MESSAGE

「美容」という言葉、広辞苑では「美しい容貌、容貌・容姿・髪型を美しくすること、美粧。」と記載されていますが、そもそも人においての「美しさ」とは何なのでしょうか。

僕は20年以上、化粧品を作り続けてきた中で、ずっとこの哲学と向き合う日々だったように思います。未だその答えに辿り着く道の途中、もしくは答えは一つでなく、人によって答えが変わるものなのかもしれないと思いつつ、今、僕自身が考える、ひとつの仮説をお伝えできればと思います。

誰しも「ありたい自分」と「見られたい自分」という二面があるのではないかと思います。

本当はこってりラーメンが好きでも、毎日野菜中心の食生活をしているようにと見られたかったり。

本当はゆっくり寝ていたいのに、早く起きてメイクに時間をかけたり。

本当は家に帰って映画を見たいのに、仕事関係の人と食事をしたり。

日本では「アンチ・エイジング」という言葉が示すように、エイジングという言葉をネガティブに捉えますが、本来は「熟成」を意味し、ワインが時間と共に味わいを増す時などに使うポジティブな言葉です。いわゆるネガティブな「老化」を意味する英語には「セネッセンス」という別の言葉があるのです。

人にとって真のエイジング。それは「ありたい自分」と「見られたい自分」が歳を重ねてだんだんと近づき、人としての旨味、つまり魅力が増していくことであって、その魅力こそが「美しさ」の正体ではないでしょうか。そして、美容とは「ありたい自分」と「見られたい自分」を近づけ、魅力を増していくための所作だと感じています。

ですから、美容というものは化粧品や美容器具を使うことを指すのではありません。

着る服、食べる物、生活環境、全てから生み出される「生き様」を指すのです。

ただ、その生き様は、決して禁欲的なものではなく、「楽しい」という、心地よさの上にあってほしいと願います。なぜなら、人が楽しむ姿に人は惹かれるから。

このOSAJI Jornalは、「ありたい自分」と「見られたい自分」が少し近づくヒントとなり、「読む美容」として楽しむ感性を呼び起こすきっかけになれたら、本当に嬉しく思います。



OSAJI Journal 主宰  茂田正和


PROFILE

両親や祖父母に華道家、茶道家、俳人を持ち、幼少期より日本の文化や芸術に親しむ。音楽業界での技術職を経て、母親の肌トラブルをきっかけに化粧品開発者の道へ。2001年より化粧品企画の会社を始め(後に曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業と事業統合)、皮膚科学研究者であった叔父に師事、多数の化粧品ブランドを手がける。敏感肌でも安心して使用でき、なおかつ感性に響くような化粧品づくりを追究する中で、美しさを保つには五感からのアプローチで心身を整えることも大切であると実感。2017年に、健やかで美しい皮膚を保つためのライフスタイルをデザインするブランド『OSAJI』を創立、ブランドディレクターに就任。近年は、真の美肌づくりにとって必要不可欠な栄養学の啓蒙にも力を入れており、食の指南も組み入れた著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)を刊行。2021年にOSAJIとして手がけたホームフレグランス調香専門店「kako-家香-」(東京・蔵前)が好評を博し、2022年には香りや食を通じて心身の調律を目指す、OSAJI、kako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年は、日東電化工業のクラフトマンシップを集約したテーブルウェアブランド『HEGE』を手がけた。歴史あるものへのリスペクト、ヒューマニティ、ホスピタリティなどを重視し、近年は化粧品開発者であると同時に、前職である音楽との繋がりを活かした文化の担い手として、あるいは趣味の料理から気づきを得たエデュケーターとして、クロスオーバーな活躍を見せている。