▼TOUMIN ×enso Collaboration Dinner | SPECIAL REPORT
発酵と地産地消「神奈川の夏」を心ゆくまで堪能する、一夜限りのスペシャルディナー
きらめく夏の陽射しに恵まれた7月28日(日)。鎌倉・小町通りの裏路地にあるOSAJIによるレストラン『enso』で開催された、西麻布にあるモダンフレンチレストラン『TOUMIN』とのスペシャルコラボレーションディナー。“発酵と地産地消”をテーマに、2人のシェフによるめくるめく発酵の世界と、旬の豊かな味わいをお届けしたスペシャルな一夜をレポートします。
日本全国の個性豊かな旬の食材と発酵をテーマに、フレンチ仕込みの確かな技術と自由な発想で素材本来の味わいを表現する『TOUMIN』のシェフ・井口和哉さんと、鎌倉の旬野菜を主に、自家製の発酵食品や調味料を使い、彩りや香りを楽しむモダンフレンチを手掛ける『enso』のヘッドシェフ・藤井匠。
互いに“発酵”を取り入れた料理を仕立てる者同士として、以前からお互いの存在は知っていたものの、直接交流する機会はなかったそう。SNSでのメッセージのやりとりをきっかけに親睦を深め、本コラボレーションが実現したといいます。
イベント当日の朝、鎌倉市民の台所「鎌倉市農協連即売所(通称:レンバイ)」を一緒に訪れ、地元の朝採れ野菜を調達した両シェフ。それぞれが持ち寄る発酵食品や調味料を使い、どのようなアプローチでコースに落とし込むかは、イベント当日に調理しながら微調整を加えて整えていきます。
「お互いのスペシャリテを交互に出し合うコースではなく、2人で一皿ずつ一緒に作り上げることで、この日この瞬間この食材たちでしかできない表現を楽しんでほしい」と語る井口さん。「2つのレストランの発酵食材・調味料を合わせたらおそらく100以上になる。僕たちに発酵できないものはないです。このイベントを通して発酵料理の可能性を感じて欲しい」と藤井。直接会うのは、今日で3回目とは思えないほど、息ぴったりな両シェフ。それぞれの世界観をすり合わせながら、一品一品を一緒に仕立てていくキッチン内は、和やかな空気とライブ感に溢れています。
互いの個性が掛け合って生まれる全8皿の料理は、発酵料理の新たな楽しさと、ひと夏の旬の美しさ溢れるラインナップ。
〈全8品のお料理をご紹介〉
涼やかさと個性が溢れる一杯でスタート
はじまりの一杯はそれぞれの自家製ノンアルコールドリンクで乾杯を。大葉の涼やかさと発酵白葡萄の可憐な香りが美しい『enso』のシグネイチャードリンク「白葡萄 大葉」(左)。小田原産の黒文字、日向夏と鎌倉発祥アロマ生チョコレートブランド「MAISON CACAO」のカカオハスク(カカオ豆の外皮)を使った「カカオハスク 黒文字と日向夏のシロップ」(右)は、複雑な旨みと柑橘の爽やかな飲み心地。『TOUMIN』のソムリエ・島村滉輝さんによる、今宵の特別な一杯です。
「トマト 発酵無花果 発酵トマト」
季節のみずみずしいフルーツトマトが主役の一皿目。2日間かけてセミドライにしたフルーツトマトを、発酵させた無花果の果汁に漬け込み、湘南豚の生ハムと無花果の葉っぱに包んで香りづけ。発酵トマトのサワークリームを合わせていただきます。ほんのりとビターな青々しさのある香りをまとった果実味溢れるトマトが、熱った体にスッと染み込みます。
「縞鯵 発酵セロリ」
藤井が1週間前に仕入れ、じっくりと熟成させた神奈川県産の縞鯵を使った前菜。ねっとりとした縞鯵の余韻を引く脂のうまみ、フレッシュな塩揉みゴーヤときゅうりの食感がアクセント。清涼感あるセロリ醤油とカボスの果汁、一番出汁のジュレとともに。『enso』の庭で採れた柚子の果汁につけた柚子の花を最後にあしらい、キュッとした酸味も加えた冷涼感あふれる一皿です。
「鎌倉産万願寺唐辛子とオクラ 発酵イカ墨 イカラルド 発酵花山椒」
春からピクルス漬けにしていた花山椒と、旬真っ盛りの鎌倉産万願寺唐辛子の天ぷらのコンビネーション。発酵によって生まれる産物“季節違いの素材の出会い”を堪能する一品。イタリア料理のラルド(豚の背脂の塩漬け)をイメージし、イカ、塩、イカの内臓で作ったイカラルドで塩気をきかせて。トロリとしたオクラとおかひじきのソース、発酵させたイカ墨ソースを絡ませ、揚げたての食感と味わいに変化をもたらします。
「黒ムツ 発酵プラム 発酵トマトしょうゆ 発酵菊芋とメロン」
