▼F.I.B JOURNAL 山崎円城さん×OSAJI ブランドディレクター茂田正和|SPECIAL CROSS TALK〈vol.3〉
ブランド使命の一つとして、“美しさを育むには、化粧品だけでなく感性を刺激する五感からのアプローチも大切”という発信をするようになり数年。今、OSAJIディレクター 茂田正和が抱いているのは「感性の豊かさは健やかな精神の上に育まれるものであり、そのためには多様な個性を尊重する文化的社会という基盤が必要」という想い。その基盤づくりの仲間として、今回タッグを組んだのがミュージシャンとしてF.I.B JOURNALを率い、詩人、タギングアーティストとしても活躍する山崎円城さんでした。
幼い頃から自身の表現活動に集中しながら、世界を旅して見聞を広げてきた山崎さんの視点。一方で、化粧品開発や食器プロデュースといったクリエーションと企業経営、つねに両輪で稼働してきた茂田の視点。最終回のvol.3は“文化創造”というテーマからひも解く二人それぞれの視座と、これからのビジョンについてのお話です。
アートに触れる機会や場を創ることが、文化的社会への第一歩。
茂田正和(以下、茂田)
合理性やロジカルさを求められる感じがまだまだ世の中にある中で。今回の「“聴く美容”をテーマにF.I.B JOURNALで音楽をつくってくれませんか」とか、「円城さんのタギングアートとOSAJIで一緒にものづくりしませんか」っていう僕からのお誘いは、「もっと感性で生きていい時代だよね」という円城さんとの対話から湧き上がったものでした。
山崎円城さん(以下、山崎さん)
確かに僕がやってるような仕事に対して「いくら稼げるんですか」みたいなことを聞いてきて判断する人って、まだ沢山いますね。「これからは感性の時代だ」と言っても、僕ですら過去には自分の社会性の無さに嫌気がさして、ちゃんと給料の出る新聞記者という仕事に就いたことがあるし。でも結果的に、その仕事は飲みの席で会社の社長と揉めて1ヶ月で辞めました。辞めた時はちょうど春で、桜が咲いていて。でも綺麗な桜を見ても、全く何も感じられなかったのをよく覚えてますね。
茂田
精神的な余裕がない時って、何を見ても聞いても感性に響かないものですよね。
山崎さん
今の仕事は、忙しい時もあれば、笑っちゃうほど暇で稼げない時もあります。でも僕は、自分の人生はすごく素晴らしいものだと感じてるし、誰にでも時間とともに培われていることはちゃんとあって。もちろんクリエイティブなことに従事していない人だって、積み重なった時間には必ず意義がある。だから感性というところで捉えると、社会の中でどうマネタイズするとかより、時を積み重ねてきたこと自体が素晴らしいんだと。蓄積されたものに無駄なものはないし、そういうベストチョイスの上に成り立っている今は、その人の最先端。それって、すごくアートなことだと思うんです。
茂田
感じる、感動するっていうのは、物事が今の自分の心情にどれだけ共振しうるかなんだな、と最近よく思います。
山崎さん
そうですね。人によって、感じることに対する得意・不得意っていうのは、多少あるかもしれない。自分の周りでも「アートをどう見ていいかわからない」っていう人はいます。でも正直、僕だってアートの正しい感じ方なんてわからない。純粋に自分が好きか嫌いか、どっちに心が動くかで良いんじゃないかと。
茂田
僕はもともと、「誰かのために」というのが行動の動機になりやすくて。好きだと感じたら、伝えたり広めて共有したくなる。一方で、嫌いというよりは違和感や異論というものも、ちゃんと伝えることがすごく大事だと思うんです。両方があるから多様な個性を認め合う豊かな社会が創られるはずだから、じゃあそのために自分はどんなことができるのか。そういうことを考えていた時にふと浮かんだのが、資生堂元会長の福原義春さんとサックス奏者の渡辺貞夫さんの関係性でした。
多様な個性を受け止める、うつわづくりとしてのアーティスト支援。
茂田
中学生の時、渋谷のBunkamuraオーチャードホールで行なわれた、資生堂 presentsの渡辺さんのコンサートに行ったことがあるんです。毎年クリスマスの時期に開催されるので、帰る時にお土産で資生堂の香水のサンプルボトルが配られたりして。今でこそ仕事で調香とかもしますけど、当時の僕は化粧品自体にもそこまで興味がなくて、ただその豊かな文化の香りに素敵だなって感動したんです。その渡辺さんのクリスマスコンサートは、今も続いています。壮大な言い方になりますけど、僕はそんな風に円城さんをはじめアーティストを支援できるような、文化資本経営の会社を目指したいと、この数年で思うようになりました。
山崎さん
面白いことに、茂田さんと僕の関係性のような動きが、最近は海外とかでも出てきてるらしいんです。南米フォークロア系のミュージシャンが年に複数枚のアルバムを制作するという活動に、いわゆる会社がサポートをされているという話も近い友人から聞いています。それとはまた別に、日本では地域の小さなお店で10人くらいのお客さんの前でライブをしているようなミュージシャンが、海外に出たらものすごく人気が出ちゃったりする現象とか。制作環境、繋がり方や拡がり方と、世界的に音楽のかたちが変わってきているのを感じます。
茂田
