吉川陽子さん|一生、分からないことだらけ|第2回

OSAJIディレクター・茂田正和が、自身の隠れ家にて「今話したい人」をゲストに迎え、手料理を振る舞いながら、お酒片手に「今話したいこと」を話す、キッチンドランカー企画。

その時間が会話をどこへ運んでいくかは、風まかせ。

茂田とゲストが「感じている今」を、旬の手料理とともに、お届けします。


▶︎今日のゲスト

吉川陽子さん(ヘア&メイクアップ アーティスト)

▶︎今日のキーワード

純粋に“自分が好きなもの”をつくる|その人をどう活かせるか|本質的なプロセスを辿ってアウトプットしたい|仕上がりが最優先|信頼関係が一番必要な行為|今だにずっと分からない|楽しむための努力

▶︎FOOD

日本ハーブでつくるラープ/鯛とそら豆の炊き込みご飯/ハマグリのレモングラス蒸し

茂田正和(以下、茂田)「今日は、日本のハーブでつくるラープをメインに、鯛とそら豆の炊き込みご飯に、ハマグリのレモングラス蒸しを」

吉川陽子(以下、吉川)「パワフルですね!」

茂田「夏が近づいてくると、ご飯のおかずによくラープを作るんですよ」

吉川「ラープって、あまり馴染みがないかもしれません。ラオス料理を日本のハーブでつくっているんですか?」

茂田「そうそう。“アジア全域を一つの国と解釈したらどんな料理が出来上がるか?” というエスニックの再解釈が最近のテーマで。アジアの料理を日本の材料でつくると、それだけで和のテイストが出てくるんです。例えば、バジルとシソは基本的に同じものだけど、気候の違いで風味と味が違うだけだから、今回のラープにはバジルの代わりにシソを入れたり」

吉川「面白いです。そう解釈すると、今までの概念とはちょっと違う料理になってくるんですね。この炊き込みご飯に入っているの、生姜みたいだけど、なんか違いますね…?」

茂田「これは、タイの生姜。同じ生姜でも、タイ産と日本産では、香りや味が全く違うんです。で、さっきのラープとは逆に、和食にアジアの食材を使うのも面白い。そうすると、エスニックの風味が加わって、いつもの和食がまた違うものになるんです」

吉川「本当だ!炊き込みご飯なのに、なんだか、いつもの日本の炊き込みご飯じゃない!」

茂田「アジアの国には醤油や味噌もあって調味料にも共通性があるから、調味料だけ変えてみるのも面白いです」

吉川「美容にとっても、食って、本当に大事ですよね」

茂田「僕は高級な化粧品を使うより、良いもの食べた方がいい、と思っているくらいですから(笑)実際、料理をしていると、美容のヒントがたくさんありますよ」

FOODS ー今日の献立ー


◆日本のハーブでつくったラープ
材料は、砂肝、ベチパー、なつめ、スペアミント、せり、紫蘇、ミツバ、万能ネギ。味付けは、ナンプラーとハチミツ、大唐辛子、スダチ。

「普通はライムを絞るところを、日本のスダチで仕上げてみました」




◆鯛とそら豆の炊き込みご飯
鯛とそら豆をメインに、タイの生姜やトーチー、なつめ、山クラゲ など。

「いろんなものを、入れたいだけ入れました!中国の乾物を集めておくと便利ですよ。干し貝柱とかもそうですが、簡単に出汁が出るし。

アジアスタイルで、ラープと合わせたり、スープと合わせたり、混ぜ混ぜ食べをするのが最高です」

◆ハマグリのレモングラス蒸し
直火で調理してそのままテーブルに出せる“HEGE”のhttps://shop-hege.comで、ハマグリと日本酒をぐつぐつ煮込み、レモングラスを加えて煮込んで出来上がり。

▶︎TALK

一生、分からないことだらけ。

だから、ずっと続けていくのだと思う。

茂田「吉川さん、最近は何をしてますか?」

吉川「最近は、仲良しのカメラマンとスタイリストと3人で、通常のヘアメイクの仕事の合間に作品撮りをしています」

茂田「それ、本当に重要ですよね。純粋なクリエイションをやってないと、分からなくなりますよね。自分の好きなものが何なのか」

吉川「良い仕事をしたいから作品撮りをしている、という感覚です。仕事の現場だとクリエイティブで刺激を受けるけど、自由に発想していく作品撮りも必要だと思うので」

茂田「作品撮りは、どんなふうにやるんですか?何かテーマを決めて?」

吉川「いや、ただ、“その人”に寄せています。“モデルであるその人をどう活かせるか、どこまでいけるか”ということをやってみていますね。3人で、今までの知識総動員で、予算も何も関係なく」

茂田「いいですね〜。僕の場合は、化粧品は感覚的につくるものではないので、クリエーションの自由度は高くないんです。だから、色々やった結果、まずは料理で表現するのが一番良い、というところに辿り着きました」

