茶樹に聴く|第3回
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本連載の語り手は、京都を拠点として作家作品を紹介する不定期ショップ「好事家 白月」を主宰する内藤恭子さん。
OSAJI JOURNALで毎月お届けするのは、内藤さんが見つけた小さな「奇麗の欠片」。
あなたが暮らしのなかで見つける、小さな綺麗はなんですか?
春は花粉症が辛いし、眠くて気だるいし、 苦手な季節・・・だったけれど 数年前から、楽しくなった。
理由は、茶作りをするようになったから。
きっかけは、20 年来の付き合いでもある茶人・堀口一子さんが 自作の烏龍茶を飲ませてくれたことだった。 スキッとしていて、土の香りさえも感じられて、何とも清らかな味。 「これが、自分で作れるの?」と、びっくり。
でもまあ、普通は茶葉は買うもので、作りませんよね? そりゃそうです。どうやって作るのかより、 「茶摘みってどこでするの?」と、私も思ったけれど、 昔は農村で家庭用のお茶は自作していたので、 吉野に居る友人に聞いてみると、まさに放置された茶樹があるではないか!
「子供の頃は、夏の初めに番茶を作る手伝いをするのが恒例やった」と、 友人のお母さんに聞きながら、点在する茶樹を回り、初めて茶摘みをして以来 好事家白月のイベントとして、一子さんと茶摘み茶会をしている。
だから、毎年4〜6月になるとソワソワ。 茶葉の成長が気になり、茶摘みがしたくて、気持ちは吉野へ。
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そもそも、煎茶や紅茶、烏龍茶などは同じ茶樹の葉から作られ、 製造工程やそれによる発酵度合いの違いにより、異なる茶が出来上がる。 茶樹も種類があるが、すべてツバキと同じカメリア属なので、 葉の形も実も、ツバキのそれととても良く似て、 最初はヤマツバキと間違えそうになったほど。
私が茶摘みをする吉野の山で育つ茶樹は、私の背丈を超えるものも多く、 好き勝手に枝葉を伸ばしているので、茶摘みは結構大変。 育っている場所も畑の脇だけでなく、川辺や崖っぷちなど 「えー、こんなところ大丈夫かいな」と足場を探りながら、でも、摘む。
茶畑の茶樹は効率よく茶摘みができるよう、背丈や形が整えられているけれど、 人の手を離れればこんなにも大きく、自由に育つのだなあと驚くほどだ。
そうして摘んだ茶葉を乾燥させたり、揉んだり、 焙煎したりして茶に仕立てるのだけれど、 「美味しくなりますように!」と、邪念満載の私に、 「自然のままに、あるがままに」と優しく制した一子さんの言葉に、はっとした。
自然のものですら、つい、人は自分でコントロールしたくなるもの。 だけど、個性があるのが自然であり、それを整えすぎては、 鮮烈な魅力を失ってしまう。 そもそもビジネスでもないし、目的は「味」じゃない。
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今では私にとって茶作りの時間は、大げさに言えば、自分を振り返る時間でもある。
何もかも忘れて無心に茶を摘み、早い山間の日暮れとともに一日が終わると、何だか人間らしいなと実感する。
そんなことを思いながら、 柔らかな薄黄緑色の、スンと伸びた若い芽を眺めると、 発酵し、揉まれ、焙煎され、茶になる工程が、 ふと、人の道のようにも思う。
最後に茶葉は茶色く乾燥し、老人の肌のごとくシワシワに縮んでいるけれど、 だからこそ、風味豊かな黄金色の一杯として味わうことができる。 人生も、そうであれば美しく素敵だ。
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内藤恭子
京都生まれ、京都在住。
編集・ライターが本業で雑誌や書籍の仕事に携わる。
趣味が高じて「好事家 白月」をスタート。
作家作品の展示会やホテルなどの施設にアート作品のコーディネートなども行う。
Instagram: @shirotsuki_kyoto