▼THE ORIENTAL JOURNEY 猿田哲也さん | SPECIAL INTERVIEW

美容を通じて循環と持続可能性を実践するヘアサロン。

ヘアサロンとして、日本国内で初めて「BIO HOTELS JAPAN認証」を受けたTHE ORIENTAL JOURNEY。オーナーヘアスタイリストの猿田哲也さんに認証のこと、環境に配慮した空間づくりにこだわることになった経緯、人にも地球にも心地良いサステナブルな取り組みについてなどをうかがいました。


BIO HOTELS JAPAN認証とは。どんな基準をクリアする必要が?

ドアを開けると、そこにはまるでリゾートホテルの一室のような空間が広がっていました。THE ORIENTAL JOURNEYは、オーナーヘアスタイリストの猿田さんがマンツーマンで、“ROOM SERVICE”と称したカットやパーマなどの施術にあたってくれるBIO HOTELS JAPAN認証ヘアサロン。BIO HOTELとは、オーストリアで発祥した世界で唯一ホテルへの厳格なBIO(オーガニック)基準を設けている団体です。なぜ、ヘアサロンがホテルを対象とする認証を取得できたのでしょうか。

「実は、ホテル以外の施設に認証を出しているのは日本のみです。BIO HOTELS JAPAN認証は、有害物質を出さない空間づくり、環境に配慮した運営、提供するドリンクや使用している化粧品などがオーガニックやフェアトレードのものであることなど、細かな基準をクリアすれば住宅やヘアサロンも対象となります。THE ORIENTAL JOURNEYの空間づくりでいえば、まず内壁は天然の漆喰に。漆喰はアレルギーの原因となるホルムアルデヒドが発生しないだけでなく、美容院特有の匂いを軽減してくれる働きがあります。環境の配慮としては、サロンで使用する電力を100%再生可能なエネルギーに切り替えました。そしてヘアサロンにとって非常に重要な排水システムについては、薬剤を無害化して排水するオゾン水システムを採用しています」

サロンには車で来店するお客さまもいるため、駐車場は三菱地所のPEN(ParkingEcologyNetwork)と提携。駐車料金の一部が植林事業に寄付されるというCO2オフセットを取り入れたシステムです。さらに猿田さんご自身は、できるだけ無駄なCO2を出さずに通勤したいということで、ヘアサロンを構える場所を拠点から近い千葉県柏市の逆井にしたのだそうです。

ヘアサロンとして認証取得、そこに至るまでの道のり。

異彩を放つサーキュラーエコノミー(循環型)ヘアサロンとして、オープンするや取材が殺到したTHE ORIENTAL JOURNEY。その誕生の経緯は、猿田さんが長年の美容師経験のなかで直面してきた問題解決へ道のりでもありました。

「自身のヘアサロンを持つ前は、商業施設内のヘアサロンで店長を務めていました。その時に、ヘアサロンからの漏水で階下の店舗とのトラブルを経験しまして。保険が適用されたとはいえ、店長として全責任を負って対処しました。その事が大きなきっかけではありましたが、実はそれ以前から日々ケミカルな薬品に触れてハードワークをおなす美容師の職業寿命が約6.2年といわれていることなどに関心を持っていました。結果的に勤務していたヘアサロンを辞め、途上国の自立支援プロジェクトに参加することにしたのですが、行き先だったカンボジアの情勢悪化によりプロジェクトが中止になってしまいました。それならば、お客さまとして来てくださる方が本当に心地よく居られるスペースを、環境に負荷をかけない範囲でだけ小さく営んでみようと思いました」

売り手良し、買い手良し、世間良しと“三方良し”なスペースの実現を目指した猿田さんが、ヘアサロンのオープンにあたってまず調べたのは、排水の問題についてでした。

「ヘアサロンの排水による環境汚染が相当なものであることがわかり、先ほどご説明した排水システムを導入するだけでなく、使用する薬剤やシャンプー・コンディショナーも環境に配慮したものでなければ、と思いました。お客さまの肌にやさしく、環境を汚さない、そういった商品を全国から取り寄せて試すうちに、香りの良さ、成分的な観点からもこれは上質だと感じたのがBIO HOTELS JAPANのオリジナル商品でした。それをきっかけに認証の存在を知ることになり、オーガニック商材についてもより深く勉強しました。このヘアサロンは、環境への配慮を徹底するとともに、もともとホテルのゲストルームをイメージして空間づくりを進めていたんです。そのため、完成した時点でBIO HOTELS JAPANの基準をすべてクリアしていました。これは偶然の奇跡と感じ、認証を申請したところ取得に至りました。現時点でヘアサロンとしての認証取得は当店のみです。認証は、1年毎の検査により更新されますが、年度途中での抜き打ち検査も実施されます」

人体へのやさしさ、環境への配慮、どれも諦めずに心地よさを追求すること。

THE ORIENTAL JOURNEYのお客さまは、サロンのホームページを読み込んだ上で来てくださる方ばかりとのこと。その内訳は、やはりエコロジー意識の高い方や化学物質アレルギーのある方が多いのでしょうか。

