▼元永彩子さんの偏愛=新しい感情を発見する非日常の作品|第2回
生きることは、愛すること。自分の「偏愛」を見つけられたら、こんなに幸せなことはありません。自分だけの美しさを、そのまま認めて愛していくこと。それが美しく生きるということ。そんなOSAJI JOURNAL的「偏愛ミニコラムリレー」をお届けします。誰にも分からなくてもいい。でも、共有できたらちょっと嬉しい。あの人の偏愛するもの、愛するポイント、いつもの愛で方まで。これを読んでいるあなたにも、その愛をお裾分けします。
▶︎偏愛リレー 第1回|元永彩子さん(アーティスト/イラストレーター)
▶︎推薦人|高村快人さん(クリエイティブディレクター)
▶︎推薦文|「彩子さんの偏愛を聞きたくなったのは、絵がすごく変だから。彩子さんの変なタッチは、僕の好きな“変”。僕にもこう物事を感じる瞬間がある!という変さ。そして、朝まで飲むことが多いので、いつも面白い話を聞いても忘れてしまう。だから、ちゃんとインタビューしてもらいたかったんです(笑)」
●彩子さんについて
「大阪を拠点として、アーティスト・イラストレーターとして活動しています。個展を中心に、企業やブランドのロゴ、イラストを制作しており、平日は大体、アトリエにいます。仕事の合間に、何も考えずに粘土をこねて、オブジェのようなものを作ることもあります。単独行動が好きなので、よく一人で呑みに行きます。行く先々で常連さんと何でもない話をしながら呑むのが好きな時間です」
●彩子さんの偏愛
『新しい感情を発見する非日常の作品』
●愛で方
「昼間の仕事部屋で。映画は毎日一本観るのが習慣になっているので、一日をかけて仕事の合間やご飯中に。本は、本を読む日を決めて、集中して読みます」
●偏愛ポイント
「非日常的なものが好きで、普段生活している時とは違う感覚や感情を刺激される感じがたまらないんです。作品を通して、“人には、まだこんな新しい感情があるんだ”ということを疑似体験できる。そういう新しい感覚を発見する喜びを、日々、偏愛しています。
映画でいうと、一番好きなのが、チェコの映像作家である、ヤン・シュヴァンクマイエルの作品。
彼は、私の偏愛ポイントである“視覚で、触覚や臭覚を感じられる”ということを、そもそもテーマにしています。そのために、映像だけでなく、音もすべて自分でつくっています。
初めて、彼の作品に触れたのは、私が20歳くらいの時。
最初に見たのは、『悦楽共犯者』という、セリフもほぼ無い、音と映像だけの作品。7人ほどいる主人公たちが、各々、自分の悦楽を突き詰めていくという変な映画で、内容もそうですが、とにかくその映像が衝撃的で…。
いまだに、一番好きな映画も『悦楽共犯者』です。
最近観た映画では『ロブスター』も面白かったですね。45日以内にパートナーを見つけられなければ、自ら選んだ動物に変えられてしまうという内容でした。
同じく、視覚でそのほかの感覚が思い起こされるという意味で、安倍公房の作品も好きです。高校生の時に出会いました。
1ページに1時間かかってしまうこともあるくらい、読むのにものすごく時間がかかるのですが、文字の表現から映像をイメージしていくその工程が愛おしい。
その湿度や温度、匂いが、文字から伝わってくるところがたまらなく好きなんです。
幼い頃から変なものに惹かれていて、アートアニメーションが好きでした。
私のイラストは、ヤンの映画みたいに取り立てて変なわけではないけれど、“ちょっと違和感があるもの”を意識はしています。
ただそれ以上に、偏愛作品たちに触れて、日常ではない感覚を味わっている時は単純に嬉しいし、とっても楽しい。
“40年間生きていて、まだこんなに新しい感情があるんだ”と発見する喜びを、1人で味わっている時が、至福の時なんです。
もしかしたら、無意識に日々そういう感情を溜めて、自分の作品を生み出しているのかもしれません」
PROFILE
元永彩子
現代美術家 / イラストレーター
2007 年に京都市立芸術大学/美術学部/構想設計専攻卒業。デザイン会社を経て、2011 年よりドローイングを中心に活動を開始。minä perhonen 京都店や森岡書店 、IDÉE 自由が丘店/六本木店、krank marcello 、高島屋大阪店等で個展を開催。またPASS THE BATONとオリジナルテーブルウェアを制作する等、イラスト制作や企業のVI、近年ではアマムダコタン等のロゴを手がける。