▼彫刻家 はしもとみおさん | SPECIAL INTERVIEW
いろいろな制限に不便と感じる世の中でも自分次第でほんの少し前向きな暮らしへとシフトできる。OSAJI が出会う素敵な女性は、どんな変化をもたらし、どんな日常を過ごしているんだろう?そこには学ぶべき暮らしのヒントがたくさんありました。
普段と変わらない生活をプラスに考えて楽しみました。
三重に引っ越して9年目になります。隣の家と20mも距離があるような田舎街ということもあって、コロナ禍での最初の自粛生活は都会で暮らす人たちとは少し違い、それほど暮らしに変化はありませんでした。東京で暮らす友人にトイレットペーパーとかを送ったりもできましたよ。仕事面では、出張が圧倒的に減り、展覧会も中止になりましたが、その分制作に打ち込める期間でした。心境の変化はありましたが、“今回のコロナの流行は時を待つしかないもの、なら、そのような状況でどうおうち時間を過ごすか”ということを考え、古民家のリフォームをやろうと思いはじめました。リフォームって果てしない作業!でも、楽しかった!屋根裏部屋を映画館スタイルにしてお気に入りスペースにしました。普段から散歩をすることが大好きで、愛犬の月くんとずっとしていたいくらい好き。犬の散歩が生きがいとも言えます(笑)。散歩しているときに見つけた野草をつんだり、野の花をつんで家に飾ったり。普段と変わらないことができていたこともよかったのかなって。そのプラスの切り替えが充実したステイホームを送れたんだと思います。
シェアアトリエ、仲間の存在はなくてはならないもの。
一緒に住んでいる家族以外の人と会うことが難しいみたいな流れが大きな変化でしたよね。基本的にポジティブ思考でコロナ禍を過ごせていたのですが、その部分に関してはどうしたらより良くなるのか、と考えたんです。家族のように一緒に共有できるコミュニティを作れば親しい人たちと笑いあえる時間が取り戻せるのでは……とぼんやり考えていたとき、友人であるミュージシャンの山田稔明さんと話すことがあって、一緒に何かスタジオとかアトリエをシェアできたら楽しそうだねと話していたんです。さらに友人の宮川敦さん(NAOT JAPAN)が東京に拠点を探していて、じゃあ一緒にシェアしましょう!と。そう決めて間もなく素敵な物件が見つかり、今年の2月から「ラビットホール」というシェアアトリエが誕生しました。シェアアトリエができて月に1回東京にでてくる生活をしていますが、クリエイティブな感覚が向上した気がします。ラビットという名前をもらったことで、うさぎモチーフの作品を作りたいというクリエイティブな気持ちが高まり、たくさんの作品が生まれました。わたしにとって作りたいというクリエイティブな気持ちは宝物。このシェアアトリエができたことでそういう気持ちになれたことが嬉しいです!フラットな立場で話せる仲間との時間は、同業者だと仕事の細かい話になってしまうけれど、異業種なので何でも相談できるし純粋に応援しあえることに感謝しています。ここができたことでより三重も愛せるようになりました。ひとつに固執せず、いろんなところのよさを知ることは人間にとって大事なことなんだと学びました。
クリエイティブな脳の疲れを、好きな料理や音楽で切り替える。
普段から料理をすることが大好きで、三重にいても東京にいてもほぼ自炊しています。レシピを見ることもありますが、ほとんどが我流。わたしにとって料理もクリエイティブの一環っていう感覚なのかもしれません。もちろん失敗することもありますよ(笑)。最近は保存食をたくさん作るようになりました。にんじんのドレッシングや梅干し、水キムチ、味噌、醤油など。クラフトコーラにも挑戦しました。そして、20年ぶりにバイオリンも再開しました。山田稔明さんに「弾いてみたら?」と言ってもらい、弾いてみたらとても楽しくて。17歳まで習っていたのですが、それからぱたっと弾かなくなったんです。仲間たちのおかげで子供の頃の自分を大事にしなきゃと思いました。いまは10歳の頃に練習していた曲を改めて練習しています。山田稔明さんやプロのミュージシャンが一緒に演奏してくれたりして、音楽の仲間たちが奏でる曲を聴いて、そういう表現の仕方があるんだと学び、またそれを自分の仕事に置きかえてもっとゆるくやってみよう、もっと調和を作ってみようといった新しい気持ちにさせてくれます。1人でずっと制作をしていると自分のクセ、考えが固執してしまうので。そういう機会を作ってくれた仲間たちに感謝しています。
どんなときも挑戦したい気持ちは大切にすること。
仕事面でいうと、レリーフ(板状になった木の表面を絵画のように彫っていく技法)という彫刻を勉強するようになったのと絵本制作を再開しました。2年前、40歳になって初めて学び直したのがレリーフというジャンルです。3次元で彫る彫刻とは違い、演出力が必要となる。平面を立体のように見せる技術が必要で非常に難易度が高いけれど、自由度が高いんです。作りたい想いが何よりも素敵な力。まだまだ勉強の段階ですが、それをさせてもらえる環境に感謝しかありません。絵本は20年前くらい、大学生時代に取り組んでいました。ただ、当時、制作した絵本も自分で読む気になれず、納得のいかない自分にずっと向き合わなかったんです。ステイホームのとき、“もっともっと自分自身を愛してあげたら動物たちや社会と向き合えるのでは”と思い。それから自分の過去を見つめ直しました。昔のノートや言葉、倉庫にしまいっぱなしの作品などをスタッフさんが探し出してくれたんです。それを見たとき、たくさんいいものを作ってきたんだなと気づき、それらをブラッシュアップするべく絵本作りを再開しました。ジャンルで自分をくくりたくないんです。彫刻もしたい、絵も描きたい、レリーフに挑戦してみたい。何歳になっても新しいことに挑戦したい気持ちがあるってすごく素敵なことだと思うんです!
PROFILE
はしもとみお
彫刻家
兵庫県出身。現在は三重県北部の古い民家にアトリエを構え、動物たちのありのままの姿形を木彫りにする、肖像彫刻家。各地の美術館で、木彫りの動物たちに間近で触れ合える展覧会を開催するほか、動物たちの肖像制作、フィギュアやオブジェの原型制作を手がける。また、彫刻だけでなく、動物たちのイラストを用いた絵本制作にも取り組んでいる。愛犬月君とのお散歩や料理、音楽とコーヒーが好き。