▼F.I.B JOURNAL 山崎円城さん×OSAJI ブランドディレクター茂田正和|SPECIAL CROSS TALK〈vol.1〉

昨年、結成20周年を迎えた“ジャズパンク”を体現するトリオF.I.B JOURNAL。ポエトリー・リーディングから派生したスポークン・ワード*と、楽器による演奏が渾然一体となったその音楽を、OSAJIブランドディレクター 茂田正和が耳にしたのは10年ほど前のこと。その後、F.I.B JOURNALを率いる山崎円城さんと少しずつ交流を深めていく中で生まれた茂田のある想い。そして今年から始まった、タッグを組んでのものづくりについて。今回は、山崎円城さんをゲストに迎え、茂田正和との対談を通じて、互いの共鳴がものづくりへと昇華していったプロセスに迫ります。

*スポークン・ワード
詩人が朗読するポエトリー・リーディングが時とともに進化し、詩人やミュージシャンの間で行われるようになったのがスポークン・ワード。文学的要素をあまり色濃く含まず、リズムを重視したり、ジャズやヒップホップなどの音楽の演奏を伴う場合も多い。

感性の時代を拓いていく、音楽と言葉が生んだ新たな連携。

茂田正和(以下、茂田)
山崎さんとの出会いは、僕が以前手がけた化粧品ブランドでご縁のあった、タレントのちはるさんが目黒で営んでいたCHUM APARTMENTというカフェのハロウィンパーティ。2012年〜13年頃かな。そこで最初にF.I.B JOURNALの演奏を聴いたときは、もう「なんだこれは」という衝撃を受けて。

山崎円城さん(以下、山崎さん)
そう言ってもらえるのは、嬉しいです。音楽も詩もタギングアートも「なんだこれは」を呼び起こすようなことができたらと思っているので。

タギングアート
単色で描かれた文字やマークを主体とする、数あるグラフィティアートの主要な形式のひとつ。読みやすさを重視したり、流れを重視したりと、アーティストによって表現は多様。

茂田
僕自身、自分の音楽のルーツにジャズとかヒップホップが深く根づいていることもあって、なおさらF.I.B JOURNALの音楽のかっこよさが刺さったというか。リズムもサウンドも、無骨でありながら洗練されていて、演奏の手技の美しさにも惹かれました。そこから頻繁にライブにも行くようになって。

山崎さん
90年代後半頃に、ミュージシャンの渡辺俊美さんが原宿につくった DOARAT(ドゥアラット)というブランドがあって、僕のタギングアートを最初に服としてプロダクト化してくれたのは、そのDOARATだったんです。ちはるさんは、当時俊美さんのパートナーでした。あのハロウィンパーティで演奏していたとき、そこからの不思議な縁も感じました。

茂田
そうだったんですね。それから、僕の知り合いの植栽アーティストのアトリエで、円城さんがライブでタギングアートをやることを知って。そこでまた、今度は円城さんのタギングアートというものが、自分の中にすごく印象的に焼きついたんですよね。

山崎さん
だんだん、ライブをやる時とかにメールでやり取りをしだして。OSAJIのプロモーション動画の音楽を依頼してもらうことなり、と関係値が近くなっていって。それで「どういう曲にしましょう」みたいなミーティング的な話をした時、茂田さんから僕がつくっている曲のこういう感じで、ってすごくはっきりした要望が上がってきた。自分が思ってる以上にしっかりとF.I.B JOURNALの音を聴いてくれていて、知ってもらってるんだなってすごく思いました。自分はあまり社会性がないタイプ、わりと好きなことしかしてないというのを自覚してたので、そこまで届いていることが意外だったというか。


文化的な豊かさがあってこその、感動を呼ぶ化粧品。

茂田
OSAJIというブランドでは、文化的でエモーショナルな化粧品をつくっていこうと決めた時、それならプロモーションもちゃんとエモーショナルな表現を追求する必要があると感じて。そんな時、ちょうど書道家の金森朱音ちゃんとイメージ動画をつくろうってなって、この音楽は円城さんに頼めたら最高だなって思って真っ先にお声がけしました。

山崎さん
あの辺りで、茂田さんの捉える美容について話を聴いたりして、だんだんと道が拓けていった感じかな。

茂田
日本ではとりわけ「エイジング」という言葉がネガティブな意味で使われますが、本来はワインが年月を経て旨みを増していく「成熟」を意味する言葉なんですよね。アンチエイジングという言葉の通り、人が歳を重ねて魅力を増すことすら否定する美容文化にずっと違和感を感じていて、そうではない美容の考えを広めたいと熱く語ったんですよね。

山崎さん
茂田さんがたどり着いた、その「美容とは不老不死・アンチエイジングを目指すことではなく、ありのままの自分を受け入れ輝かせること」っていうところにとても共感しました。


