ビューティライター AYANAさん×OSAJI ブランドディレクター 茂田正和|SPECIAL CROSS TALK

ビューティライター AYANAさん
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OSAJI ブランドディレクター 茂田正和

「コンプレックスについて、どう思いますか?」

「コンプレックス」とはどのような存在であり、どんなふうにとらえられるものなのか。ビューティライターであり、OSAJIメイクアップコレクションのディレクターでもあるAYANAさんと、OSAJIブランドディレクターの茂田正和による対談をお届けします。



真正面から向き合うというよりも
ほどよい距離感で付き合ってみる

茂田正和(以下、茂田) AYANAさんには、OSAJIのメイクアップラインの立ち上げからずっとディレクションをお願いしているので、知り合ってからはもうかれこれ5年以上になりますね。

AYANAさん 最初はOSAJIというブランドを伝えるためのプレスリリースを執筆してほしいと依頼を受けたのがきっかけだったんですよね。その次に、メイクアップのラインを立ち上げるからディレクションをお願いしたいというお話をいただいて。コンセプトやラインアップを一から決めるところから任せていただいたんです。もともと化粧品開発の仕事をしてはいましたが、ライターの私に頼んでくれたのはびっくりしました(笑)。

茂田 AYANAさんとならきっといいものができる。そんな絶対的な信頼と安心感があったんです。それにメイクは僕がこれまでやってきたスキンケアの領域とは違っていたから。今までプロダクトをだれかと協業したことはなかったけれど、コミュニケーションを取っていく中で共感する部分も多かったし、この人とだったら一緒にできそうだと直感的に思ったんです。
OSAJIというブランドは、ロジックの部分をいかにエモーショナルに見せられるかっていうことに重きを置いていたこともあり、それならメイクアップのラインを始めようと思い至って、それを上手く表現していただける方にお願いしたいというのがありました。

AYANAさん ありがとうございます。茂田さんやOSAJIのみなさんが築かれたブランドの礎の上で、私自身はいつも自由に遊ばせてもらっているような、楽しく泳がせてもらっているような気持ちです。

茂田 楽しんでやってもらえているのは何よりもうれしいです。それで今日はですね。AYANAさんと美容について、あるいは自分なりの美意識や価値観というものをあらためて語ってみたいなと思ったんです。具体的には「コンプレックス」について。美容の仕事に長く携わっていると、いつも「自分のコンプレックスとどう対峙するか?」ということに行き着くような気がして。それにやはりOSAJIのアイデンティティは「寄り添うこと」にあると思うから。答えではなくて、考え方を導き出せたらなと。

AYANAさん ちなみに茂田さんは、コンプレックスみたいなものってありますか?


茂田 口元のホクロかな。今は髭があるからそんなに目立たないけど、子どものころはすごく嫌でしたね。高校生ぐらいになると音楽にのめり込むようになって、DJをしたりとか人前に出る機会が増えたこともあり気になるかと思っていたら、周りの人はそんなこと全然気にしてないってことに気がついて(笑)。だれも何もいわないんだったらいいやって思ってたら、自然と気にならなくなったんです。

AYANAさん それってすごい、理想的なパターンですね。自分の中に気になる暗い部分があったとして、そこだけにフォーカスすると暗い部分ばかりが大きくなっていっちゃうけど、気になっている部分を凌駕するような大きな光が別のところにあったってことじゃないですか。茂田さんの場合はそれがDJとか音楽の世界だったのかも。

茂田 まさにそういうことなのかもしれない。要は、コンプレックスを凌駕するようなものっていうのは、別に見た目の話じゃなくていいってことですよね。

AYANAさん コンプレックス自体も容姿にまつわるものとは限らなくて、いろんなものがありますよね。自分の置かれた立場や環境の中での他者との違いが気になるというケースもある。自分にある気に入らない部分、弱点のようなものってどうしたって目に入ってくるものだし、今はSNSもあるから世界中の人と比べることができてしまいます。そんななかで「人と比べて気にするのはやめましょう」といわれてもなかなか難しいと思う。だから過剰にポジティブになろうとするんじゃなくて、コンプレックスだけにフォーカスしすぎず、視点を広げてみてもいいのではないかって感じですかね。

茂田 上手く付き合っていくっていう感覚は大事ですよね。先ほどAYANAさんがおっしゃっていた、自分の気になる暗い部分と別のところにある「大きな光」に目を向けるっていう発想はすごく納得したのですが、一方でコンプレックスを凌駕するものっていうのはどうやったら作れるんでしょう?

