2023.3.18

釜浅商店4代目店主 熊澤大介×OSAJI ブランドディレクター 茂田正和|SPECIAL CROSS TALK〈前編〉

釜浅商店4代目店主 熊澤大介
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OSAJI ブランドディレクター 茂田正和

料理を愛してやまないOSAJI ブランドディレクター 茂田正和が「料理道具のすべてはここで揃えていると言っても過言ではない」というほど全幅の信頼を寄せている釜浅商店。

道具を選ぶこと、使いこなすこと、そこには多くの学びがあり、人生を豊かにする価値が凝縮されていると実感している茂田と、釜浅商店 4代目店主 熊澤大介さんによる語らいを前後編の2回わたってお届け。前編の今回は料理道具との向き合い方について。


▶︎釜浅商店…

「良い道具には良い理(ことわり)がある」。明治41年の創業以来100年以上、この信念のもと、料理人や道具と真摯に向き合う料理道具専門店。日本各地の職人のもとに出向き、選びぬかれた「良理道具」たちと、それを求めるお客様との出会いを日々紡いでいる。

料理道具の使い方を知ることは、多様な感覚を養うこと

茂田正和(以下、茂田) はじめてご一緒できたのは数ヶ月前ですが、釜浅商店の熊澤さんといえば、僕にとってはもう長いこと憧れの存在です。

熊澤大介(以下、熊澤) いやいや、僕の方も大学生の娘にOSAJIの取材を受けることになったと言ったら、急に尊敬の眼差しを向けられて(笑)。OSAJIの影響力をひしひしと感じました。 先日、鎌倉にオープンされたレストラン主体の複合型ショップ『enso』もすごくすてきで。僕は以前、蔵前の『kako』で調香体験をさせてもらったのですが、ensoでもできるということで。プレゼンも凝ってますね!

茂田  あまりにわかりやすさを求めると、つまらないものになっていってしまうと思って。難しい部分をギリギリ残すよう僕がハードルを上げて、スタッフとかなり話し合いを重ねてつくり上げました。コロナ禍と重なったこの2〜3年は、調香の世界と料理の世界を行ったり来たりの日々でした。

熊澤 調香の世界と料理の世界の行き来、興味深いです。釜浅商店では、コロナ禍に出刃包丁がよく売れました。それで「和包丁と暮らす」をテーマに、もう1回その価値を掘り起こすというところをやっていこうと。僕が今日持って来た愛用品も、1点はこの柳出刃の和包丁です。お魚を捌いたり、刺身を引いたり、ちょっとした野菜も切れる、便利な1本です。

茂田  いまのお話を聞いて、2020年のステイホーム中はひたすら包丁を研いでいた自分を思い出しました(笑)。

熊澤   そうなんです。和包丁とともに、“包丁研ぎ”にも再注目してもらいたくて。包丁を研ぐ時間って無になれるというか、自分と向き合う心地よさがあると思うんです。包丁研ぎの時間にふさわしい香りを、茂田さんとコラボしてみたいですね。

茂田   いいですね!確かに包丁を研いでいるとゾーンに入るような、自律神経が整う感じがあります。集中力を高めるベチバーあたりを使うといいかも。

それにしても、ステイホームきっかけで料理人口は増えたはずなのに、料理道具に実際に触れて買えるお店は減った気がします。僕の地元である群馬の高崎には、ちゃんとした料理道具が揃っているお店がすっかり見当たらなくなりました。

熊澤  道具って、重さや手に馴染むかどうかなど、実際に触れて使ってみないとわからない部分がありますよね。それもあって、この釜浅商店の中にもキッチンスペースをつくりました。「道具の使い方教室」というのも今後やっていきたいんです。例えば、フライパンを熱するってどれくらい?煙が出るくらい?みたいなところも、実際に体感したほうがわかりやすいはずだし。

茂田  確かに、火力については感覚的に怖さが先にきやすいので加減しがちですよね。パスタをソースに絡めるときなんて、実際にプロの仕事を見るとかなり強火でやっていて。道具の使い方の会得は体験するのが1番。

熊澤  一方で、いまって100円ショップで料理道具を揃えることもできてしまう時代なので。釜浅商店では“良理道具”と呼んでいますが、なぜこの道具がいいものなのか、こういう理由があるから長く使えるというのを伝えることが僕らの仕事だと思っています。

茂田  僕も含め、料理好きな人にとって釜浅商店さんは、こだわり抜かれたさまざまな料理道具に出会える唯一無二のお店だと思います。これを使うとどういう調理ができて、道具を使いこむことのメリットまで教えてもらえる。

熊澤  そこは最も意識してやってきたので、そう言ってもらえるとすごくうれしいです。

茂田  質のいい料理道具には、最適な料理の仕方を教えてくれる教育料まで含まれていると僕は思っています。

先日、娘がお菓子づくりをしていて、カラメルソースづくりにテフロンの黒いフライパンを使ったら焦がし過ぎてしまったんです。僕の愛用品のひとつ目はこの雪平鍋ですが、娘に「こういうシルバーの鍋を使えば、色の状態がよくわかるから焦がし過ぎて失敗することもなくなるよ」と教えて。料理における嗅覚と視覚のウェイトはかなり大きくて、空間認知能力の観点からも道具は本当に重要だと感じます。

熊澤  そう思うと、小さい頃から料理に親しむって、とてもいいことですよね。いろいろな能力を養っていける。

雪平鍋でお湯を沸かすと、周辺から沸騰してくるのがわかります。これは柔らかく火が入っている証拠で、きんぴらごぼうなどをつくってみると、そのおいしさは、ほかの鍋との仕上がりの差がよくわかると思いますよ。

愛用の道具たち


〈釜浅商店4代目店主 熊澤大介〉

(左から)
・釜浅のごはん釜
・和包丁 白紙二号 柳出刃 210mm

〈OSAJI ディレクター 茂田正和〉

(左から)
・姫野作.本手打アルミ行平鍋
・庖丁にやさしいまな板 黒 大


〈PROFILE〉

茂田正和(写真左)
両親や祖父母に華道家、茶道家、俳人、音楽家を持ち、日本の文化や芸術に親しんできた。無類の料理好きとしても知られ、肌を健やかに導く栄養学も踏まえたアプローチで、料理家とのコラボレーション経験も。

熊澤大介(写真右)
アンティークショップや家具店勤務などを経て、2004年より釜浅商店の4代目店主に。店のリブランディングを手掛け、創業110年を迎えた2018年には海外初店舗のパリ店をオープン。著書に『釜浅商店の「料理道具」案内』(PHP研究所)がある。

〈釜浅商店〉

住所:東京都台東区松が谷 2-24-1
営業時間:10:00 〜 17:30
年中無休(年末・年始を除く)
http://www.kama-asa.co.jp

photo:Hiroshi Takigawa
text:Kumiko Ishizuka