▼オーガニックだから、肌にやさしくて安心とは言い切れない理由。

「おさじ」とは、江戸時代、匙を使って薬を調合していた漢方医のことを指します。化粧品は、雰囲気やテクスチャーの良さというものも大切な要素ですが、肌にとって、長く使い続けて肌を健やかに美しく保っていくには、本当の意味でどういうものが良いのか?まずは“スキンケアは免疫の入口”というテーマについて、化粧品開発者 / OSAJI ブランドディレクターである茂田正和がお話ししたいと思います。



オーガニックコスメは不調な肌にもやさしそうと思ったら刺激を感じて…

慣れない新生活による疲れやストレスで肌状態が不安定になる、いつも使っていた化粧品が合わない気がする、子供の頃に出ていたアトピーが社会人になって復活してしまうなど。これまでにたくさんの方のお肌の相談にのってきましたが、そんな時、ボタニカルコスメやオーガニックコスメが肌にやさしそうと思って使ったところ、刺激を感じてしまったという方が、実は非常に多いんです。

今回は「オーガニックだから、肌にやさしくて安心とは言い切れない」理由をちょっと具体的に説明しましょう。

まず、皮膚科学の世界では、だいぶ前から「肌は免疫を司る臓器」という見方が一般的になっています。つまり、肌のバリア機能がしっかりとした健やかな状態であれば、異物の侵入による刺激、肌荒れ、アトピーなどのアレルギー疾患は起きにくい、ということ。ちなみに疫学研究(社会で起こっている現象を分析し、どのような地域のどんな人が病気にかかりやすいかを明らかにする研究)においては、「春夏の紫外線対策が足りないと、肌のバリア機能が弱くなり、秋冬に風邪を引きやすくなる」といったことも発表もされているんです。


肌から吸収した化粧品が原因で、食物アレルギーになる危険性も!?

こういった現状に対して、スキンケアでできることは、バリア機能のサポートです。

肌というのは、乾燥していると自己修復のプログラムが働きにくくなり、潤っていると自己修復のプログラムが働きやすくなります。これまで、化粧品で保湿をするということは、カサカサした状態をしっとりした状態に整えるとともに、キメを整えて透明感を高めるといったことでした。しかし、皮膚科学の観点から見つめると、スキンケアは肌という臓器の機能を調整するための“予防医学”の領域にまで進出しつつあるといえます。


まだまだ一般的に知られていないことですが、植物成分には、アレルギーの抗原となりうるたんぱく質が含まれています。例えば「未精製のピュアな植物オイル」と聞くと、なんだか肌にやさしそうなイメージを持つ方は多いと思います。しかし、それをバリア機能が低下した弱った肌に塗り続けた場合、アレルギーの発症を誘発してしまう危険性があるんです。


2015年、アメリカアレルギー学会でロンドン大学のギデオン・ラックという教授が、イギリスで子供に非常に多いピーナッツアレルギーについてある発表をしました。それは「離乳期からピーナッツバターを含んだおやつをたくさん食べているイスラエルの子供より、ピーナッツを使用した食品を避ける傾向にあるイギリスの子供のほうが、ピーナッツアレルギーに罹患している割合が10倍も高い」という内容です。
そして、その理由として教授が注目したのは、当時イギリスで子供のスキンケアとして定番的に使われていたピーナッツオイル配合のベビークリームでした。というのも、その教授は皮膚に卵を塗ってアレルギーを起こしたマウスが、後に卵を口から食べた時にもアレルギーを起こしたという研究をすでに90年代にしていたからでした。
国際的な学会を通じて明らかにされた例としてピーナッツを挙げましたが、石けんに配合されている成分を肌から吸収したことが原因で、後に食物アレルギーを起こしたケースは、日本でも数年前にニュースになりました。シルクや小麦、最近人気のスーパーフードにしても、天然成分や野生(ワイルド)と名のつく大方のものには、アレルギー抗原となりうるたんぱく質が含まれているんです。


バリア機能の弱った現代人の肌に安心なのは、低アレルギー処方のコスメ。

もちろん、肌のバリア機能がしっかりした丈夫な肌であれば、これらのたんぱく質が肌から入り込むことはないでしょう。ただ、紫外線や大気汚染といった過酷な環境、社会生活のストレスなど、現代人の肌は弱りやすくなっています。


疲労、睡眠不足、ストレス、花粉症やアトピーといった症状の自覚が少しでもある方は、こういった現代人の肌の状況を思いやり、最新の皮膚科学の情報と照らし合わせてつくれられた化粧品でのスキンケアがおすすめです。とくに、ボタニカルコスメやオーガニックコスメなどを選ぶ時は、アレルギー抗原となりうる植物のたんぱく質を含んでいない、肌の弱い方でも安心して使えるよう配慮された処方のものを選ぶと安心です。


※こちらは2018年5月収録、OSAJIディレクター茂田正和による皮膚科学に基づいた解説のアーカイブです。


PROFILE

茂田正和

株式会社OSAJI 代表取締役 / OSAJIブランドディレクター

音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香-」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJI、kako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』と、HEGEで旬の食材や粥をサーブするレストラン『HENGEN』(東京・北上野)を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。2024年2月9日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。


interview : Kumiko Ishizuka

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