吉川「ええ!料理が一番表現しやすいんですね!」

茂田「最終的なアウトプットが美容であることを変えるつもりはないけれど、そレまでのプロセスには色んな形があっていいし、本質的なプロセスを辿って化粧品をアウトプットしたい。だから、最近は実は、OSAJIの商品も、料理で表現したものを化粧品開発班に伝えて、プロダクト化してもらったりしています」

茂田「吉川さんは、10年程前にリンネルの連載で出会った頃から、ずっと変わらず必殺仕事人ですよね」

吉川「あはは、そうなんですよね。仕事現場にいると、すごく楽しいです」

茂田「ヘアメイクをしたモデルさんの仕上がりに命をかけているというか」

吉川「そうそう。モデルさんの素の美しさを引き出したいので、“どう仕上がるか”が最優先です

茂田「それに、モデルさんともよく対話していますよね」

吉川「よく見てくださっていますね。モデルさんが気持ちよくカメラの前に立ってくれるまでが私の仕事なので。そのモデルさんの今日の肌状況とか、その日の天気とか、全部を総合的にみています。それはもう、長年の経験と感覚としか言いようがないけれど」

茂田人の肌に触れるのって、信頼関係が一番必要な行為ですからね。まさに職人ですよ」

吉川「でも、私は自分のことをいつも疑ってますよ。現場が終わっても、もっと何かあったんじゃないかと、帰りの車の中で反省してばかりで…」

茂田「ヘアメイクも化粧品をつくる仕事も主役ではなく、人とコミュニケーションを取るための触媒でしかないですしね。例えば、口紅の色が何色なのかも、その作品とそれを見る人の触媒としてどう機能するか、じゃないですか」

吉川「そう。だから、“吉川です!”というような色は出したくない。とにかくその作品の仕上がりを一番に考える、というのは潔癖的にあるんですよね。神聖なものでありたい感じがあるんです。変に私らしさを入れてしまうと、作品が濁る気がして。だから、名前は伏せた方がいいな、とすら思います」

茂田「吉川さんは、ずいぶん長くヘアメイクを続けてきているけれど、これからどうしたいという展望はあるんですか?」

吉川ヘアメイクの仕事はずっと続けたいですね。正直、メイクって何なのか、今だにずっと分からないんですよ。3ヶ月後には全部が変わっちゃうから。洋服のトレンドが変わると、肌の感じから、爪先から全部変わっちゃうんです。だから、分からないんですよ。永遠に達成感がない感じで」

茂田「だから、ずっと続けていくんですね」

吉川「私は世界を大きく変えていきたいなんて気はなくて、周りが幸せなら嬉しくなっちゃうから。このまま平和的にいきたいです。でも、年を取ると、誰も批判してくれないから、自分で自分を一番批判するようにもしているし、長く続けているからって意地でも偉くなりたくない。死ぬまで分からないことも多いんじゃないかな。根本的な公式はないですよね

茂田「僕も化粧品をつくってはいるけれど、究極的には、女性が化粧をする心理がわからない、という課題がずっとあるんです。男は“モテたい”だけだけど、女性はそうとも限らない。本当に深いな、と思いますね」

吉川「面白いです。本当に」

茂田「最近、娘に楽しんで仕事をしている人と思われているんですけど、“楽しむための努力を死ぬほどしているんだから、勘違いしないで”と言っています(笑)」

吉川「茂田さんは?今は何が楽しいですか?」

茂田「ずっと僕の根底にあるのは、文化なくして化粧品はいらないという思想なんですが、最近やっと、化粧品ブランドとして、音楽やカルチャーを支えられるようなところが見えてきた、と感じます。本質的に人がなぜ化粧をするのかって、文化があるからじゃないかな、と。この話は長くなるから、また今度ゆっくり…」

吉川「今日もやっぱり美容の話になっちゃいましたね。結局私たち、好きなんですよね、自分の仕事が」

茂田「お互い、何が正解か分からないから、ずっと考え続けているんだよね」


プロフィール

吉川陽子

ヘア&メイクアップ アーティスト。1997年、都内サロンに入社した後、2001年にsabfa入学。2003年に福沢京子氏に師事し、2006年に独立。ナチュラルなメイクを得意とし、現在は、雑誌や広告、女優(俳優)、テレビなどでヘアメイクを行っている。

茂田正和

OSAJI ディレクター。音楽業界での技術職を経て、2002年より化粧品開発者の道へ。皮膚科学研究者であった叔父に 師事し、敏感肌でも安心して使える化粧品づくりを追究する中で、感性を育む五感からのアプ ローチの重要性を実感。2017年、スキンケアライフスタイルブランド『OSAJI』を創立しディレクター に就任。2021年にOSAJI店舗に併設のホームフレグランス調香専門店「kako-家香-」(東京・蔵前) が好評を博し、2022年には香りや食から心身の調律を目指す、OSAJI、kako、レストラン『enso』に よる複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年は、日東電化工業の技術を活かした器 ブランド『HEGE』と、HEGEで旬の食材や粥をサーブするレストラン『HENGEN』(東京・北上野)を 手がけた。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。



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