音楽業界にいたというのもおこがましいくらいのレベルではありますが、僕がDJとかで音楽に関わっていた90年代は、多様な音楽がたくさん出てきて、楽しくも刺激的な時代でした。ただ、僕がその後レコーディングエンジニアを目指して本格的に業界に飛び込んだ90年代終わり頃からは、大資本が参入してきて「CD売り上げ200万枚!」みたいなちょっと気持ち悪い現象が起きはじめて。結果、多様だったはずの音楽はどんどん均一化してしまい、僕個人としては以前のような夢を感じられなくなりエンジニアの道も志半ばで諦めてしまいました。そんな苦い経験もあって、好きだと思う音楽とか、自分が楽しいと思うことを伝え広めるには、自分自身の会社でやる必要があると純粋に思ったんですよね。
山崎さん
音楽業界は今、CDのようなフィジカルな商品をつくって売るやり方が通用しなくなってきて、ある意味で昔に戻ったような感じがしてます。昔というのは、CD売り上げ何百万枚みたいになる前、90年代初めくらいとか。あの頃ってなんか面白いとか、ちょっと尖ったニッチなことをやってそうだから人が集まる、みたいな感じだった。その頃と全く同じではないものの、今また何か新しいかたちが生まれようとしている空気はすごくありますね。逆に言うと、面白いことやってない人は生き残れない可能性も。
茂田
タッグを組んだり、コラボレーションすると、自分ひとりでやっていた時には思いも寄らなかったケミストリーが起こるから、面白いことになる。ただ、やっていくうちに問題が発生してぶつかることもありますよね。そういう時、今ってみんな波風立てないようにスルーしようとしがちですけど、ぶつかることを恐れずに、たとえ窮地に立っても続けていく覚悟は必要だと思ってます。そうでないと、おそらく文化を創るということを続けていけないし、僕としてはつねに持続可能な方法を模索していきたいですね。
山崎さん
僕の場合、アート作品を世に出していくにあたって、受け止める側のわからなさというのがどうしてもあるので。そういう意味ではナルシストと思われるくらい、壁を突破するようにつくり続けるしかないと思ってます。たとえ失敗しても振り切って、やりきる。それが唯一自分に課していることで、僕の表現の生命線かなと。そうして続けていれば、どこかで何かと繋がって自ずと結果は出るものなので。
情熱的に挑む大人たちの創造性で、次世代の感受性を刺激できたら。
茂田
こうして僕たちが夢中になってやっていることが、結果的に若い世代の希望になったら良いですよね。
山崎さん
あとは、きっかけ次第というか。せっかくの一期一会の出会いでも、人の距離ってそう簡単に近づかないから。好きな音楽が一緒だったとか、使っている香水が同じだったとか、あのイベント会場に自分もいたよとか、それだけで一瞬にして壁を飛び越えられる。同じ知性、共通の感覚をキャッチできるような、感性でマッチングさせるプロダクトや場が増えていったら、いろんなことが飛躍する気がします。そしてそういう感性で繋がる人たちって、ここ数年で下の世代にすごく増えてきていて、いろんな可能性を感じます。
茂田
うちの会社では、OSAJIのメイクアップアーティストが子供たちにメイクをしてあげるメイクエデュケーションというプログラムをやっているんですけど、メイクという共通項から、みんなたくさんのことを受け取ってすごくいい顔で戻ってくるんですよね。
山崎さん
わかります。F.I.B JOURNALのライブ会場に、思いのほか下の世代の子が来てくれてたりすると、シンプルに僕らも嬉しくなる。僕は高校の時、学校のテストを破いてコラージュにしちゃったことがあるんです。問題になって教育委員会に吊るし上げられたんですけど、当時の美術の先生が「これは不届き者とか、悪さをしてるとかじゃなくて、芸術表現であり痛快な個性だ」って、みんなと同じ枠にはめちゃダメだと擁護してくれたんです。後にその先生の奨めで、受験してみたら受かってしまったのが和光大学というところで。前回話しましたけど、その大学に進んだことでミュージシャンとして活動していたLITTLE CREATURESと出会い、その縁で僕も音楽でデビューすることになった。感性で通じ合える大人の存在って、大きいです。
茂田
そうですね。円城さんと僕の取り組みを見て、僕より若い世代の人、例えばうちの社員の子たちに「自分もやってみたいな」とか「大人になってもああいうことをやっていいんだ」っていう気持ちが芽生えたり、なにがしかの行動に繋がったならめちゃくちゃ嬉しいです。
山崎さん
僕はだいぶ変な生き方をしているという自覚があるんですが、「そういう生き方もあるんですね」っていう肯定的な反応があることは、表現活動をしていく上でかなり重要です。OSAJIとのコラボレーションボトルもそうですし、僕の作品を見たら「これって何なの?」って感じる人が多いだろうけど、ちゃんと売れていくのを見て、それが価値を持つ時代になったことを実感してます。世の中の価値観が、確実に変わってきたと。同じことをやっていても、10年くらい前はこうはならなかった。
茂田
コロナ禍あたりから、これまでの固定概念が固定概念でなくなっていくような感覚を、僕も強く感じています。今は合理的なものから感性的なものへの移行期といえますが、プロダクト、リリースライブのようなイベント、ギャラリーでのエキシビジョンなどを通じて、まずは僕自身が拡声器となって円城さんの表現に触れた時の感動をストレートに周りに伝えていきたいです。そうして僕らが一つずつ紡いでいく文化が「一歩を踏み出せないでいる誰か」の道標になれたらと思っています。
