▼anno 阿武真亜子さん / 山崎勇人さん | SPECIAL INTERVIEW

外と家の、真ん中。
温かさと新しさが共存する食空間。

東京・浅草橋にある、外食と家庭料理のあいだのような料理を楽しめるお店“anno”。一口食べるとほっとする温かさと同時に、新しさも感じる旬の素材を生かしたメニューが人気です。お店のこだわりやオープンまでのストーリーを店主の阿武真亜子さんと山崎勇人さんにうかがいました。
※2022年に公開した記事の再掲載となります。


外食の特別感と家庭料理の温もりを。

会社帰りに、友人と遊んだ帰りに、立ち寄って一杯。下町の職人が多く点在する街・浅草橋の一角に、独特の趣で佇む食空間“anno”。外食と家庭料理のあいだのような、旬の食材を生かした予約制のコース料理と、お酒の豊富さが人気の秘訣だ。

「家ではなかなか作れないけれど、手間暇かかった家庭料理をふと食べたくなる時ってありますよね。外食をする時の特別感もありながら家庭料理の温かさを感じられる。そんな場所を作りたくてこのお店をオープンしました」

「食材選びは出会いを大切にしたいので、なるべくこれまでの繋がりから仕入れています。魚は福岡の友人に送ってもらい、お米は茨城県のお米農家の友人から。顔が見える食材を扱うからこそ、ロスを出さずに食べてもらいたい。そう思い、オープン当初はアラカルトだったメニューをコースに変更したり、食材を生かした調理法を考えてみたり。これからも人とのご縁や、食材を大切にしていきたいなと思います」

お酒のラインナップは夫の山崎さんが担当しており、日本酒・自然派ワインをメインに幅広くセレクトされている。

「産地はあえて限定せず、料理とのマッチングを考えて取り揃えています。メニューは旬の食材に合わせて1・2ヶ月ごとに変えているのですが、お酒も同様に、定番もありつつ、その時々に響くものを循環させて常連のお客様にも楽しんでいただけるようにと考えています」

直感と感性に導かれ、好きを形に。

才能溢れるさまざまなクリエイターが行き交う街・蔵前で出会った2人。デザイン会社を営む山崎さんの姿をみているうちに、自分でも何かやってみたいと思うように。そんな時この物件に出会い、「ここでなら飲食店をやってみたい!」と思ったという店主の阿武さん。

「料理をすることが好きで、会社員時代は遅く帰ってきても必ず何か作っていました。純粋に、食材に触れて料理をしているだけで幸せというか。こうなりたい、こんなすごいお店にしたいという野心に溢れてオープンしたというよりも、自分の生活を豊かにする延⻑線上で、まわりの方にも居心地の良い空間をもたらすことができたら、という感じでした」

しかしながら、飲食店での経験はなく、この場所でと決めた物件には業務用のガス管を通せず家庭用の調理機器しか設置できないという条件も。

「経験がないことや置かれた環境が、逆に常識に問わられず新しい発想を生み出すきっかけになっているかなと思います。レストランのようなスペシャルすぎるものは難しいけれど、外食しているからこその楽しみや新しい発見を味わえて、家庭料理のような温かさを感じる料理を提供できたらと思っています」

料理を引き立てる、 シンプルで居心地の良い空間作り。

内装デザインは、夫の山崎さんが担当。

「料理やお酒が主役になるようできるだけシックに。個性を出しすぎないことは意識しました。“LESS IS MORE”という言葉がありますが、引き算のデザインを大切に。 too muchすぎるとだんだん疲れてきますよね。シンプルで主張しない居心地の良さがあり、でもどこか非日常のような。そんな空間作りを意識しました」

できる限り市場に流通しているものを使わずに空間作りをしたいと思い、照明器具はオリジナルでデザイン・製作し、カウンターや建具の仕上げには和紙を選び、自身で施工しました。

「壁がモルタルだったり全体的に無機質な分、手に触れるところはできるだけ温かみを感じていただけるような素材を選定しました。全てに手を加えてしまうとこの空間独特の時代背景を感じられなくなってしまうので、天井はあえてスケルトンのままにしています」

そして、この空間作りの要といえるのが“照明”。

「建築中、実際にお店を営業している時間帯の明るさを確認しながら、光をチューニングしていきました。全体的にはかなり落ち着いた照度ながら、手元は明るい。オープンキッチンなので、その光が丁度良い具合に差し込むようにカウンターの高さを調整したり、居心地良く過ごせる空間作りを意識しました」

いつでも身近に気軽に、 季節を感じ旬を味わってもらえる場所に。

「純粋に旬のものって美味しいですよね。東京で暮らしているとなかなか季節を感じづらいので、食べる物で旬を感じてほしいなと。近所の方や気に入って下さった方が、日常の食事の選択肢としてannoを選んでくださる。それがとても幸せなことだなと思います。これからも、選んでくださる方を大切に自分たちなりのおもてなしを築いていきます」


めしと、さけ anno

住所:東京都台東区浅草橋3-29-5 2F
営業時間:17:30 22:00L.O.21:30
定休日:日曜・月曜・祝日
https://annomeshi.com/


photo:Yuto Yamazaki
text:Ayumi Oguma


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