▼F.I.B JOURNAL 山崎円城さん×OSAJI ブランドディレクター茂田正和|SPECIAL CROSS TALK〈vol.2〉
OSAJIブランドディレクター茂田正和が、“ジャズパンク”を体現するトリオF.I.B JOURNALを率いる山崎円城さんに、“聴く美容”として感性を揺さぶるような音楽制作について声がけしたのは昨年のこと。その語らいの中で、茂田が掲げた「美容とは不老不死・アンチエイジングを目指すことではなく、ありのままの自分を受け入れ輝かせること」という言葉に、強くインパイアされたという山崎さん。
そこから沸き起こった一編の詩は、音楽と並行して長きに渡り山崎さんが続けてきたタギング*で表現され、茂田が調香を手がけたハンドソープを注ぎ込んだ特製の白い磁器ボトルにドロップされた。今回は、このOSAJI×タギングのコラボレーションに至るまでのストーリーと、そこに込められたメッセージについてお伝えします。
*タギング
文字やマークを主体とする、数あるグラフィティアートの主要な形式のひとつ。読みやすさを重視したり、流れを重視したりと、アーティストによって表現は多様。
時を経て無二のオブジェになる、OSAJI×タギングのコラボ。
茂田正和(以下、茂田)
じっくり聴いたことがなかったのですが、どんなきっかけで円城さんはタギングを始めたんですか。
山崎円城さん(以下、山崎さん)
そこを突き詰めると、なぜ音楽を始めたのかっていうところまで遡るんですけど。幼い頃に友達を亡くすという経験をして、生きるってなんだろうという哲学をし始めたんです。死んだら無になるのか、彼はどこに行ってしまったのか、魂は…みたいなことを考えるようになって。考えすぎて、もうぐちゃぐちゃになってしまっていたある日の夜中、はっと目覚めて思ったのが「人も花や木と同じ、誰もが死ぬという宿命を持ってる」っていうことでした。生命はループする、花や木は自分や誰かの屍の上に咲いている、ともいえますよね。そんな気づきがあった時、絵描きをしてる親父が僕に拾ってきたオルガンをくれたんです。
茂田
そこでまず、音楽と出会うんですね。
山崎さん
はい。それで、自分の中のモヤモヤした気持ちを成仏させたくて、メロディーを紡いでみたり、言葉に変えようとしたり、というのがそもそもの始まりかなと。そういうことを続けるうちに、今度は書くのと歌うのではまたちょっと印象が変わることに気づいて。同じ言葉でも、ノートに書くとずいぶん印象が違うんですよね。
茂田
確かに手を動かして書く、リズムを感じて歌う、感覚的にだいぶ違いが。
山崎さん
この間の個展で「生きるっていうのは大きな瞬きかもしれない」っていう詩を書いたんですけど、その詩の原型的な体験をしたのは小学生の頃で。僕たちって1日に何万回も瞬きをしていますよね。だから時間軸で捉えた時、最終的にまぶたが閉じて死ぬっていうのは無になることではなくて、生まれることに繋がる、大きな瞬きなのかもしれないっていう。この気づきを僕は誰かに聞いてもらいたかったんですけど、なかなか聞いてもらえる場所がなかったから、じゃあ駅前でバンドとして演奏しちゃおう、壁に書いて発表しようとなって。
茂田
それが、円城さんのタギングの始まりなんですね。
山崎さん
そう思います。音楽をつくろうというところから、音を出すことと本能的に言葉を書くことがつねに両方あって、そこからタギングが生まれたというか。
茂田
分離していたものじゃないんですね。
山崎さん
そうなんです。当初は自分がやっていることが、ヒップホップとかグラフィティの文脈でいわれるタギングだとは、全然思ってもいなかったんです。幼い時に抱えた死生観に対するモヤモヤを消したい、すっきりさせたくてプリミティブに始めてしまったので。後から人から言われて、ああそういうことなのかと。
ゲリラ的な言葉のアート活動から、タギングの作家活動へ。
茂田
衝き動かされてのプリミティブな表現から、どういう変遷で作品として描くようになっていったんですか?
