人たちに敬意を込めてちゃんと付加価値をつけることができて、将来的に就労や生活に十分な収入に繋げられたら、どちらかに無理を強いるのではない、ちゃんとWIN-WINの関係だなって。
とはいえ、このプロジェクトから派生するそういう活動も、誰か一人がきっかけとなってくれないことには何も生まれていかない。だから林くんがやりたいですって手を挙げてくれることが本当にありがたいし、一連の動きを楽しんでくれているのが何よりもうれしいです。今年もよろしくお願いします!

PROFILE
林英汰
群馬県昭和村出身。祖父の代から続く農家に就農し、レタス栽培に従事。冬季はスノーボードインストラクターとして活動するほか、アグリツーリズムのための貸し宿の運営や体験プログラムの引率など、地域資源を生かした多角的な取り組みを行う。みなかみ町では耕作放棄地の再生プロジェクトに参画し、ひまわり栽培の管理を担いながら、農業の新たな可能性を模索している。
茂田正和
株式会社OSAJI 代表取締役 / OSAJIブランドディレクター
音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI(オサジ)』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香–」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJI、kako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。2024年2月9日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。
https://osaji.net/
https://shigetanoreizouko.com/
text:Kumiko Ishizuka