「いえ、環境意識の高い方は全体の半分くらいですね。どちらかというと、おしゃれをしたいけど環境のことが最近ちょっと気になってきたとか、サロンに来ておしゃれを楽しむことで途上国支援もできるのが良い、というお声が多いです。気軽な1歩として選ばれていることが、僕としても嬉しいです。なぜなら、健康を害さないことを徹底したら、おしゃれを楽しむことは難しくなってしまう。それは環境への配慮についても同じで、移動はすべて自転車で、スマホも一切使わず、というのはほぼ不可能な時代ですよね。 一方通行や二者択一を強いらない、お客さまに我慢をさせない、という想いはサロンのコンセプトの基盤です。おしゃれを楽しむこと、人体へのやさしさ、環境への配慮、どれも諦めずに心地よさを追求する。なので、施術の制限は設けずにパーマもカラーも受け付けています。安全性というところでオーガニックを重視していますが、お客さまの中にはケミカルが苦手でナチュラルなものが良いと思って使ったヘナが合わなくて、という方もいらっしゃるんです。ケミカルであっても肌にやさしいものは探せばあるし、僕は1つの立場に偏る必要はないと思っています」

THE ORIENTAL JOURNEYが考えるサステナブルな美しさ

施術で使うヘアケアやリネン類はオーガニック。それだけでなく、音楽はTRANSPARENTSPEAKER(トランスペアレントスピーカー)から流れてきます。パーツの使い捨てにNOを唱え、モジュール化によるアップデートを可能にした北欧発のスピーカーです。さらにトイレットペーパーは、竹のみでつくられたBambooRoll(バンブーロール)、お客さまの衣服を掛けるハンガーはフェアトレード認証のバナナペーパーでつくられたエシカルハンガー。サステナブルという背骨がしっかり貫かれた猿田さんのセレクト眼は、空間の隅々にまで行き届いています。

「最近はSDGsという言葉がひとり歩きしてしまっているように感じますが、本来は“誰ひとり取り残さない”ためのものですよね。だから、フェアトレードやエシカルであることも大切にしたいです。インテリアは、アンティーク家具、伝統工芸の雑貨などを選んでいるのですが、ここに来ることが100年は持つような本物に触れていただく機会になればと思っているんです。商品を置いている棚も、国産のくるみの木の無垢材で接着剤を使わずに職人さんが作ったもの。手入れをしながら長く使える、というのはサステナビリティへの重要なヒントだと思っています」

お客さまの健康を害さず、地球も汚さず、心地よさを味わって美しくなっていただくことが、誰かを助けることにもなる。この循環が誠実に成り立っていることこそ、サステナブルな美しさであると猿田さんは教えてくださいました。

お客さまの半分は都内から、中には地方からいらっしゃる方もいるというTHE ORIENTAL JOURNEY。しかもこのコロナ禍に、新規のお客さまが増えているというのは、まさにヘアサロンのあり方が呼び込んだ現象。

「漆喰の壁は天然の抗菌作用があり、ウィルス対策としても優秀です。お客さまからは、こういう状況になるのを知っていたの? なんて聞かれます(笑)。広告費もゼロですが、売り上げや回転率ではなく、どんな時代にも生き残れるヘアサロンを目指した結果、こうなりました。 ヘアサロンの定番である雑誌を1冊も置いていなくとも、お客さまはこの空間と会話を楽しみにいらっしゃってくださっています。これまでのやり方で集客してきたヘアサロンにとっては、サステナブルなあり方に移行することはハードルが高いと捉えることもあるようです。 しかし、これだけ気候危機が叫ばれている中、地球の存続自体を最優先に考えない方が広い視野で見るとリスクだと思っています。次なる僕の目標は、新たに立ち上げた一般社団法人日本サステナブルサロン協会の取り組みSUSTAINABLESALON©認証ヘアサロンを普及させることです。 化粧品は良いものが増えてきましたが、全国にうちのようなヘアサロンが増えてマーケットが成立することで、これまで環境に負荷をかけがちだった美容業界全体が変わることを期待しています」

SUSTINABLE SALON©
9つの主なガイドライン

1.人体への配慮
2.自然環境への配慮
3.空間への配慮
4.エネルギー資源への配慮
5.ビジョンと価値観
6.水資源への配慮
7.廃棄物における配慮
8.通勤における配慮
9.社会的配慮(ダイバーシティ等)


PROFILE

猿田哲也

THE ORIENTAL JOURNEY オーナー

一般社団法人日本サステナブルサロン協会代表理事。
約20年にわたるヘアスタイリスト経験を経て、「これまでに培った科学技術や先人の知恵を活用し、サステナブルな方法で心身ともに豊かなライフスタイルを送る」ことをコンセプトに次世代のヘアサロン「THE ORIENTAL JOURNEY」をオープン。サロンの内壁、排水、電力、使用する薬剤やリネン、提供するドリンクにいたるまで環境配慮にこだわり、2019年7月には日本初のBIO HOTELS JAPAN(一般社団法人日本ビオホテル協会)認証を取得。


THE ORIENTAL JOURNEY

■住所 / 千葉県柏市逆井 13-9 ユーカリビル3F 2号室
■営業時間 / 8:30 ~ 17:30
■電話番号 / 0761-22-5080
■定休日 / 不定休
※提携駐車場完備 / こちらの駐車場は売上の一部を植林事業に寄付しています。
https://mutangallery.com


text:Kumiko Ishizuka

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