山崎さん
20代半ばくらい、自分の言葉とか詩を発表する方法を模索していた時、詩を書き込んだ架空のフライヤーとポスターをつくって、いろんなところに貼るっていうゲリラ的なアート活動をしてたんです。駅の広告って、当時の代官山は1週間8000円ぐらいで借りられたので。そんなことをしながら並行して、大学で知り合ってすでにミュージシャン活動をしてたLITTLE CREATURESの栗原と一緒に音楽を作っていました。それがきっかけで僕も音楽の方でデビューが決まってしまった。いざデビューするとなると当時はそれで手一杯で、言葉を発表するゲリラ活動は一旦止まるんですけど、周りの仲間は僕のゲリラ活動を覚えてくれていて。ある時友達のバーで飲んでいたら、そこの鏡や窓ガラスに「円城さん、何か描いてよ」ってペンを渡されて。そこで、「ああ前にやっていたよな…」と描いてみたら、それがすごく人目に留まりだして、「僕のところでも描いて」という感じでオファーが繋がっていきました。
茂田
なるほど。それで前回の冒頭でのお話、原宿の DOARAT(ドゥアラット)でタギングが初めて服として販売された、というところに繋がるんですね。
山崎さん
そうです。壁画、CDジャケット、車、バイクといろんなものに描きましたが、正式に自分の作品として立体に描きだしたのは、ギャラリーで個展をするようになってからです。
茂田
円城さんのタギングはすごく緻密で、溢れるような熱量を感じるんですけど、描いている時の脳内ってどういう感じなんですか?
山崎さん
こういう言葉にしようって決めて、描いているうちにだんだん頭の中がまっさらになっていきますね。ゾーンに入るみたいなことだと思うんですけど、気づくと6時間とか経ってたりします。音楽は聴かずにただ無音で描いているのですが、僕わりと耳が良いので、「犬を連れた人が通っているな」とか「上の部屋で椅子を引いたな」とか、そういう生活の音はキャッチしますが、それを音楽代りに、ひたすらペンを立体に走らせてどんどん入っていく感じです。
茂田
言葉を紡ぎ出す、詩をつくる際のプロセスは決まっていたりするんですか?
山崎さん
ノートを開いて「私はこう思う」みたいなことを書き綴りながらするようなアプローチはしてなくて。僕の場合、言葉にならないものを見つけてきて、それに名付けて現象化する作業、っていうのがいちばんしっくりくる。詩を書くというより、ものの見方を見つけてくる感じなので、難産の時は本当に全く出てこないこともありますよ。
白い磁器ボトルに刻まれた「言葉はうつわ、あなたはそれになれる」。
茂田
何も降りてこない、難産の時って苦しいですよね。今回の、OSAJIとのコラボレーションアイテムのボトルにエンボスで刻んだ言葉は、どんなインスピレーションから浮かんできたんでしょうか。
山崎さん
今回のタギングで描いているのは、日本語に訳すと「言葉はうつわ。あなたはそれになれる」という詩です。うつわはあえてcontainer と英訳しました。いわゆる高級なうつわじゃなくて、誰もが持っているタッパーウェア的なうつわをイメージしてもらえるように。言葉って発することで現象化していくものですが、「日常の言葉をどう使うかで、自分自身にどういう価値をつくっていくか」というところで浮かんできた感じです。こうして言葉を作品にする僕自身もうつわだし、感覚的ではありますけど、言葉を口にすることについてポジティブなメッセージになればと。
茂田
円城さんの作品は、音楽もそうなんですけど、考える余白があるんですよね。このタギングもすごく密集して描かれているんだけど、最後のピースは埋まっていなくて、味わっているうちに意識を超えたところに見つかるというか。
山崎さん
そうですね、人の生活や思考が入ってくることで完成するところはあると思います。今回のこの白い磁器のボトルも、手を洗うために使って、使い終わったら花を挿して花器として使ったりできる。白だから手垢で汚れることもあるし、手にしたその人の使い方が反映されていって、二つとない美しい作品になっていく。
エンボスされた言葉、精油の香り、民藝としての体験的アート。
茂田
この磁器ボトルは、江戸時代に醤油を外国に輸出するときに使われていたコンプラ瓶というのを僕がアンティークで入手して。それをベースに、円城さんの細かなタギングをエンボスで出してもらうのに、窯元が型づくりに60時間くらいかけてくれました。佐賀の嬉野市にある備前吉田焼の窯元なんですけど、「こういう仕事をしたのは初めてです」と苦戦しつつも「めちゃくちゃかっこいいですね」とも言ってくれて。
山崎さん
磁器にエンボスでタギングを表現するにあたり、ボトル自体がエイジングしていったときの美しさというのもすごく大事にしたかったんですよね。いろいろ試した結果、最終的にマットな白にしたら、茂田さんと僕がイメージするものに近づけるんじゃないかとなって。
茂田
