▼室町時代から続く糀専門店「糀屋」へ。 | SPECIAL REPORT
味噌や醤油など、日本の伝統的な調味料に欠かせない「糀」。食べものや料理をおいしくするだけでなく、健康や美容にいい面がたくさんあることから、発酵というキーワードとともに、OSAJIブランドディレクター 茂田正和も注目してきた食材のひとつでもあります。今回は、糀を使ったさまざまな加工品の製造販売を行う〈糀屋〉を訪ねました。
変わらない糀づくりと、老舗〈糀屋〉創業の歴史。
群馬県高崎市の中山道沿いに拠点を構え、この地で450年もの間、糀づくりを続けている〈糀屋〉。創業は室町時代末期に遡り、当主の「藤平(とうべい)」は代々襲名。現当主は22代目の飯嶋藤平さんが努めています。
その昔、このあたりは物流の拠点であり、宿場町として栄えました。穀物を加工するための糀が求められるようになったことから商いをはじめ、味噌や甘酒などの加工品をつくるようになったのが〈糀屋〉の起源といわれています。当時は砂糖が貴重だったため、エネルギー補給にもなる甘いものということで重宝されていた甘酒。江戸を目指す道中、ここで甘酒を飲んでひと休み。行商たちのそんな光景が浮かんでくるようです。
そもそも糀とは、どのようにしてつくられているのでしょうか。ざっくりとした一連の流れは次のとおり。
- 前日に米を水に浸けておき、水分を吸収させる。
- 浸漬させた米を蒸し釜で蒸す。
- 蒸した米を適温になるまで冷ます。
- 米を室(むろ)に運び、糀菌を浸ける。
- 数時間おきに、酸素を送り込むために素手で混ぜる「手入れ」を行い、温度管理をしながら寝かせる。
これらの工程は、約3日間半かけて行われます。糀づくりの生命線ともいわれる「室(むろ)」には、何百年も前から土壌菌が棲みついていて、それらの菌と職人の手の常在菌と糀菌とが混ざり合って、いい糀がつくられているのです。
「糀」という漢字の成り立ちは、米のまわりを覆う菌糸がまるで花が咲いたように見えることから。糀屋がつくる米糀は、昔ながらの製法にこだわり、なるべく機械化せずに手作業で行うようにしているそう。
「米を傷つけてしまうと、そこから乾燥してしまって菌糸が伸びていかないので、絶妙な力加減が肝になります。糀は生き物。発酵というものは効率よくコントロールするというよりも、つくる人が糀に合わせなければいけません。室の温度は、夏でも冬でも35〜40℃。なかなか過酷な作業ですが、糀がうまくできないと次につくる加工品もおいしくならないので、ここでの作業はとても重要なんです」
健康や美容にいい甘酒は、脳の疲労回復にも。
健康や美容にもいいといわれる糀は、発酵させたり糖化させたりすることによってはじめて、体にいいとされる栄養素がつくられ、それらが吸収されて作用することで効果が得られます。厳密にいうと、味噌や醤油などのように長時間かけて熟成させたものが「発酵」で、甘酒は、発酵ではなく「糖化」という分類。
OSAJIブランドディレクター 茂田も普段から愛用する『藤平の甘酒』は、一般的な甘酒よりも糀の量が多く、飲むというよりも食べるといった感覚。そのため腹持ちがよく、少量でも満足感があります。
「糀をたくさん入れると、甘すぎたり、くどくなったりしてしまうので、口当たりがさっぱりしていて、かつ後に残る香りがいい『あきたこまち』を使用しています。甘酒に関しては素材の鮮度にもこだわり、できあがってから一週間以内の糀を使うようにしています。生きた糀と書いて “生糀(きこうじ)”といいますが、生の方が菌の力が強いといわれているので、品質が落ちないようにすぐ加工することを心がけています」
名前は同じでも、甘酒には2つの種類が存在します。ひとつには、糀屋でつくっているように米糀からつくられるもの、もうひとつは酒粕からつくられるもの。何が大きく違うかというと、糀の甘酒はアルコール発酵をさせずに糖化によってつくられるので、ブドウ糖による天然の甘みがあり、酒粕の甘酒には後から砂糖を加えているという点です。
