▼たからもの | 第1回
OSAJIでは主にパッケージや、お店で使われている紙袋やパンフレット、HPやSNSに掲載するイメージのディレクションなど、ブランドにまつわるデザインの仕事をしています。
デザインを通して気づいたこと、感じたこと。私を私たらしめるモノやできごとを、記憶をたどりながら綴っていきます。
自分の考えや気持ちを自分以外の方に届けることは、楽しみでもあり気恥ずかしさもありますが、お付き合いください。
OSAJI デザイナー
石井このみ
第1回
たからもの
「何かを作る人になりたい」
“将来の夢”という小学校の卒業文集の定番であるテーマに対して、そんなことを書いていた。
その当時はまだ「デザイナー」という職種を書くにはイメージが漠然としていて、グラフィックやファッション、エディトリアルやWEBなど、細かく分岐している領域の違いもあまりよくわからなかったし、具体的な職業を書くと自分の未来を狭めてしまう気がして、「何か」という断定しない言葉を選んだ。
そしてアーティストのように己の表現を追求したり、職人のように技術を磨いたりすることではなく、私の未来は、私が好きなものを作っている人たちの方を見ていた。
小さい頃から、絵を描いたりビーズでアクセサリーを作ったり、こまごまと手を動かす作業が好きだった。かといって内気で家にずっといたかというとそうではなく、スポーツ系の習い事で忙しかったし、学校では休み時間のたびに外へ出て友人たちと走り回っていた。放課後は田んぼに行っては小魚やら蛙やらを捕まえて家に持ち帰り、部屋で眺めていた。
そんな日々を思い返すと、特に興味をそそられていたのは、中に丁寧に収められたお菓子やおもちゃではなく、その外側を彩る箱や包み紙だった。
キラキラと光を受けて輝く装飾がなされた箱。
文字に沿って浮き上がっているような手触りの紙。
それらをきちんとした形で留めている紐やリボン。
片付けが苦手でいつも机の上はもので溢れていたが、机の横の壁にかけたコルクボードには、厳選したお気に入りの包装紙の切れ端やタグをきちんと見えるようにピンで留めたり、外国の家の壁紙のように複雑な模様が入っている箱に、筆記用具や小物を入れて飾ったりしていた。
側から見ればそれらはすぐにゴミ箱へ捨てられてしまうものたちであったが、少なくとも私にとっては視界に入れておきたい存在だった。きれいな紙たちを眺めていると、置かれているその空間がなんだかすてきな場所に思えて、幸せな気持ちになった。
このきれいな紙や箱たちがどうやって作られているのだろうと疑問に思い、調べたところデザイナーという職業があることを知った。頭の中で想像する彼らは、幼い私にとってはキラキラと輝いているような存在で、魔法のようにサッとすてきなものを生み出せるのだと思っていた。
現実にそんなことは決してなく、デザインするということはさまざまな制約の中で、少しずつ調整を重ねる地道な作業であると、日々仕事をしながら感じている。
デザイナーは、「センス」や「絵のうまさ」を持ち合わせている人だけがなれると思われることがよくある。それは強みになる要素ではあるけれど、必須ではないと個人的には思う。
それよりも、伝えたいメッセージや世界観、構成する要素を理解するために、相手とコミュニケーションを重ねていくことが必要であることの方が多い。
そのためには関わる人の声をたくさん聞き、会話をしながら、この商品にはどんな世界を作ってあげたらいいのかを想像する。自分の視点だけでは思いつかないアイディアが、人と話し意見を交わすことで生まれてくる。それは、自分が想像していなかった未来で、気づいたら自分はその道を歩いていた。
あらゆるものは、中身だけではなく外側まで全て含めた世界があってこそ、存在感を放つ。
あの時大切にしていた、自分を幸せにしてくれる世界の切れ端。それらが今、誰かのための想いや世界を「作る人」になったきっかけであることを、思い出させてくれる。
PROFILE
石井このみ
OSAJI デザイナー
多摩美術大学グラフィックデザイン学科にてグラフィックデザインやパッケージデザインについて学んだのちに、2018年より「OSAJI」に入社。「OSAJI」のパッケージや販促物などクリエイティブ全般にまつわるデザイン業務のほか、フレグランスアイテムなどのコピーライティングも手がける。