▼敏感肌とは? ゆらぎやすい肌の仕組みと正しいケア。

「乾燥肌」はれっきとした医学用語であるのに対して、実は「敏感肌」という言葉については医学用語として認められていないのをご存知でしょうか。ポツポツと吹き出物ができやすい、化粧品の成分に反応して荒れやすい、敏感という表現はさまざまな症状に対して用いられるため、明確な定義づけが難しくなっています。そうした現状を踏まえた上で、今回は敏感肌の判断ポイントについてと、敏感さを感じた時の初期対策についてお話します。



敏感肌の原因は「バリア機能」と「肌の菌バランス」

肌がどのような状態であると「これは敏感肌ですね」といえるのか。その判断基準は、大きく2つに分けられると思います。

1つめは「バリア機能の低下」です。角質層のバリア機能が健全であれば、外的刺激は容易に肌の奥へと入りこんでいくことができません。アクティブな美容成分も、バリア機能がしっかりしていれば肌表面の酵素によって分解され、刺激や炎症が起こらないよう成分が選択的にゆっくりと浸透するので問題ありませんが、バリア機能が低下していればいきなり高浸透して神経が反応、刺激として感知されると炎症のトリガーになってしまいます。

そういった意味では「化粧水が浸透しにくい、少量でも十分うるおう」のは肌が健康な証といえます。「化粧水がぐんぐん肌に吸い込まれていく」状態は、皮膚科学的な観点でいうと角質層の乾燥が進行し、バリア機能が低下しはじめているということ。急に肌トラブルが起きたとしても不思議ではない敏感肌予備軍になっているかもしれないのです。

2つめは、「菌叢(きんそう)の乱れ」です。腸内環境と同様に、肌の上にも善玉菌(表皮ブドウ球菌)、日和見菌(アクネ菌)、悪玉菌(黄色ブドウ球菌)が存在します。総じて皮膚常在菌と呼ばれ、これらのバランスが崩れると肌荒れが起こりやすくなります。

みなさんはアクネ菌が日和見菌といわれることを意外に感じるかもしれませんが、アクネ菌は常に悪さをする菌ではないのです。皮脂の分泌が増える、角質が溜まりやすくなる、といった条件がそろうとアクネ菌が毛穴の中で増殖しはじめ、白血球が集まってきて炎症が起き、吹き出物やニキビの発生に至るというわけです。菌叢の乱れは、毛穴レベルの炎症を招きやすいという意味で敏感な状態といえます。

実感としては、肌がチクチクするような刺激を感じることが多いです。もちろんアクネ菌とはまた別に、次にお話するような原因によって悪玉菌である黄色ブドウ球菌が増殖すれば刺激や炎症を誘発することになります。


なぜ肌は敏感になる? ゆらぎを引き起こす原因とは。

「バリア機能の低下」や「菌叢の乱れ」は、なぜ起こるのでしょうか?

まず子供の頃からアトピー性皮膚炎に悩まされているなど、生れつきアレルギー反応が出やすいケースについては、バリア機能において重要な働きを担うたんぱく質(フィラグリン)が先天的に作られにくいタイプといえます。それ以外のケース、大人になるにつれて肌が弱くなってきた、あるいは季節の変わり目や生理前など一時的に肌が敏感になる、いわゆる“ゆらぎ”については「紫外線」「乾燥」「ストレス」の3つが大きく関わっています。

数十年前と比べると紫外線量は確実に増えています。冬の暖房に夏の冷房と、エアコンが普及したことによって乾燥のしやすさも増しました。そしてコロナ禍でいっそう高まったストレスは、肌に酸化ダメージを与える活性酸素を増やし、自律神経のバランスを乱して血流の低下を招きます。

また近年、日本女性の7割〜8割は「自称 敏感肌」といわれるようになった背景には、肌の健康を損なう先述の3つの要因に「生理周期による女性ホルモンの変動」が加わるためではないかと思います。実際、生理前1週間は角質層のバリア機能が低下することがわかっており、多くの女性が一定の肌状態をキープすることに困難さを感じています。


ゆらぎを上手く乗り越えるには、どんなスキンケアが必要?


スキンケアの本来の目的は、うるおいを与えてバリア機能の修復を促し、キメの整った透明感のある美しい状態へ導くことです。

スキンケアのために使った化粧品が、肌の刺激となってしまうのは本末転倒というもの。アグレッシブな働きを持つ化粧品は、必ず生理が終わって1週間後など、肌状態が好調な時にまず試してみることをおすすめします。アグレッシブな働きを持つ化粧品とは、美白やアンチエイジングのための美容成分を高浸透させるようなもの、摩擦ダメージがかかりやすいスクラブやゴマージュといった角質ケアなどです。

また、季節の変わり目、とくに夏から秋の湿度が急降下する時期も、バリア機能が崩れて肌が敏感になります。そのほか気をつけたほうが良いタイミングとしては、旅行に行った時、とくに長時間の飛行機移動の時です。これは機内が湿度ゼロの状態となり、肌が急激な乾燥にさらされるのでやはりバリア機能の低下が起こります。到着した翌日に現地で買った初めてのコスメを早速お試し、といった流れはいつ肌トラブルが起きてもおかしくない状況です。肌が乾燥しやすい環境にいる時や少しでも敏感さを感じた時は、いつも使っている化粧品、できれば低刺激処方のものでシンプルな保湿を心がけてください。

とくに化粧水などは「いつも普通に使えているのに、ちょっと刺激を感じる…」といったことが誰にでも年に何回かあると思います。そんな時のためにセンシティブラインの化粧水を常備しておき、その日その日で使い分けるというのもおすすめです。違和感があるのに使い続けることは、炎症やアレルギーリスクを高めることに…。くれぐれも我慢や無理をせず、日々の肌の声をよく聞いてあげながらスキンケアをしていきましょう。


※こちらは2022年に収録した、OSAJIディレクター茂田正和による皮膚科学に基づいた解説のアーカイブです。


PROFILE

茂田正和

株式会社OSAJI 代表取締役 / OSAJIブランドディレクター

音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香-」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJI、kako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。2024年2月9日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。


interview : Kumiko Ishizuka

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