“飲む点滴”として知られている甘酒。糀の甘酒に含まれるブドウ糖は、肉体だけでなく脳の疲労回復や栄養補給にも効果的です。寝不足でボーッとしたときは、甘酒を飲むことで頭がすっきりしたり、朝に体を目覚めさせるために飲むのもいいとのこと。消化のためのエネルギーを使わない分、栄養としてすぐに吸収されるのだそうです。また、糀にはタンパク質を分解する働きがあるので、同時にアミノ酸を摂取することも可能。また、ビタミンを豊富に含み、腸内環境を整えてくれるので、化粧品でのお手入れだけではなく、体の内側からコンディションのいい肌へと導いてくれるものでもあります。
おすすめは、朝晩それぞれにコップ半分ぐらい(約100cc)づつ飲むという飲み方。また、豆乳や牛乳で割るとコクが出て飲みやすくなり、冬はホットで生姜を入れたりすると体が温まるので、ストレートで飲むだけでなく、いろいろな飲み方を楽しみながら取り入れてみるのもよさそうです。
台所の味を守るために。38年目の「手づくり味噌教室」。
取材当日、本店1階スペースで行われていた「手づくり味噌教室」。ここでは冬になると、地域の人たちが毎日のようにやってきて味噌を仕込んでいきます。この日参加していた人は10年前から通っているそうで、「ここの味噌じゃないとダメなの。親戚とかにもあげるでしょ。だから3樽ぐらいつくんないと」と話してくれました。リピーターのお客さんはMY樽を持参。仕込むのは、米糀と麦麹を使った「あわせ味噌」。米糀は甘味や旨味が強く、麦麹は香りが強いので、これらを組み合わせることによっておいしい味噌ができるといいます。
糀屋が味噌づくり教室をはじめたのは38年前。昨今の手前味噌ブームよりもはるかに早く、茂田の家族もこの教室に通っていました。小学校や保育所、大学やお寺などでも出張教室を行い、年間1500人ほどが体験するというこの教室。昔はそれぞれの家で仕込んでいた味噌ですが、教室を開始した当時は、お店で買うのが当たり前になりつつある時代でもありました。
「教室をはじめたのは、自分の手で味噌をつくるっていうことをしていただくと、家庭で食べる回数が増えるんじゃないかと思ったんですよね。食育の観点では、特に味噌なんかだと食べるまでに半年以上かかるので、お子さんにとっては長い体験になるから、大人になってからも鮮明に覚えているものなんです。
ご家庭で味噌づくりをやろうとすると大変なのは、前日から大豆を洗って水に浸して、それを煮たり蒸したりして潰すっていう部分。なのでそこは我々が準備して、みなさんにやっていただくのは糀と塩を混ぜてもらうのと、さらにそこへ潰した大豆を入れて混ぜて樽の中にしまうっていう作業。最後に味噌を丸めて、中の空気を抜くために樽の中に放り込むんですけど、子どもも大人も、それがけっこう楽しいみたいですね」
糀の魅力や発酵の奥深さを、新しい形で伝えていく。
味噌、醤油、みりん、お酢、日本酒。日本の調味料は、そのほとんどが麹と発酵によってつくられています。
発酵や糀の魅力は、近年海外でも高く評価されていることから、これからの時代、日本の調味料は常温保存ができるというのも大きなメリットであるといえるでしょう。海外における糀の流通はそこまで一般化されていないものの、糀屋ではヨーロッパを中心に糀の卸業も開始しています。
「多くは日本人のシェフ向けですね。自分で味噌をつくったり、現地の食材を使って塩麹をアレンジしたりする方もいるみたいです。海外では日本食そのものの人気が高まっているので需要が出てきています。やはり糀自体が生き物なので、流通の面では難しい部分もあります。なので、そういった問題をできるだけ解決しながら、日本の食文化を伝えていくためにも、こうした取り組みは広げていきたいと思っています」
おいしくて体にいい、日本の食文化を支える糀。美容の観点からも、外側からだけでなく、体の内側から働きかけることで、よりいい肌状態を保つことができるようになります。日々の食生活にうまく取り入れながら、すこやかな生活を送っていきたいものです。
糀屋
創業450年を誇る群馬の老舗〈糀屋〉。糀づくりの技術を代々継承し、昔ながらの手法にこだわった味噌や甘酒、漬け物などの加工品の製造販売を行う。日本の食文化を次世代につなげるべく、手づくり味噌教室を開催したり、海外のレストランや日本料理店に糀の卸業を行ったりするなど、糀の魅力を幅広く伝えている。
■住所:群馬県高崎市問屋町2-10-4
■営業時間: 9:30 -18:00
■定休日:年末年始のみ
https://www.komenohana.com/