音楽制作のバックアップで、多様な文化創造の一歩を。

茂田
コロナ禍にも円城さんのアトリエを訪ねて語らう機会はありましたが、具体的に「なにか一緒にものづくりを」っていうお誘いをしたのは昨年。そこで僕が持ちかけたのが、「“聴く美容”というテーマでアルバムをつくってもらえませんか?」という話で。僕はこれまで化粧品のみならず、このOSAJI Jornalを“読む美容”、食を“食べる美容”といろんなアプローチで美容を考えてきましたが、やはり美しさを叶えるために最上位にあるのは精神であって。豊かな精神こそ人を輝かせるものとして、そこに音楽を活かすことができないかと思ったんです。
そして、OSAJIの創業の場所であり、僕のホームタウンである高崎でのレコーディングに至りました。

山崎さん
なんていうのかな、なんとも形容しがたい音楽が、できたと思います。うん。僕としては、音楽ってストリートスナップだと思っていて。ストリートスナップって時代を映すものですよね。それを意図的に再現しようとすると、もの凄くつまらないものになってしまう。その街に、その人たちが集まるという、奇跡的な瞬間だからこそ面白いわけで。それぞれの個性が、音がぶつかりあったっていいんじゃない?っていうところに、どうコンタクトして、どういう見せ方にするのかが大事。いかに偶然を捉えていくか、ということなんです。今回は茂田さんとの偶然の出会いから生まれるものを大事にしました。

茂田
アルバムの制作スタイルが、本当にその通りでした。えっ、このデモからこんな風に展開されていくの!?てっていう面白さがあって。円城さんの鼻歌からセッションが始まりだしたり。本当に即興ジャズスタイル。一年間、円城さんと共創できたことで、僕の中ではものづくりをしていく上でのかなり大きなパラダイムシフトが起こりました。予定調和から脱するために新しい何かを開発していくつもりが、いざ進めていくとなかなか苦戦を強いられたりと、葛藤していた中で沢山の学びがあったんです。感性の扉が開いたようなこの感覚を、F.I.B JOURNALの新しいアルバムでいろんな方と共有できたら嬉しいな、って思っています。

そして、レコーディングとほぼ時を同じくして進んでいたのが、山崎さんが長きに渡って続けてきたグラフィティアートの1つであるタギングアートと、OSAJIのアイテムのコラボレーション。次回は、山崎さんにとってのタギングアートと、音楽同様に茂田がそのアートワークに魅かれた背景に焦点を置いた対談をお送りします。


PROFILE

山崎円城

音楽家 / 詩人 / タギングアーティスト

1970年、神奈川県川崎市生まれ。10代より独学で音楽活動を始め、1996年にリトル・クリーチャーズの栗原 務らと組んだユニット、Noise On Trashでデビュー。2003年、ファッション誌「Commons & sense」とのコラボレーションをきっかけにF.I.B JOURNALとしての活動を開始、”ジャズパンク”と称される作品を多数発表している。音楽活動のかたわら、詩人としてこれまでに2冊の詩集を発表、現在3冊目を制作中。「好きな言葉の共有」を目的に不定期に開催される朗読会「BOOKWORM」の主宰も務める。また、アーティストとしてグラフィティアートのいち手法とされる「ダギング・カリフラフィー」の制作と発表にも情熱を注いでおり、2022年より3年続けて『galerie-a』(東京・南青山)にて個展を開催、ファッションブランドとのコラボレーションも多い。


茂田正和

株式会社OSAJI 代表取締役 / OSAJIブランドディレクター

音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI(オサジ)』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJIkako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。202429日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。
https://shigetanoreizouko.com/


F.I.B JOURNAL

国内屈指のポエトリージャズバンド。2003年に山崎円城のソロプロジェクトとして始まり、2005年よりEGO-WRAPPIN’のサポートベーシストとして活動する真船勝博、ドラマーの沼 直也が加入、トリオ編成に。現在までにトリオ編成で5枚、オーケストラ編成で1枚、音楽ユニットTICAの武田カオリをボーカルに迎えて1枚の計7枚のアルバムを発表。近作は、過去の楽曲のフレーズの一部をサンプリング・コラージュして再構築した「This is GHOST」(23年秋に配信プラットフォームでリリース)。タギングアートによるアートワークを山崎自身が手がけた。2024年11月20日に最新アルバム「現象 hyphenated」を配信リリース、12月14日には『ADRIFT』(東京・下北沢)でリリースライブを開催。
http://fib-journal.net


2024.11.20 配信 Album

『現象 hyphenated』

F.I.B JOURNAL

1.木を知る – I know the tree
2.君の選択 – What do you want to do
3.水たまりが空を映した – Sky in a puddle
4.言葉にならない言葉を見つけてそれを名付ける – Name it
5.あなたを理解する – Understand you
6.答えも人と同じように老いる – Dead old answers
7.言葉はそれを映す – Mirrors that reflect
8.川が重なる – River is us
9.光が差し込むのはきっとそこから – Find the light?

各種配信サービス・サブスクリプションサービスにて配信スタート。
http://fib-journal.net


photo:Mitsugu Uehara
text:Kumiko Ishizuka

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