そうですね。前回お話した、本来の「エイジング」=「成熟」であり「年を重ねて魅力を増すこと」というところを、しっかり体現した芯を持ったものになったと思います。そして感性の時代の幕開けを祝うアイテムとして、中身は誰もが使えるものが良いよね、ということで中身はハンドソープを選びました。
山崎さん
毎日使って、時を経て、物が育っていく。ある意味これって体験の芸術、インスタレーションにも近いというか。生活の中で使ってもらって、言葉と一緒に暮らしてもらうことで、アートが完成する。ボトルに刻んだ「言葉はうつわ、あなたはそれになれる」の通り、人間自身もそうだと思ってます。そんな、ダブルもしくはトリプルミーニングを持った面白いアイテムになったかなと。
茂田
体験といえば香りもそのひとつで、手を洗うって最も身近に香りを楽しめることでもあって。僕が担当した調香について少し触れると、今回使っている精油は、ベチバー、セージ、コリアンダー、カルダモン、グレープフルーツです。中心となっているのはベチバーの香りで、ベチバーはイネ科の植物の根っこの部分。地に足をつけてアーシング*するような、人の心に落ち着きを取り戻させてくれる香りです。そこにカルダモンやコリアンダーの香りでアジアンなニュアンスを持たせ、セージやグレープフルーツで軽やかに抜けるような印象に仕上げました。
*アーシング
素足や手で直接大地に触れることで、身体と大地を繋げる健康法。
山崎さん
汚れた手を洗うためのハンドソープというところで、まさか自分が生きてる時代に戦争が二つも起こるなんて思いもしなかったし「いよいよ世の中が行き詰ってきたな」と日々感じている僕としては、「悪しき何かを洗い浄めましょう」っていうメッセージも浮かんだりしました。
茂田
メディテーションを彷彿とさせる香り立ち、セージの邪気払い、そして汚れの浄化、新しいパラダイムを迎えるための儀式的要素を持ったユニークなハンドソープが出来上がったと思います。スポットでの限定販売ですが、ぜひ音楽やアートの延長として楽しんでいただけたらと思います。
最終回となる次回は、音楽やアイテムの制作を共にした現在、茂田と山崎さんがそれぞれの立ち位置から捉える、文化創造のビジョンについてお伝えします。
PROFILE
山崎円城
音楽家 / 詩人 / タギングアーティスト
1970年、神奈川県川崎市生まれ。10代より独学で音楽活動を始め、1996年にリトル・クリーチャーズの栗原 務らと組んだユニット、Noise On Trashでデビュー。2003年、ファッション誌「Commons & sense」とのコラボレーションをきっかけにF.I.B JOURNALとしての活動を開始、”ジャズパンク”と称される作品を多数発表している。音楽活動のかたわら、詩人としてこれまでに2冊の詩集を発表、現在3冊目を制作中。「好きな言葉の共有」を目的に不定期に開催される朗読会「BOOKWORM」の主宰も務める。また、アーティストとしてグラフィティアートのいち手法とされる「ダギング・カリフラフィー」の制作と発表にも情熱を注いでおり、2022年より3年続けて『galerie-a』(東京・南青山)にて個展を開催、ファッションブランドとのコラボレーションも多い。
茂田正和
株式会社OSAJI 代表取締役 / OSAJIブランドディレクター
音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI(オサジ)』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香–」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJI、kako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。2024年2月9日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。
https://shigetanoreizouko.com/
F.I.B JOURNAL
国内屈指のポエトリージャズバンド。2003年に山崎円城のソロプロジェクトとして始まり、2005年よりEGO-WRAPPIN’のサポートベーシストとして活動する真船勝博、ドラマーの沼 直也が加入、トリオ編成に。現在までにトリオ編成で5枚、オーケストラ編成で1枚、音楽ユニットTICAの武田カオリをボーカルに迎えて1枚の計7枚のアルバムを発表。近作は、過去の楽曲のフレーズの一部をサンプリング・コラージュして再構築した「This is GHOST」(23年秋に配信プラットフォームでリリース)。タギングによるアートワークを山崎自身が手がけた。2024年11月20日に最新アルバム「現象 hyphenated」を配信リリース、12月14日には『ADRIFT』(東京・下北沢)でリリースライブを開催。