『enso』のコースにも登場する、炊き込み醤油雑穀ご飯の焼きおにぎりを、小柴漁港産黒ムツでお寿司仕立てに。“井口さんが持参した発酵菊芋が、ガリのような風味に感じられた”ことから、藤井が着想を得た一品。鼻へと抜ける焼きおにぎりの香ばしさと、熟成された黒ムツの淡白な味わいをさらに引き立てるのは、梅干しのようなニュアンスの鎌倉産発酵プラムのペースト。まろ味あるしょっぱさの発酵トマトしょうゆにつけて、パクリといただきます。
「ズッキーニ 発酵行者にんにく 発酵ライム」
ソテーしたズッキーニに、発酵させた行者にんにくとズッキーニとバジルのソースを合わせて。カリッとした食感がアクセントの鎌倉産枝豆と、発酵乾燥させた真っ黒なライムを削り、中東の調味料「デュカ」のような香ばしさをプラス。溢れ出るズッキーニのみずみずしさと、行者にんにくの力強い香りが溶け合って生まれる凝縮された味わいは、噛めば噛むほど深みを増します。
「小柴穴子 発酵青海苔 発酵猪」
穴子の名産地、小柴港で水揚げされた穴子を炭火で蒸し焼きに。発酵させた青海苔と冬瓜のすり流しが、皮目の香ばしさと調和します。藤井がハマっているという発酵させた猪肉を使った調味料「猪醤」は、井口シェフのアイデアでマヨネーズの香り付けに。つるむらさきと猪醤マヨネーズを和えて、じゅんわりとした茄子の上に。剥いた茄子の皮は細かく刻み、フランボワーズビネガーと猪肉醤で、さっぱりと。付け合わせ野菜と穴子の味わいのコントラストが楽しいメインディッシュです。
「そうめん 発酵人参」
食事の締めくくりは、夏らしさ全開のひんやりそうめん。鰹と昆布でとった一番出汁に、人参の甘みがきいた人参醤油でぎゅっとした深い味わいを。ビーツ醤油がベースの三杯酢で和えた、バターナッツかぼちゃとパプリカを一緒に。小さなバジルと焦がし醤油オイルで、香りのリズムも。食感、彩り、香りの遊び心を散りばめながらも、どこか懐かしくほっとする味わい。
「足柄牛乳 横浜産ブルーベリー 発酵蜂蜜」
箱根の足柄牛乳を使ったブランマンジェに、大粒の横浜産ブルーベリーと、乳酸発酵させたアカシアの蜂蜜をあしらったデザート。塩気の利いた発酵蜂蜜の華やかな香りと、すっきり凛とした味わいでなめらかな口どけのブランマンジェは、ひと口ひと口が愛おしく感じられる〆にふさわしい味わいでした。
至高のコラボレーションを終えて。
北海道『ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン』で経験を積んだ井口さん。一方、『ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン』出身の生江史伸シェフの『レフェルヴェソンス』の姉妹店で経験を積んだ藤井。これまであまり面識はなかったものの、実はルーツとなる師匠が同じという2人。本コラボレーションで垣間見えた、その確かな技術と料理スタイルの真髄は、共通する経験から生まれたバランス感覚とセンスによるものでもあったとか。
「初めて一緒に料理してみて、野菜に対する手のかけ方、そのバランスの取り方に共通点を感じた」と両シェフは語ります。植物性素材がメインの時には、肉醤などの動物性素材で味わいを引き立てるなど、またその逆も然り。新鮮さを活かす素材もあれば、あえて発酵させることで熟成されたおいしさを表現する素材など、コースではさまざまな素材が2人による発酵というフィルターを通して、ゲストを楽しませてくれました。
「東京ではない場所で、その地場の食材を料理するという経験は、積極的にやっていきたいと思っていることのひとつでした。東京ではなかなか実現できない、その日の朝採れ野菜を自ら選び、使って料理できる理想的な今回の環境は、ローカルガストロノミーらしさが詰まっていて素晴らしかった」と鎌倉でのイベント開催の醍醐味を語ってくれた井口さん。
『TOUMIN』では全国各地から多様な食材を取り寄せる一方、収穫から配達までにかかるタイムラグを逆手に新鮮さを売りにせず、生産者から届く素材を一層磨く加工や発酵技術を極めてきました。「野菜を使った醤油のバリエーションや肉醤など、藤井の発酵調味料の多彩さや、自由さも勉強になりました」と言います。
一方で、『enso』を始めて2年半、鎌倉で日々料理をする藤井は「新鮮な素材が手に入るのはもちろんありがたいこと。それ以上に、お互いの顔が浮かぶほど交流を深めた地元農家さんとの関わりの延長線上で野菜を購入し、料理できることが喜び」だといいます。そんな日々の中で、地元素材のおいしさを発酵の力でより魅力的に引き出し、新たな発見とともに届けてきました。
