▼言葉を整理すること。 | 第4回
OSAJIでは主にパッケージや、お店で使われている紙袋やパンフレット、HPやSNSに掲載するイメージのディレクションなど、ブランドにまつわるデザインの仕事をしています。
デザインを通して気づいたこと、感じたこと。私を私たらしめるモノやできごとを、記憶をたどりながら綴っていきます。
自分の考えや気持ちを自分以外の方に届けることは、楽しみでもあり気恥ずかしさもありますが、お付き合いください。
OSAJI デザイナー
石井このみ
第4回
言葉を整理すること。
物事を説明するときに、あるがままの状態を表すこともあれば、感覚的な表現に置き換えることもある。「温度が高い」という事実に基づいた文に対して、「ふつふつと湧き上がるような」というような感覚を例にした文で、その状況を伝えることもできる。
デザインのプロセスは人それぞれ。手を動かしながら想像を積み上げて形にしていく人。モチーフとなる素材や環境を深掘りしていく人。マーケティング目線で徹底的に分析しロジカルに思考する人。私個人としてはどちらかというと、さまざまな感覚的表現で解像度を高めていくことが多い。まだ実体として存在しない、輪郭がはっきりしないものに対して社内でコミュニケーションをとりながら必要なピースを模索していく。
そのために、まずは言葉を整理することから始める。言葉を整理していくと、モヤのかかっていた視線の先がクリアになってくる。
これは一人だけの作業ではなく、案件に関わる一人ひとりと目線の先をすり合わせながら、出てきた言葉から探し出すことが多い。
例えば、「明るいブルー」という言葉を分解していく。
爽やかな風と晴れ渡る空。
きらきらと輝く宝石。
鮮やかなシルクのスカートの色。
波の模様を携えた常夏の海の色。 目指しているのはどのイメージなのか、連想ゲームのように並べていく。その上で言葉を保管するような画像やイメージ図があると、目の前に想像するもののズレが少なくなる。
ビジュアルも言葉も、どちらも世界観を伝えるためには大切な要素。情報を詰め込みすぎても、本当に伝えたいメッセージはぶれてしまうし、簡素になりすぎても人の心には残らない。
今、私たちは日常的に情報の海に圧倒され、常に選択を迫られている。肌身離さず持ち歩く携帯端末や、ふと見上げたビル群を埋め尽くす看板や、一人で過ごす部屋のテレビの画面。膨大な情報の中から、自分が必要としているもの、琴線に触れるものを瞬時に判断し、記憶に残るのはほんのわずかだ。だからこそ誰かの心に寄り添うのは、よりリアルで輪郭がはっきりとしているのに”なぜか惹かれる”もの。人はきっと、そこまでたくさんのものを抱えられない。手のひらに残るくらいの大きさの方が身軽に動ける。
ときに心の拠り所になったり、ふと幸せを感じられるような存在であるものを作るために、日々言葉を模索している。
デザインにも言葉にも、正解はない。
目指す行先の地図を自分で書き加えながら、行ったり来たりを繰り返しながら前へ進んでいく。
そんな工程が楽しく、辛く、
いつまでも私を飽きさせない。
PROFILE
石井このみ
OSAJI デザイナー
多摩美術大学グラフィックデザイン学科にてグラフィックデザインやパッケージデザインについて学んだのちに、2018年より「OSAJI」に入社。「OSAJI」のパッケージや販促物などクリエイティブ全般にまつわるデザイン業務のほか、フレグランスアイテムなどのコピーライティングも手がける。