▼いわしのグリル 魚醤トマトソース | 第6回

OSAJIが鎌倉に展開する〈enso〉。
調香専門店とショップを併設するこのレストランでは「鎌倉野菜を主に旬の食材、自家製の発酵食品や調味料を使った創作料理のコース」を季節ごとにメニューを変えて提供しています。
この連載では、食材、調味料、調理方法などに対しての自分の想い、そして、ご家庭でも取り入れやすいレシピやワンポイントなどもご紹介していきます。〈enso〉の料理やコンセプトを感じていただけたらと思っています。
ensoシェフ
藤井匠
第6回
いわしのグリル 魚醤トマトソース

まず、今回の料理に使う素材ですが、発酵調味料の魚醤をつくるのに使ったのは相模湾のいわし、ソースに使ったミニトマトや玉ねぎは鎌倉産、ディルはお店の庭で育ったものです。使用する食材はできうる限り鎌倉産や神奈川産で、それでも難しい場合は国産と、環境への負荷を考慮してフード・マイレージ*が小さくなるよう努めています。その土地で育ったものや採れたものをその土地で食べることって、なんだか自然ですよね。
*食料の生産地から消費者の前に並ぶまでの輸送にかかった“重さ×距離”。遠い生産地から食料を調達すると、輸送に際して多くのエネルギーが使われ、CO2やNOxが排出されていることになる。
魚醤を自分でつくるのは少しハードル高いと感じるかもしれませんが、そのプロセスと成功させるポイントは意外とシンプル。人間でも動物でも、命あるものは死を迎えた時点から腐敗と自己消化酵素による分解が同時に進んでいきます。そこで適量の塩を使って腐敗菌の活動を抑え込むと、酵素による分解のみが進む、これが“発酵”です。そして腐敗を抑えるもう1つのポイントは、空気に触れないようにすること。素材に塩をして、ジップロックなどで密閉するか、オイルに浸すなどして、空気に触れないようにする、この2つが必須条件です。
味噌や醤油、納豆など日本人にとって発酵文化は身近なものですから、試してみたら意外と簡単に感じるかもしれません。
発酵食品は、もともとは食料を長期保存するための先人の知恵です。時間をかけて発酵菌が働くことで得られる深みのある味わいには、代えがたいおいしさや喜びがあると思います。ただ暑くなってくると発酵の進みが早くなるので、そこは気をつけて変化をこまめに観察してくださいね。
そして、豆や麦や米を発酵させて味噌に、野菜を発酵させて漬け物やピクルスに、魚を発酵させて魚醤やアンチョビに。その他にも発酵を使えるものはたくさんあります。

ensoのエントランスに置いている瓶のひとつは軍鶏を使って肉醤を仕込んでいるところです(取材時点)。魚醤は内臓も取らず一緒に塩漬けにしますが、軍鶏の場合は内臓に人間にとって有毒なものが含まれているので内臓は取り除いて、代わりに麹の力を借りて漬けています。
肉醤づくりはさすがに、ビギナー向きではないかもしれませんが、発酵に詳しいお客さまはエントランスで目ざとく見つけて話しかけてくださったりします。そういう、刺さった瞬間は「おおっ!」とこちらも盛り上がってしまう、とてもうれしい瞬間です。
いわしのグリル
魚醤トマトソース

【材 料】
- いわし
- 塩
- 玉ねぎ・トマト
- 自家製いわしの魚醤
- バジル・大葉・パセリ
- 太白ごま油
- ミニトマト
- ディル

【つくりかた】
いわしを洗ってよく水気を拭き取り、重さを測る。内臓は取らず、一緒に使うのがポイント。全体の重さの2割の塩でマリネしたらジップロックなど密閉できるバッグに入れて空気をしっかり抜くか、ホーローのバットに並べて重しをのせて1ヶ月くらい常温で置く。
1ヶ月ほど経ったら、にじんできた水分が魚醤として使える。液体以外の身はアンチョビとして他の料理に活用できるのでオイル付けにして保存する。
玉ねぎをきつね色になるくらいまで炒めてから、カットしたトマトを入れてとろっとするまで中火で煮詰めたらトマトソースのベースが完成。後から加える自家製魚醤は、塩気が強くなり過ぎないよう味見をしながら少しずつ入れる。
アクセントとなるハーブソースは、クセがなく香りが引き立ちやすい太白ごま油に刻んだバジル、大葉、パセリを合わせてミキサーにかければ完成。
三枚におろした新鮮ないわしは軽く塩をして、フライパンまたは魚焼きグリルで1分程度焼く。いわしは脂が多い魚なので、温めたトマトソースをかけてから生のミニトマトや魚介と相性の良いディルなどのハーブを添えるとフレッシュで爽やかな味わいで食べやすくなる。

玉ねぎをきつね色になるくらいまで炒めてから、カットしたトマトを入れてとろっとするまで中火で煮詰めたらトマトソースのベースが完成。後から加える自家製魚醤は、塩気が強くなり過ぎないよう味見をしながら少しずつ入れる。
アクセントとなるハーブソースは、クセがなく香りが引き立ちやすい太白ごま油に刻んだバジル、大葉、パセリを合わせてミキサーにかければ完成。

三枚におろした新鮮ないわしは軽く塩をして、フライパンまたは魚焼きグリルで1分程度焼く。いわしは脂が多い魚なので、温めたトマトソースをかけてから生のミニトマトや魚介と相性の良いディルなどのハーブを添えるとフレッシュで爽やかな味わいで食べやすくなる。


魚醤は発酵が進んで日が経つほどまろやかな味になります。三枚におろした発酵いわしは、身をそいでフィレ状にしてからオイル漬けにするとアンチョビとして使えます。空気に触れると腐敗が進むので、つねにオイルをかぶせた状態にすれば1年は保存が可能。腐敗菌<発酵菌の環境をきちんと保つことが大切です。

PROFILE
藤井匠
enso シェフ
大学で心理学専攻し卒業後、都内のホテルやイタリアン、フレンチで調理を学ぶ。2013年、INTERSECT BY LEXUS TOKYO開業時よりスーシェフに就任。2017年にはWE ARE THE FARMグループ全店の総料理長となり、グループが持つ畑作業にも従事。2018年、L’Effervescenceでの研修を経て姉妹店であるbricolage bread&co.開業時よりヘッドシェフを務める。2022年4月より「enso」ヘッドシェフ就任。
enso
■住所 / 神奈川県鎌倉市小町2丁目8-29
■営業時間 / 平日 10:30〜18:00(調香体験・ショップ)・11:00〜18:00(レストラン) 土日祝 8:00〜18:00(調香体験) 8:00〜19:00(レストラン・ショップ)
■定休日 / 水曜日(祝日の場合、翌平日)
https://www.enso-osaji.net