▼「自給する美しさ」を、群馬・みなかみから。ひまわり畑から始まる、未来のものづくり。 | SPECIAL REPORT〈vol.1〉

OSAJI ブランドディレクター 茂田正和が、化粧品を通じて社会の課題に取り組んでいるプロジェクトの一環として、今年から群馬県・みなかみ町でスタートした、ひまわりの栽培。種からオイルを抽出し、最終的にヘアオイルとしてかたちにすることを目指しています。

自給にフォーカスし、ゼロからものづくりを完結させるこのプロジェクトを通じて、茂田が伝えたい想いとは?今回のSPECIAL REPORTでは、そのプロジェクトの“スタート編”として、舞台裏をお届けします。



原料栽培から、すべて自分たちで。ものづくりにトライする理由。

—まずは、このプロジェクトが始まった経緯をお聞かせください。

何年か前から、ユネスコパーク(生物圏保存地域)として認定されている群馬県・みなかみ町で、精油の蒸留やひまわりオイルを絞ったりする作業をやってはいたんです。なぜそういうことをやってみようと思ったかというと、その背景には化粧品産業が抱えている大きな課題があります。

今、日本では化粧品原料の7割以上が輸入に頼っている状況です。国内で化粧品の原料を自給しているケースは非常に少なくて。

一方で、日本は少子高齢化が進んでいるものの、アジア圏はまだ人口増加の傾向にあって、経済成長とともに化粧品の利用率はまだまだ右肩上がり。世界的に見ると需要は増えています。世界状勢が不安定になっている中、もし海外からの日本への化粧品原料の供給が止まってしまった場合、どうなるのか。そして、日本国内に化粧品原料が回ってきたとしても、相当な高値になっていくことは、容易に想像がつきます。

環境面におけるクリーンさや、サステナブルな取り組みがメーカー側に期待されている今の時代。ただ、それはメーカーだけで完結出来ることなのか?製造工程をさかのぼって考えてみれば、そもそも原料の時点で自給ができていない。

もともと日本は島国なので、何かをつくる時は100%自給していたはずですが、高度経済成長とともにものづくりの構造や、経済の軸も変わっていきました。その結果が今の状況で、原点ともいえる農業が衰退し、耕作放棄地がものすごく増えてしまったわけです。

この現状を変えていくには、もはやメーカーかユーザーかという区分けではなく、日本に生きるわたしたち全員がこのテーマに向き合うべき時がきていると感じています。


みなかみの耕作放棄地を、ひまわり畑として再活用。

—栽培から取り組んで、あらためて“自給率”に対しての学びや気づきを得るべく生まれたプロジェクトなのですね。

はい。“自給”というテーマで、みんなで一緒にできることを始めたいとずっと思っていて。もともとOSAJIの拠点でもある群馬県は水資源も豊富で、耕作放棄地も多い。そこで、その土地をひまわり畑として活用することにしました。

これから1年間かけてやっていきたいのは、「ヘアオイルを1本、原料からつくってみる」ということ。原料となる植物を種から植えて栽培し、成分を抽出、加工するのにどれくらいのプロセスを経るのか。つまり「原料の栽培から商品化までの実態をみんなで知っていこう」ということです。

具体的には、ひまわりの種をまき、花が咲くまで水やりをする、そういった畑のコンディション管理から、花が咲いた後にできた種を収穫、搾油、濾過、ボトルに充填と完成に至るまでにさまざまな工程があります。香りも付けるなら、例えばクロモジとか、どんな精油なら自分達でゼロから用意できるのかなど。そうやって「自給自足で売れる化粧品の製造どこまでをやれるか」という実験的プロジェクトであり、“日本の化粧品づくりの定義をあらためて考えてみませんか”という世の中への提案でもあります。


コスト面の工夫や継続を見据え、一緒に進む仲間が増えたら。

—自社での“一貫生産”にチャレンジする、オープンなプロジェクトですね。

今回、何反の畑に作付けして、何本のヘアオイルができるのかという数字を得られたら、今後本格的に取り組む際のスケール感が見えてくると思います。もしかしたら「こんな高いコストになってしまった!」なんて展開もあるかもしれません。

それでも、スケール感の把握ができれば「じゃあ誰もが買えるような値段にするなら、どんな工夫をすれば良いのだろう」とみんなで知恵を絞って前に進んでいけるはず。

こうして実験的に取り組んでいる様子を公開レポートにすることで、いろんな人が関心を持ってくれるきっかけになればと思っています。そして「一緒にやろうよ」って言ってくれる人たちが増えてくれたらいいな、と。自分たちが始めた小さな試みが、少しずつ広がって、やがて社会全体のムーブメントになっていったら──そんな未来を期待しています。

—どんな分野の方でも参加していいのでしょうか?

もちろん、限定するつもりはありません。最近は国産米の不足が騒がれていますが、僕ら化粧品メーカーに限らず、食品業界やその他の業界でも、自給率の問題は本当に深刻なところまで迫ってきています。

なのに、みんなどこかで「まあ、なんとかなるでしょ」という気持ちがデフォルトになってしまっている気がして。でも今は「これはやらなきゃいけないことですよね」と議論を始めるべきタイミングだと思うんです。

このプロジェクトが、いろんな分野のいろんな人にとって“自給率”という課題に立ち返るきっかけになることが願いです。僕たちが日本という国に、この土地に生きていく限り、避けて通れない話だから。

化粧品でも食べ物でも、人間らしく、文化的な社会の中で、この先も暮らしていくためには、少しずつでも“自給”の比率を増やしていかなきゃいけない。まずは、この行動で体現していきたいですね。

<後編>に続きます。


茂田正和

株式会社OSAJI 代表取締役 / OSAJIブランドディレクター

音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI(オサジ)』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJIkako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。202429日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。
https://osaji.net/
https://shigetanoreizouko.com/


text:Kumiko Ishizuka

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