2023.3.17

Chiaki Fujiiさん Textile Artist|Living Tips

いろいろな制限に不便と感じる世の中でも
自分次第でほんの少し前向きな暮らしへとシフトできる。
OSAJI が出会う素敵な女性は、どんな変化をもたらし
どんな日常を過ごしているんだろう?
そこには学ぶべき暮らしのヒントがたくさんありました。

Chiaki Fujiiさん

Textile Artist

埼玉県で生まれる。女子美術大学短期大学部でテキスタイルデザイン、染めの技法を学び、卒業後パリに留学。ESMOD paris にてファッションデザインとパターンメイキングを学ぶ。帰国後、アパレル会社にてアシスタントデザイナーやショップスタッフを経験。2013年には幼少期過ごしたドイツに再び拠点を移し、2017年帰国。現在は女子美術大学短期大学部の非常勤講師として染めを指導するかたわら、自身の作品も発表している。作品の販売情報はインスタグラムより発信。


ステイホーム中は自分が
やりたいことをつきつめる時間

コロナ禍の生活は、わたしもみなさんと同じように不安な気持ちでいました。今までとは違う生活や時間に最初は戸惑いもありました。ただ、もともとひとつの作品ができあがるまでに準備と作業にたくさんの時間を要するので、わたしの場合、以前から研究していた植物染めに集中しようと思える時間になりました。前よりも近所へ散歩にでかけ、自分が住む街の植物を拾い集めて染めの材料として使うように。どんぐりの葉っぱや桜の木の枝、くすの木などなど。いまアトリエにある植物の染料は、ここ2年で生まれたものになります。いま、研究を深めている植物のプリントは5〜6年実験を重ねていて、なかなかうまくいかないことが多かったんです。それでも多くの時間、植物と向き合えたことによってだんだんと関わりをつかめてきた気がします。同時に、植物の素晴らしさ、豊かさにも気づかされました。不思議なことに、わたしが少しでも焦ったり集中していないと植物は心を開いてくれないんです(笑)。見つめ直す時間がわたしに多くのことを教えてくれました。

自分と向き合う時間で
染めへの“好き”度が増した

わたしの場合、コロナ禍で特別なことをはじめたわけではありません。どちらかと言えば自分の気持ちに大きな変化があり、なかでも“好き”という気持ちの大切さに改めて気づくことができました。染めの作業はとても楽しいです。ですが、見た目以上に体力がいる工程が多いので、どこかで力を入れすぎていたところがありました。コロナ禍の自粛生活において、自分と向き合う時間が増えたことで、いつしか染めは仕事としてだけではなく、自分の一部、生活の一部として支えになってくれていたんだと気づいたんです。それからは作業をするたび染めに癒され、心地よいと思う染め方に出会い、今のわたしのワークスタイルになっています。

凝り固まっていた思考を
緩めることで視野が広がった

いつもずっと頭のなかや目で何かを追っているので、リラックスしたいときは、大好きなお茶を飲みつつぼーっとすることが好きです(笑)。そして、家族や友だちと過ごすときが1番心がリラックスして支えられていることを実感します。最近、ヨガをはじめたのですが、最初は自分にはハードルが高いものだと思っていたんです。でも、コロナ禍でオンラインで受けられることを知り、まわりを気にしないで自分らしくやれるというコンセプトが気に入って入会。染めの作業中はとても集中しているので、知らず知らずのうちに体に力が入っていて作業後の全身の疲労感や肩こりがひどかったんですが、始めてからは調子がいいです。体だけでなく心もすっきりしていいリフレッシュになります。小さな変化といえば、今まで大きなリュックにいっぱい物を詰め込んでいたのが、今では必要最低限のものしか入れなかったり。もともと自由な性格なのですが、どこかでこれはこうでなきゃいけないと、いう勝手な思い込みがあったんですね、きっと。自分と向き合う時間ができたことでぎゅーっとかたかった結び目が緩くなったように思えます。

(写真・上)ドイツに住んでいたころも好きで飲んでいたオーガニックティーは、ドイツに住んでいる姉家族からの贈りもの。お気に入りは ALNATURA の Guten Abend Tee、Kamille、SONNENTOR の ROSENBLUTEN、YOGI TEA の Frauenpower。(写真・中)かばんの中身。財布やポーチのほか、〈farfalla〉のハンドケアスプレー、〈Aesop.〉のスキンケアミスト、ボディスプレーを持ち歩いている。(写真・下)ヨガを始めたとき、可愛いヨガマットケースがほしいなと思い考案したスカーフハンドル。スカーフとしても仕様できるため、藤井さんは普段頭に巻いているそう。

ノートに書き留めた思いや言葉は
お守りのような存在

わたしの作品に「YOUR BOOK」といって自分が思ったことや素敵なことば、大切にしている気持ちを綴る世界にひとつだけのノートがあります。わたしはそのノートに日々感じたことを書いたり、気になったときめくカケラを切り貼りしているんです。それを時々見ることで、書き留めた言葉に元気をもらい、勇気や背中を押してもらえるお守りのような存在になってくれています。そして、もうひとつ。自然の放つ香りに力強さと魅力を感じます。家やアトリエにいることが多くなった今、香りにとても癒されていると実感。アトリエにはいつも近所のお店で買ってきた無農薬のハーブを飾ったり、お湯に浮かべてアロマとして使ってみたり。アロマポットもどきは思いつきで作ったものなんです(笑)。ドイツへ移り住んだとき、染めの道具を持っていくことができなかったんですが、生活するなかで「もしかしたらこれが使えるかも? あれも使えるかも?」と、見方を少し変えることで何もないことは何かをはじめるチャンス、そしてそのアイディアはいつか自分を助けてくれるスパイスになるということを学びました。“ないなら自分で作ればいい”―その考えは染めに関わらず、ライフスタイルにおいても日々の生活をより自分らしく豊かにしてくれています。

(写真・中)100円ショップで購入した道具でアロマポットの代用として作った簡易コンロ。この日は新鮮なローズマリーをアロマ代わりに。親友のお店で購入したミツロウのキャンドルを入れているのも100円ショップで購入したボウル。

https://chiakifujii.stores.jp

photo_Miho Kakuta
edit & text_Kozue Takenaka