「発酵調味料ひとつにしても、こんなアレンジをしてみたらおいしいんじゃないか?という、井口さん独自のアプローチに発見がありました。自分の今後の料理の幅を広げてくれる機会になりました」と、本コラボレーションで得た発見を語ってくれました。
料理をする場所は違えど、両シェフが発酵を通して届けたい“おいしさの背景”には、生産者への敬意から生まれる、素材との真摯な向き合い方があったようにも思えます。「どの土地でも、どこの食材でも自分のルーツをもって地産地消を表現できる料理人でいたい」と地産地消への想いを語ってくれた両シェフ。鎌倉という地で巡り合った素材が、2人のシェフによる発酵というひと仕事と、それぞれの想いによって紡がれていることが実感できる内容でした。
発酵の新たな表現を心ゆくまで堪能させてくれる、創意工夫と探究心にあふれた本コラボレーション。次回はどのような素材と発酵のアイデアで、おいしい体験を届けてくれるのでしょうか。お楽しみに。
PROFILE
井口和哉
TOUMIN シェフ
1988年兵庫県生まれ。大阪の調理師専門学校卒業後、フレンチの世界へ。「タテルヨ シノ銀座」、「ル・コントワール・ド・ブノワ」、「ミッシェル・ブラス トーヤ ジャポン」 などの名店で研鑽を積んだ後、「ビストラン エレネスク」のシェフを経て、2019年、野菜を軸としたフレンチレストラン「REVIVE KITCHEN AOYAMA」のシェフに就任。 旬の食材を使用した一皿のなかで変化を楽しめる料理が定評。2017年・2018年には 2年連続で料理人コンペディション「RED-U35」でシルバーエッグを獲得。2022年、 東京・松濤に3ヶ月限定の POP-UP レストランをオープンするとともに、「世界一おいしいサスティナブルフード」プロジェクトに参画。企業の食材開発のコンサルティング やメニュー開発など幅広く活動している。2023年10月に東京・西麻布「TOUMIN」 をオープン。
藤井匠
enso ヘッドシェフ
1983年東京都生まれ。大学では心理学専攻し卒業後、都内のホテルやイタリアン、フレンチで調理を学ぶ。2013年、〈INTERSECT BY LEXUS TOKYO〉開業時よりスーシェフに就任。2017年には〈WE ARE THE FARM〉グループ全店の総料理長となり、グループが持つ畑作業にも従事。2018年、〈L’Effervescence〉での研修を経て姉妹店である〈bricolage bread & co. 〉開業時よりヘッドシェフを務める。2022年4月より〈enso (エンソウ)〉ヘッドシェフ就任。
TOUMIN
その時季に手に入る新鮮で個性豊かな食材と発酵した食材を組み合わせた一皿を、 目の前で仕上げる 12 席のカウンターレストラン。フレンチの名店でキャリアを磨き、野菜を軸としたフレンチ「restaurant RK / REVIVE KITCHEN THREE AOYAMA」のシェフを務めた井口和哉が提案する「身体が喜ぶモダンフレンチ」。
■住所 / 東京都港区西麻布 2丁目24-14 BARBIZON73 2F
■営業時間 / 火-金曜日18:00〜 土曜日 12:00 〜 / 18:00〜
■定休日 / 日・月曜日
■お問い合わせ先:toumin@ec-corp.jp
https://www.instagram.com/toumin_restaurant/
enso
鎌倉野菜を中心とした「彩り・香り」を楽しむレストランをメインに、OSAJIのセレクトアイテムやグロッサリーも扱うショップや調香専門店「kako -a scent-」を併設した複合型ショップ。レストランでは『WE ARE THE FARM』の総料理長や『bricolagebread & co.』のヘッドシェフも務めていた料理長・藤井匠が手掛ける、旬の鎌倉野菜がたっぷりつまったお料理をお楽しみいただける。
■住所 / 神奈川県鎌倉市小町2丁目8-29
■営業時間 / 平日 10:30〜18:00(調香体験・ショップ)・11:00〜18:00(レストラン) 土日祝 8:00〜18:00(調香体験)・8:00〜19:00(レストラン・ショップ)
■定休日 / 水曜日(祝日の場合、翌平日)
https://www.enso-osaji.net