OSAJIが鎌倉で展開する「enso」にて、調香を担当しています。
「enso」は、さまざまな感覚や感情を通じて、自分にとって心地よいものに気づき、本来の自分へと調律していくための場所です。

この連載では、私自身の香りや植物との向き合い方、そして、みなさまの暮らしに香りを取り入れるヒントをお届けしていきます。

 

enso 調香師
安藤 明日生


第1回

植物の香り。


香りが心の栄養になるとき。

私たち人間の心と体は緻密に作用しあって、「絶不調じゃないけど、なんだか調子が悪いな」「涙は出ないけど、悲しくてご飯が喉を通らないな」「気がかりなことがあり朝方まで寝れなかったな」という不調が、わりと頻繁に起こります。

それでも、次の日は止まらずやってきます。仕事に行かなければいけなかったり、育児や介護、家事をしなければならなかったり。大人はなんと大変なのでしょうか。この不調はどこに置いておけばよいのでしょうか。 

そんな時に、私の心を凪に、ニュートラルな状態にしてくれるものが、「植物の香り」でした。

香りを通して植物のパワーを受け取ることは、栄養のあるおいしい作物を「食べる」ことと、感覚的にとても似ているように思います。すぐに強く効く特効薬ではありませんが、心を元気にしてくれる栄養です。

「香り」が、皆様にとってささやかなお守りとなりますように。
すこしでも心身が安らぎ、日々を穏やかに重ねていけますように。
そんな願いを込めて、この仕事に向き合っています。


植物の恵みを凝縮したエッセンス。

私やOSAJIが主に使用する材料は、植物の香り成分を抽出したエッセンスです。これは、花や葉、果皮、根などを蒸したり絞ったりして抽出される、貴重なエッセンスで、心と体にさまざまな作用をもたらします。精油の成分が体に取り込まれ、吸収されていくには3つの経路があり、その経路によって心身への影響や作用が異なります。

1つ目は、鼻から脳へ。鼻や口から吸い込んだ精油の成分は電気信号となり、大脳辺縁系や視床下部に届き、自律神経やホルモンの調整、感情や情動の調整、認知機能の向上に作用すると言われています。

2つ目は、肺から全身へ。呼吸によって取り込んだ精油の成分が肺に達し、毛細血管から血液に取り込まれて体内を巡り、鎮痛、抗炎症効果をもたらすと言われています。

3つ目は、皮膚から全身へ。皮膚から吸収した精油の成分が、毛細血管から血液に取り込まれ、体内を巡り、抗炎症、抗菌、抗真菌効果をもたらすと言われています。

このように様々な良い影響があることを知ると、信頼できる人や場所から、安心して素材や香りを受け取れるような環境を整えたいなと思うようになりました。それは、ensoという場所でもありますし、さらには、自分でハーブや花、果実を育て、採取した香りを蒸留所で抽出し、皆様にご提供するところまで、一貫して行える場所をいつかつくってみたいなと妄想しています。


季節とともに楽しむ柚子の香り。

ensoの裏庭には大きな柚子の木があり、季節によって、その香りの移り変わりを楽しむことができます。春には柔らかな新芽が出て、ちぎると青く爽やかな香りが広がり、初夏には優しい甘さの小さく白い花が咲きます。7月頃には、きりっとした酸味と苦さが際立つ青柚子が生り、徐々に大きくなり黄色に色づいた実は、甘くあたたかな香りへと変わっていきます。

私も大好きな柚子(果皮)の精油は、水蒸気蒸留法、または圧搾法にて抽出されています。フレッシュな甘さ、程よい苦み、酸味が合わさった複合的な香りに、どこかほっとするようなあたたかさも感じられます。

他の精油とのおすすめの組み合わせは、〈柚子×檜葉〉。檜葉精油の深みのある凛とした香りが、柚子の甘さと合わさり、柔らかく落ち着いた印象に。柚子に多く含まれるリモネンや、檜葉に多く含まれるα-ピネンは、リラックス効果に優れています。

眠れない夜は、柚子精油1ml、檜葉精油1mlを50mlのお水で希釈して、枕元やベッドに噴霧してみてください。疲れた心身を癒し、感情の高ぶりや悲しみを鎮静し、安眠に導いてくれると思います。季節の変わり目の寒暖差や生活環境の変化で、不調が起きやすいこれからの季節を、穏やかにお過ごしいただけますように。なお、柚子精油、檜葉精油は、enso〈kako -a scent-〉の調香体験でもご用意しております。

香りに体を委ね、ご自身の感覚と向き合うひとときをお過ごしください。

※精油(エッセンシャルオイル)を使う際の注意点
精油は医薬品ではありません。天然の香りは心身の健康に良い影響をもたらしますが、不調改善を保証するものではありません。予めご了承ください。


PROFILE

安藤明日生

enso 調香師

アロマテラピーや調香について独学で学び、2024年、OSAJIに入社。鎌倉「enso」内、調香体験スペース〈kako -a scent-〉を担当。同年、自身のブランド「Lunef」をスタートし、草花木果の力を借りて、空間や人、物に合わせた企画や表現、調香を行う。


enso

■住所 / 神奈川県鎌倉市小町2丁目8-29
■営業時間 / 平日  10:30〜18:00(調香体験・ショップ)・11:00〜18:00(レストラン) 土日祝  8:00〜18:00(調香体験) 8:00〜19:00(レストラン・ショップ)
■定休日 / 水曜日(祝日の場合、翌平日)
https://www.enso-osaji.net


photo:Kotone Ueda

SHARE