http://fib-journal.net
〈Product〉
2024年12月5日(木)より限定発売
【LIMITED】
OSAJI -Madoki Yamasaki Limited Hand Wash
“言葉のうつわ”
300mL / ¥14,300(税込)
“You’re the only one to be the container of your words.” -言葉は器、あなたはそれになれる-
山崎円城氏がボトルに書き込んだその詩を、嬉野焼の窯元にて磁器に掘り起こした作品。そこに茂田がこれまでのパラダイムを洗い流し、新たなパラダイムを迎える意を込め処方したハンドソープを満たしました。エディション・ナンバーを一本ずつ入れて、300本限定で販売いたします。磁器ボトルには真っ白なシルクマイカ釉薬を使用。使い込むプロセスで発生した汚れも味わいと捉え、手に取った一人ひとりの人生に寄り添うデザインです。使用後は付属のアルミキャップに付け替えると一輪挿しへと生まれ変わります。
〈先行Exhibition〉
言葉のうつわ OSAJI – Madoki Yamasaki
OSAJIブランドディレクター茂田正和が掲げる「美容は不老不死を目指すことではなく、 個性と対峙してありのままの自分を輝かせること」という言葉に山崎円城氏がインスパイアされ、言葉を紡ぎ表現したエキシビション& OSAJI – Madoki Yamasaki Limited Hand Wash “言葉のうつわ”の限定販売。
◾️会期:2024年12月6日(金)~12月15日(日)12:00〜20:00
◾️会場: galerie a (東京都港区南青山6-9-2 日興兒玉パレス104)
※入場無料・予約不要
<OPENING RECEPTION>
◾️日程:2024年12月5日(木)17:00~21:00
◾️会場: galerie a(東京都港区南青山6-9-2 日興兒玉パレス104)
※入場無料・予約不要
<Exhibition>
言葉のうつわ OSAJI – Madoki Yamasaki
OSAJIによるレストラン ・ショップ・ 調香専門店の複合型ショップ「enso(エンソウ)」では”食”や”香り”の体験を通し、心身の”調律”を行い日常生活に心地よい循環を生み出すことを目指しています。鎌倉地域に関するアート展示やカルチャーの発信も行なっており、今回のコラボレーションに合わせて特別展示を実施。OSAJI – Madoki Yamasaki Limited Hand Wash “言葉のうつわ”も限定販売。
◾️会期:2025年1月16日(木)〜1月27日(月)
◾️会場:enso(神奈川県鎌倉市小町2丁目8-29)
◾️定休日:水曜日(祝日の場合、翌平日)
https://www.enso-osaji.net/
※入場無料・予約不要
2024.11.20 配信 Album
『現象 hyphenated』
F.I.B JOURNAL
1.木を知る – I know the tree
2.君の選択 – What do you want to do
3.水たまりが空を映した – Sky in a puddle
4.言葉にならない言葉を見つけてそれを名付ける – Name it
5.あなたを理解する – Understand you
6.答えも人と同じように老いる – Dead old answers
7.言葉はそれを映す – Mirrors that reflect
8.川が重なる – River is us
9.光が差し込むのはきっとそこから – Find the light?
各種配信サービス・サブスクリプションサービスにて配信スタート。
http://fib-journal.net
〈Live Information〉
F.I.B JOURNAL
アルバム「現象 hyphenated」
◾️開催場所:ADRIFT (東京都世田谷区北沢3-9-23 )
https://adrift-shimokita.com/
◾️開催日時:2024年12月14日
Open(DJ Start) 17:30 / Start 19:00
◾️料金:8,000円(税込)※ 1 food ticket・1 drink ticket込み
―F.I.B JOURNAL―
山崎円城(Vo+G)
沼直也(Dr)
真船勝博(Wb)
―Guest―
武田カオリ(Vo)TICA
Little Woody(Wb)
金津朋幸(Sax)
井登友一(Trombone)
icchie(Tp)YOSSY LITTLE NOISE WEAVER
斎藤裕子(Violin)acoustic dub messengers
手島絵里子(Viola)
ハタヤテツヤ(Piano)
PA:西村光記
DJ:濱田大介(Little Nap COFFEE STAND)
text:Kumiko Ishizuka