想像力 | 第2回

OSAJIでは主にパッケージや、お店で使われている紙袋やパンフレット、HPやSNSに掲載するイメージのディレクションなど、ブランドにまつわるデザインの仕事をしています。

デザインを通して気づいたこと、感じたこと。私を私たらしめるモノやできごとを、記憶をたどりながら綴っていきます。

自分の考えや気持ちを自分以外の方に届けることは、楽しみでもあり気恥ずかしさもありますが、お付き合いください。

OSAJI デザイナー
石井このみ


第2回
想像力

目の前にいる人は今、何を考えているのか。

電車の座席で向かいに座る人。
ビルに掲げられた広告を見上げる人。
コンビニのレジで対応してくれた人。
お店で化粧品を選ぶ人。

おそらくほとんどの人が、自分以外の誰かの気持ちを「知りたい」と思ったことがあると思う。そして、自分自身に向き合い「他人が自分の気持ちを理解することができるか」と問いかけると、やはり自分以外には誰も頭の中を1から10まで知ることはできない、とも思う。

商品を作っていく過程で欠かせないのが、使う人のことを想像すること。

どんな生活を送っていて、どんな家に住んでいるのか。
どんなことが好きなのか、どんな香りが好きなのか。
そして、この商品を、どんな気持ちのときに使うのか。そして使った後はどんなことを思うのか。

具体的な思考をするほど、想像の人物は輪郭を帯びてくる。

もちろん、使う人は一人じゃない。そして、使う人が同じでも日によって違う生活リズム、新しい気分で使うこともあるかもしれない。

他人の気持ちを想像することは、自分とは全く異なる人であることを理解しようとすることから始まる。

住む場所、育ち方、家族構成、好きなもの、嫌いなもの。触れてきた文化の違いや、経験の違い。その中に、自分との共通点があると、さらに想像しやすい。こうした自分とは異なる考えを持つ他人に自己投影し、相手が何を考えているのか、どう感じるかを想像することを「エンパシー」という。ただ、その想像は事実とは限らないことも念頭においておく。

よく似たワードで「シンパシー」という言葉があるが、これは共感・共鳴といったニュアンスが含まれていて、相手の考えに同調するような面がある。一方で「エンパシー」は、相手の思考や感情、認知に対しても理解を深めていく。

そういうふうにさまざまな状況を仮定し想像することを、デザインをする上で忘れないようにしている。

エンパシーは、日常においても必要だと思えるシーンが多々ある。

例えば、現実に存在する人で、会ったことがあり、さらに会話できる状況であれば、より一層理解を深めていくことができる方法もある。けれど、文字情報だけであったり、画面の向こう側であったり、偶像のような存在であればあるほどその存在は想像の域を出ない。想像は事実ではなく、あくまでも頭の中のできごと。

事実だけが目の前にあって、その背景や状況が目に見えないとき。自分だったらこう思う、でも相手はそう思わないかもしれない。その可能性を、頭のほんの片隅に置いておくと、なぜの事実に行き着いたのか見えてくることがあるかもしれない。

私は、あてもなく散歩したり、目的も定めずウィンドウショッピングをすることが好きだ。

道ゆく人々、季節に沿って移り変わる服や小物。いろんなものを見ながら、線を引いていくように空想を紡いでいくことは楽しい。あちらこちらへ漂う思考に身を任せながら、まだ会ったことのない誰かの思いや生活を、想像している。


石井このみ
OSAJI デザイナー

多摩美術大学グラフィックデザイン学科にてグラフィックデザインやパッケージデザインについて学んだのちに、2018年より「OSAJI」に入社。「OSAJI」のパッケージや販促物などクリエイティブ全般にまつわるデザイン業務のほか、フレグランスアイテムなどのコピーライティングも手がける。



Instagram: @shiii__mi


STAFF DIALOG
OSAJIの美意識とクリエイティブを巡るダイアローグ。

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