▼火を灯し、香りと暮らす。 | 第5回
お匙 京都〈Scent Lab|香りを醸す部屋〉のオープンに際して、線香作りのワークショップをご用意しました。
お家で、どんな空気の中で過ごしたいかを想像しながら、香りを選ぶことから始まります。
さらに、手を動かし、かたちにし、没頭する。
そのひとつひとつが、自分の内側にある感覚に触れるための手がかりになります。
体験をよりお楽しみいただくために、今回は線香の奥深さをお伝えできたらと思います。
kako
安藤 明日生
香を焚く文化。

日本における「香を焚く」という行為は、平安時代の貴族文化にその源を見ることができます。
香料を練り固めたものをあたため、衣や手紙に香りを移す。
季節を映し、個性を映し、ときには想いを届ける。
香りは、目に見えないかたちで存在する、ひとつの文化でした。
基本となる調合はありながらも、その配合は決して一様ではなく、それぞれのレシピが受け継がれていました。
ほんのわずかな分量の違いが香りの表情を変え、作り手の感性を静かに映し出します。
〈Scent Lab〉でも、香料の選択から比率までご自身で調整し、オリジナルレシピの線香をかたちにしていただけます。

線香作りの奥行き。

〈Scent Lab〉の線香は、椨粉(タブの木の樹皮を粉末にした天然のつなぎ)を基材に、数種の香原料、水、香料を加えて練り、成形し、乾燥させて仕上げます。
一見シンプルな工程のひとつひとつに、繊細な調整が求められます。
調香は、植物から抽出される精油を主軸としています。
しかし、線香として仕立てる際には、精油は乾燥の過程で揮発しやすかったり、熱によって変質したりすることがあります。
そこで今回は、化学香料も織り交ぜながら、燃焼中から燃えたあとに残るニュアンスまで丁寧に設計しました。

試作の過程で、特に印象的だったのが水分です。
〈Scent Lab〉では、京都お匙の中庭の井戸「桃の井」から湧く水を使用しています。
東京で試作したときよりも、生地はより柔らかく、粘りがしっかりと出ました。
桃の井の湧水は超軟水でミネラル分が少なく、粉への浸透がよりスムーズになるためではないかと推測しています。
その違いに合わせて、水分量を微調整し、扱いやすい状態へと整えました。
料理や飲み物と同じように、土地の水が仕上がりを変える。
そんな当たり前の事実に、あらためて心を動かされた瞬間でした。

家の香り。


このように、自分で調香し、ひとつひとつの原料を重ねて、大切に作った線香は、少し愛おしく感じられます。
おうちに帰ったあと、きっと火を灯すのが楽しみになるはずです。
みなさんは、ご自宅でどんな時間に線香を焚きたいですか。
私は朝。
火を灯すと、細く立ちのぼる煙が揺らぎながら、やがて空間に溶けていく。
夜の気配を残した空気が、すっと澄んでいくように感じられます。
満ちていく香りは、次第に自分の内側にもなじみ、日常の流れを静かに切り替える合図になります。
お持ち帰りいただいたあとも、その香りが日々にそっと寄り添い、あなただけの「家の香り」となっていきますように。

PROFILE
安藤明日生
kako
アロマテラピーや調香について独学で学び、2024年、OSAJIに入社。調香体験スペース〈kako -a scent-〉の運営を経て、現在は事業企画や商品開発に携わる。また、自身のブランド「Lunef」をスタートし、草花木果の力を借りて、空間や人、物に合わせた企画や表現、調香を行う。
kako
自然界に存在するさまざまな素材から抽出されたエッセンシャルオイルは、一滴の差で印象が変わります。時が経っても心地よく寄り添い、日々を豊かなものにしてくれる自分だけの「家の香り」を作りませんか?
kako〈家香〉OSAJI 蔵前店 https://osaji.net/pages/kako
お匙 京都
京都・御所南エリアにOSAJI初となるグローバルコンセプトストア「お匙 京都(オサジ キョウト)」がオープン。江戸時代、日本酒の酒蔵として使われていた京町家を改修した空間。 発酵の文化が息づくこの場所で、 “醸す”というテーマのもと、心身を整える体験をご用意しました。ここでしか出合えない香り、ここでしか味わえない発酵の恵み。 スキンケアを試すだけでなく、 香りをつくり、味わい、五感で楽しむ。 「お匙 京都」は、日々の暮らしに寄り添う“処方”と出合う場所です。
https://www.instagram.com/osaji_kyoto/
〈Scent Lab|香りを醸す部屋〉 https://osajikyoto.stores.jp/reserve/osajikyoto