ノドグロと魚醤 | 第2回

OSAJIが鎌倉に展開する〈enso〉。
調香専門店とショップを併設するこのレストランでは「鎌倉野菜を主に旬の食材、自家製の発酵食品や調味料を使った創作料理のコース」を季節ごとにメニューを変えて提供しています。

この連載では、食材、調味料、調理方法などに対しての自分の想い、そして、ご家庭でも取り入れやすいレシピやワンポイントなどもご紹介していきます。〈enso〉の料理やコンセプトを感じていただけたらと思っています。

ensoシェフ
藤井匠


第2回
ノドグロと魚醤

今年の秋、ensoで行う予定のお料理イベント。その打ち合わせのため、先日、一泊二日で石川県の金沢と小松に行ってきました。 

近江町市場を見学したり、和食店で地元食材の使い方を学んだり、農家さんを訪ねたり、捕らえた害獣を食肉に加工する施設を見学したりと、学びの多い時間でした。今回得た味覚や体験を、早くensoで表現したくてウズウズしています!

近江町市場には、石川の気候風土の中で育つ加賀野菜や能登野菜、鰤やノドグロ・エビなど日本海に面しているからこその新鮮な魚介類、そしてその魚介類を使った保存食がたくさん並んでいました。

現代と違い、食材が安定的に手に入らなかった時代には、食材を捨てずに食べきり、食材が少ない時期に向けて保存食にしたりしていました。今回は、そんな昔の人の知恵が詰まった現地の保存食や発酵食・郷土料理に特に興味が沸きました。

鎌倉に戻り、早速、秋のイベントに向けて加賀野菜や能登の魚介を現地の手法で保存食や発酵食に加工しています。どんな仕上がりになり、それをどのようなお料理に仕立てるか。頭を悩ませながらも一番楽しい時間です。

発酵食作りが得意のenso。今回の連載では、イベントにも登場予定の魚醤の作り方をご紹介したいと思います。せっかくなので、石川でメジャーなノドグロの魚醤です。

喉奥が黒いがゆえのノドグロの正式名称はアカムツ。ムツ=脂っこいの意味の通り、年間を通して脂がのっている魚体の赤い高級魚です。お刺身ではもちろん、煮てよし焼いてよしと、とてもおいしいお魚のため、そのまま食べたい気持ちを抑えて数カ月かけて発酵させていきます。

魚介を発酵させる、と聞くと難しく感じるかもしれませんが、その作り方、実はとても簡単です。

お魚を捌いて頭と骨を取り除きます(この時内臓は捨てずにとっておきます)。

捌いたお魚の身と内臓の重さを量り、重量の18%のお塩を全体にまぶし、消毒した保存容器に詰めて上から重しをして空気を抜きます。

塩分濃度が10~15%で、酸素がない状況で腐敗菌は生息できないので、腐敗しない環境を作ってあげるわけですね。そこから数カ月。常温に置いておくと水分が出てくると同時にいい香りがしてきたら濾して、出てきた水分が魚醤です。

残った固形物はアンチョビのようなイメージでお料理に使うことができます。

魚醤とアンチョビをミキサーで回してペーストにしても使いやすいですね。

できた魚醤は、そのまま使ってもいいですし、そこからさらに数カ月~数年置いておくと水分の色がだんだん黒くなって熟成し、少しづつ風味も変わっていきます。

この発酵するまでの期間に保存容器内では、魚体の内臓中にある、餌を食べて消化するための消化酵素が、魚体のたんぱく質を時間をかけて分解しています。

たんぱく質は分解されるとアミノ酸=うま味に変わるので、おいしい魚醤ができあがるわけです。

もちろんノドグロでなく、他の大衆魚やイカなどの軟体動物でも同様の方法で作ることができます。ensoではノドグロの他にも鰯醤、イカ醤、ホタテ醤、少し作り方は異なりますが牛肉醤や軍鶏醤などを作っています。

ここまで手間と時間をかけてできあがる魚醤ですが、最近はスーパーでも手ごろな値段で購入することができるので、たくさんの時間と労力を費やして自家製することはおすすめしません(笑)

とはいえ好きな魚種で、自家製ゆえの経過の観察が発酵食品作りの楽しいところです。
興味のある方は、ぜひ作ってみてください。


藤井 匠
enso シェフ


大学で心理学専攻し卒業後、都内のホテルやイタリアン、フレンチで調理を学ぶ。2013年、INTERSECT BY LEXUS TOKYO開業時よりスーシェフに就任。2017年にはWE ARE THE FARMグループ全店の総料理長となり、グループが持つ畑作業にも従事。2018年、L’Effervescenceでの研修を経て姉妹店であるbricolage bread&co.開業時よりヘッドシェフを務める。2022年4月より「enso」ヘッドシェフ就任。


enso


住所:神奈川県鎌倉市小町2丁目8-29
営業時間:
平日 / 10:30〜18:00(調香体験・ショップ)
   11:00〜18:00(レストラン)
土日祝 / 8:00〜18:00(調香体験)
    8:00〜19:00(レストラン・ショップ)
定休日:水曜日(祝日の場合、翌平日)
https://www.enso-osaji.net


STAFF DIALOG
OSAJIの美意識とクリエイティブを巡るダイアローグ。

OSAJI ブランドディレクター 茂田正和・OSAJI デザイナー 石井このみ・OSAJI メイクアップアーティスト 後藤勇也・enso シェフ 藤井 匠の対談はこちら