▼大島弓子の漫画 | 第1回

こんにちは、ビューティライターのAYANAです。学生時代にメイクアップアーティストを夢見て勉強し、化粧品会社に入ったものの、企画開発職のほうが肌に合っているとわかり、プロダクト開発やブランディングの仕事をしてきました。15年ほど前にライターとして独立・フリーになりましたが、ご縁をいただきOSAJIで2019年よりメイクアップコレクションを手掛けています。
タイトルには、3つの「じゅよう」を並べました。
需要:求めること、ほしいもの。
受容:受け入れること、肯定すること。
樹葉:幹の先、枝の先に生まれる葉。表現・創造されたものたち。
私たちは人生を通して、3つの「じゅよう」を味わい、たのしむのではないでしょうか。求めることをたのしみ、受け入れ認め合うことをたのしみ、そして自分や他者の表現をたのしむ。私個人の「じゅよう」が、誰かの「じゅよう」に繋がり、重なり、変容し、また別の「じゅよう」が生まれていく、そんな連鎖を夢想しながら、文章を綴っていけたらと思います。
ビューティライター
AYANA
第1回
大島弓子の漫画

私の価値観や美意識に大きな影響を与え続けてくれるのは、大島弓子の漫画たちである。母が買ってきた『バナナブレッドのプディング』や『綿の国星』を小学生のときに読んだのがきっかけで、実に40年以上愛読していることになる。さすがに小学生のときはそこまで意味は理解できなかったと思うが、高校生あたりからは、何度読んでも毎回飽きもせずボロボロと涙が出てしまう。
大島弓子作品の何がそんなにいいのかを説明するのは結構難しい。同世代の漫画家、萩尾望都や山岸涼子(いずれも大好きです)に比べると、メッセージ性のようなものがふんわりしている気がする。画風や作品名もあいまって、ファンタジーやメルヘンと捉える人もいるかもしれない。しかし読むたび、自分の心の中に圧倒的なリアリティをもって、大島作品が大きな幹のように存在しているのを実感するばかりである。なにひとつ絵空事には感じられない。

大島作品を読むたびにこぼれる涙には、なんとなくノスタルジーめいたニュアンスがある、と私はずっと思ってきた。とにかく家族というモチーフがよく出てくる。テーマが恋愛であっても、そこには家族のような精神的な結びつきが描かれており、だから私は家族についての話が好きなのかなと、なんとなく分析してきた。しかし今回この文章を書くにあたってあらためて多くの大島作品を読み、大量のティッシュを消費しながら、気がついた。私は「受容されること」について心を動かされているのだと。
大島作品には、いろいろな個性を持つ人が出てくる。イマジナリーフレンドを持つ少女、精神年齢が高すぎて家族が子どもに見えてしまう小学生、前世に再会を誓った夫との記憶を持ったまま転生してしまった男の子、家庭環境の複雑さから過食で精神の折り合いをつけようとする高校生、恋愛を超えた信頼関係を宇宙人と築いていく小説家、病弱な母親が死んでしまったことを自責する父娘、などなど。
今っぽく言うと「生きづらさ」を抱えた人たちと言えるのかもしれない。彼ら・彼女らは自分を生きることに必死で、社会から認められずに生きづらいと感じているわけではない場合が多いのだが、その必死さはじゅうぶん本人を苦しめ、迷宮へと向かわせる。しかしやがてその先に、なんらかの受容が描かれる。受容とは、他者からの感謝だったり理解だったり、思いが報われることだったり、あるいは自身の気づきや、気が済むことによるその世界からの卒業だったりする。ひりひりと尖った、輝度の高いつららのようなものが溶解し、やわらかな光が広がっていく。
自分はこれでいいんだと、ほかでもない自分自身が思えること。その前段には、何かからの、誰かからの受容のステップがあるのだということ。私もずっと心の底ではそれを求めていて、だからさまざまな受容の形が美しく描かれている大島作品が好きなんだと、40年越しにようやく理解した。

OSAJIのメイクアップコレクションは、2019年デビュー当初から一貫して「あなたに添える色」をテーマにしている。いつもの自分の延長にありながら、さりげなく内側にある個性をひとつすくい上げ、魅力として彩っていくような色。それは大きな受容のかたちであると思う。
もともと、OSAJIには敏感肌に向けたメイクアップという前提があった。肌に自信が持てなかったり、メイクアップに苦手意識を持っていたりする人にとっても、使いやすくあること(処方的にも、発色的にも)を大切に、これまで作ってきた経緯がある。OSAJIというブランドが持つカラーありきのこのコンセプトは、気づけばどんな人にもある種の受容を提供したいという、私自身の根幹にある想いが色濃く表現されているものでもあったのだなと感じ入ってしまった。
PROFILE
AYANA
ビューティライター
化粧品メーカーで商品開発に携わっていた経験を活かし、アートやウェルネスの観点からも美容を見据えるビューティライター。女性たちが自分自身や世界を美しく捉えなおすきっかけをつくるため、ライティングにとどまらず、ブランディング等の分野でも活躍する。エモーショナルな文章を書くメソッドを体系化した文章講座「EMOTIONAL WRITING METHOD」を主宰し、著書に『「美しい」のものさし』(双葉社)がある。2019年より、OSAJIメイクアップコレクションのディレクターとして参画。
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