薄く、しなやかで、強い|第1回

本連載の語り手は、京都を拠点として作家作品を紹介する不定期ショップ「好事家 白月」を主宰する内藤恭子さん。

OSAJI JOURNALで毎月お届けするのは、内藤さんが見つけた小さな「奇麗の欠片」。

あなたが暮らしのなかで見つける、小さな綺麗はなんですか?


突然ですが、紙は好きですか?

私は子供の頃から紙が好きで、ノートやメモ帳はもちろん、菓子などの包装紙も捨てずに集めてしまう。

それは今も変わらず、手帳もコロナ禍から復活した日記も紙製。

かさばるという難点はあるけれど、目の前に存在して触れることができ、佇まいも愛でられるという ことに安心感があり、何より美しいと思えるのだ。

デジタルで管理すると便利だけれど、どこか存在感が希薄で、ソフトに管理されるので自分の自由を 制限されたような気分になってしまう。

そこに個性や美しさをさほど見いだせないという面倒臭い自分に我ながら呆れるけれど、触れるって 大事なのよね、私には。

だから紙の中でも好物は、手触りが楽しめるもの。

例えば玉ねぎの薄皮のように薄く、独特のシワのあるオニオンスキンペーパーや、筋入りのクラフト ペーパーなども好んでよく使う。

特に和紙は、一番存在感を感じられるのでとても好きだ。

紙は中国で製法が開発され、日本には5〜6世紀に仏教の伝来とともに製紙技術が伝わったといわれていて、私のような庶民が使うものではなかった。

ちなみに、紙とは「植物繊維などの繊維を絡ませ、薄く平らに成形したもの」。

ペーパーの語源といわれる古代エジプトで作られていたパピルスは、パピルスという水草の芯を薄く 切って重ねて脱水したものだから、厳密にいうと紙ではない。

私の事務所での贅沢な紙といえば、和紙作家のハタノワタルさんにオーダーした私室の襖紙だ。

既製品の襖紙にピンとくるものがなく、探したどり着いたのはワタルさんの手漉き染め和紙だった。

ボケーッと妄想しながら襖を時々眺めるが、20 年余り経ても少しザラリとした風合いと、独特のゆらいだような色のにじみ加減が変わらず美しく見惚れてしまう。

私は「好事家白月」という屋号で不定期ショップの運営を楽しんでいるのだけれど、お付き合いのある作家さんたちの中にも和紙を扱う人がいる。

彼女は書家が練習などで書き終えた和紙を再び解くように溶かし、それを成形して作品を作っている。 陶器に見えた壺が実は紙製で、軽すぎてうっかり落としそうになったっけ。

そんなふうに紙はリサイクルできるし、驚くほど丈夫でもある。

現存する日本最古の紙は奈良の正倉院に収められていて、702 年に使われた戸籍用紙だそうだ。お役所の使っていた薄い紙が、1300 年余りを経ても残っているなんてすごい。

自在に曲がるほど薄くても簡単に破れず、たっぷりと色を吸い、それでいて己の存在感を失うことがない。

私が紙に心惹かれるのは、そういうしなやかさと強さであり、多様な美しさなのかも。 紙のような人に、私はなりたい。


内藤恭子

京都生まれ、京都在住。
編集・ライターが本業で雑誌や書籍の仕事に携わる。

趣味が高じて「好事家 白月」をスタート。

作家作品の展示会やホテルなどの施設にアート作品のコーディネートなども行う。



Instagram: @shirotsuki_kyoto