AYANAさん 個人的な経験から思うのは、小さい成功体験の積み重ねです。それによって自分に対する自信が少しずつ育まれますので。本当に何でもいいので、とりあえず自分からアクションを起こしてみる。それを実践する手段としておすすめしたいのが、メイクアップなんですよ。失敗してもすぐに落として直せるし、工夫をプラスしていけるっていう楽しさもあると思うんです。

茂田 なるほど。たしかにそうですね。

AYANAさん 初めのうちは上手くできなくても、積み重ねていけばできるようになっていくじゃないですか。自分ができたことに対して自信が持てるようになると、「私って案外捨てたもんじゃないな」って思えるようになるというか。そうすると、だんだん自分に対する光の当たり方もちょっと変わって、自分の中で「どうせ私なんて」って思っていた部分がだんだん薄れていく気がするんですよ。語学の勉強とか、料理なんかも同じだと思います。やったぶんだけ積み上げられるものがおすすめ。

茂田 そういう小さい成功体験を積んでいくと、結果的にだれかとの比較はつまらないものに感じるというか、「私は私」って思えるようになるのかもしれないですね。

AYANAさん はい。だから多くの人にメイクアップの楽しさを気軽に体感してほしいですよね。OSAJIのメイクアップアイテムを作るときは、肌にコンプレックスを持っている方がどういうものを使ったらうれしくなったり、ちょっと気分が上がったりしてもらえるだろうか?っていうのは、いつも考えています。コンプレックス自体はなくならないかもしれない。でも、だからこそ使っている間だけでも解放されるような、楽しい瞬間が増えればいいなと。

茂田 ちょっと違う視点になるけれど、僕自身がものづくりをする上で感じるコンプレックスは、自分がメイクアイテムのユーザーじゃないということです。自分が欲しいものを形にするという術はなかったから、困っている誰かのために作るという発想なんですけど、その考え方自体は否定していません。ただ、ときどき立ち止まって、僕らが作っているものにはどんな価値があって、何を作りたくてやっていたんだっけ?って考えることがある。そんなときに必ず思い出すのが「ブラインドメイク*」という視覚障がいがある人のためのメイク技法。目が見えない人がメイクをして、それによって外に出かけられるようになり、出かけたことによって恋をして、結婚に至った人がいるという。メイクにそんな力があるなんて、本当にすごいと思いましたね。

*視覚障がい者のためのメイク技法であり、化粧療法のひとつ。OSAJI ブランドディレクター 茂田は2020年に「日本ケアメイク協会」副理事長にも着任。


AYANAさん 茂田さんには何度も話していますけど、ブラインドメイクの存在は私にとっても衝撃でした。目が見えないというのは、メイクをする上で究極のコンプレックスになるはず。それなのにメイクを楽しんでいる人がいる。すごいことですよね。自分のコンプレックスと対峙するという意味でも価値観が変わる体験っていうか。

茂田 メイクって固定概念にとらわれなくていいんだ、自由なんだってことを知ると、よりいっそう楽しくなりますよね。きっとそのメッセージはOSAJIのメイクアイテムを通じていろんな人が受け取ってくれているだろうと思いますし、世の中のあらゆることとも同じような感覚で向き合ってみてほしいです。

〈PROFILE〉

AYANA
ビューティライター

化粧品メーカーで商品開発に携わっていた経験を活かし、アートやウェルネスの観点からも美容を見据えるビューティライター。女性たちが自分自身や世界を美しく捉えなおすきっかけをつくるため、ライティングにとどまらず、ブランディング等の分野でも活躍する。エモーショナルな文章を書くメソッドを体系化した文章講座「EMOTIONAL WRITING METHOD」を主宰し、著書に『「美しい」のものさし』(双葉社)がある。2019年より、OSAJIメイクアップコレクションのディレクターとして参画。
https://ayana.tokyo/


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茂田正和
株式会社OSAJI 代表取締役
OSAJIブランドディレクター

音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香-」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJI、kako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』と、HEGEで旬の食材や粥をサーブするレストラン『HENGEN』(東京・北上野)を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。2024年2月9日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。

Photo:Mitsugu Uehara
Text&Edit:Haruka Inoue