PROFILE
山崎円城
音楽家 / 詩人 / タギングアーティスト
1970年、神奈川県川崎市生まれ。10代より独学で音楽活動を始め、1996年にリトル・クリーチャーズの栗原 務らと組んだユニット、Noise On Trashでデビュー。2003年、ファッション誌「Commons & sense」とのコラボレーションをきっかけにF.I.B JOURNALとしての活動を開始、”ジャズパンク”と称される作品を多数発表している。音楽活動のかたわら、詩人としてこれまでに2冊の詩集を発表、現在3冊目を制作中。「好きな言葉の共有」を目的に不定期に開催される朗読会「BOOKWORM」の主宰も務める。また、アーティストとしてグラフィティアートのいち手法とされる「ダギング・カリフラフィー」の制作と発表にも情熱を注いでおり、2022年より3年続けて『galerie-a』(東京・南青山)にて個展を開催、ファッションブランドとのコラボレーションも多い。
茂田正和
株式会社OSAJI 代表取締役 / OSAJIブランドディレクター
音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI(オサジ)』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香–」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJI、kako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。2024年2月9日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。
https://shigetanoreizouko.com/
F.I.B JOURNAL
国内屈指のポエトリージャズバンド。2003年に山崎円城のソロプロジェクトとして始まり、2005年よりEGO-WRAPPIN’のサポートベーシストとして活動する真船勝博、ドラマーの沼 直也が加入、トリオ編成に。現在までにトリオ編成で5枚、オーケストラ編成で1枚、音楽ユニットTICAの武田カオリをボーカルに迎えて1枚の計7枚のアルバムを発表。近作は、過去の楽曲のフレーズの一部をサンプリング・コラージュして再構築した「This is GHOST」(23年秋に配信プラットフォームでリリース)。タギングによるアートワークを山崎自身が手がけた。2024年11月20日に最新アルバム「現象 hyphenated」を配信リリース、12月14日には『ADRIFT』(東京・下北沢)でリリースライブを開催。
http://fib-journal.net
〈Product〉
2024年12月5日(木)より限定発売
【LIMITED】
OSAJI -Madoki Yamasaki Limited Hand Wash
“言葉のうつわ”
300mL / ¥14,300(税込)
“You’re the only one to be the container of your words.” -言葉は器、あなたはそれになれる-
山崎円城氏がボトルに書き込んだその詩を、嬉野焼の窯元にて磁器に掘り起こした作品。そこに茂田がこれまでのパラダイムを洗い流し、新たなパラダイムを迎える意を込め処方したハンドソープを満たしました。エディション・ナンバーを一本ずつ入れて、300本限定で販売いたします。磁器ボトルには真っ白なシルクマイカ釉薬を使用。使い込むプロセスで発生した汚れも味わいと捉え、手に取った一人ひとりの人生に寄り添うデザインです。使用後は付属のアルミキャップに付け替えると一輪挿しへと生まれ変わります。
〈先行Exhibition〉
言葉のうつわ OSAJI – Madoki Yamasaki
OSAJIブランドディレクター茂田正和が掲げる「美容は不老不死を目指すことではなく、 個性と対峙してありのままの自分を輝かせること」という言葉に山崎円城氏がインスパイアされ、言葉を紡ぎ表現したエキシビション& OSAJI – Madoki Yamasaki Limited Hand Wash “言葉のうつわ”の限定販売。
◾️会期:2024年12月6日(金)~12月15日(日)12:00〜20:00
◾️会場: galerie a (東京都港区南青山6-9-2 日興兒玉パレス104)
※入場無料・予約不要
<Exhibition>
言葉のうつわ OSAJI – Madoki Yamasaki
OSAJIによるレストラン ・ショップ・ 調香専門店の複合型ショップ「enso(エンソウ)」では“食”や“香り”の体験を通し、心身の“調律”を行い日常生活に心地よい循環を生み出すことを目指しています。鎌倉地域に関するアート展示やカルチャーの発信も行なっており、今回のコラボレーションに合わせて特別展示を実施。OSAJI – Madoki Yamasaki Limited Hand Wash “言葉のうつわ”も限定販売。
◾️会期:2025年1月16日(木)〜1月27日(月)
◾️会場:enso(神奈川県鎌倉市小町2丁目8-29)
◾️定休日:水曜日(祝日の場合、翌平日)
https://www.enso-osaji.net/
※入場無料・予約不要
text:Kumiko Ishizuka