▼Sanu Inc. ファウンダー 本間貴裕さん×OSAJI ブランドディレクター 茂田正和|SPECIAL CROSS TALK

都心から気軽に自然に還る。画期的な宿泊サービスの着想。

都心から通って自然の中でのリトリートを楽しめる、セカンドホーム・サブスクリプションサービス「SANU 2nd Home(サヌ セカンドホーム)」。2021年秋にスタート、都心から数時間圏内に続々とオープンする中、今回は2022年3月に仲間入りした山中湖1stのSANU CABINを往訪。サービスの独自性やしつらえのこだわりについて、創業者でブランドディレクターの本間貴裕さんとお話させていただきました。



都心から気軽に自然に還る。画期的な宿泊サービスの着想。

セカンドホーム・サブスクリプションサービス「SANU 2nd Home」は、初期費用0円で簡単にスマートフォン一つでサブスク登録から予約までを完結できます(現時点では会員枠満員のため、先着順で会員登録できるウェイティング登録を受付中)。現時点で白樺湖1st、八ヶ岳1st、山中湖1stが利用でき、さらに北軽井沢1st、河口湖1st、白樺湖2ndのオープンも予定しており、今夏までに計7拠点に50棟のSANU CABINが誕生。月額5.5万円でこれらの自然豊かな拠点の中から好きなところを選択して滞在できるシステムです。

「僕自身、都会で働きながら休みの日にはスノーボードやサーフィンなど自然の中に遊びに行くという生活を続けてきました。それが2020年の非常事態宣言下に千葉県の海の近くに小さな家を借りて生活を営んでみた時、これだと思いました。もともと大学在学中から、社会人になったら週5日間は我慢して仕事して、休日2日間でそのストレスを発散する、という働き方はしたくないなと思っていて。これからは、非日常を味わうために宿をとって自然の中に入っていくのではなく、“日常の延長として自然を味わえるもう一つの家を持つ”というサービスを形にしたいと思いました」

自然の中でリフレッシュする機会がもっと頻繁に欲しいけれど、別荘を持つなんて夢のまた夢…と、諦めてしまっていた人にとって“これなら手が届きそう”と思わせてくれる朗報的サービス。その源には、本間さんの利用者の立場に立った目線や“それをやってみたい=仕事にしたい”という純粋な信条がありました。


地球が回復する未来を目指して環境に配慮した建て方。

「SANU 2nd Home」の画期的なサービスの在り方もさることながら、自然を愛するチームが手がけるからこそSANU CABINの開発システムは徹底して環境に配慮されています。

「すべてのSANU CABINは国産木材100%で、『高床式基礎杭工法』という土壌に杭を立ててその上に建物を建てる方法で建てられています。この方法だと、土地の水の流れや風の流れを止めることがなく、土壌へのダメージも最小限に留められます。建物としての役目を終えた時の解体用設計図もあって、環境に負荷をかけずに責任を持って撤去できます。釘や接着剤の利用をできる限り減らしているので、解体後にも使用していた木材を再利用できるサーキュラー型建築となっています。意外に知られていないのですが、使用している杉の木は樹齢50年を過ぎるとCO2の吸収量が少なくなります。私たちは150本の成長した杉の木を使用してSANU CABINを建てたら、同じ本数を植樹してよりCO2を多く取り込む若い杉の木を育てる計画を立てています。そうすると、SANU CABINが増えれば増えるほど、CO2の固定化*を推進できるというわけです」

*CO2の固定化(Carbon Fixation)
大気中の二酸化炭素を、植物や微生物が行っている光合成によって炭水化物に代え、生物躯体として固定させること。近年、人工的な二酸化炭素固定技術の開発も行われているが、現在のところ光合成より効率的なCO2固定化技術は存在しない。


SANU CABINのしつらえは“帰ってきた感”を大切に。

玄関から入ってすぐに自然の景観を一望できる大きな窓は、青森にある木製サッシの会社、日本の窓(にっぽんのまど)に特注した断熱性の高い二重構造。誰でも扱いやすい木質ペレット(間伐材や端材を砕いて圧縮した新燃料)を燃やすストーブで、室内が十分に温まるようになっています。キッチンは通常より大きめに設計されており、照明は奈良に拠点を置くNEW LIGHT POTTERYがSANUのためにつくったオリジナル。テーブルウェアやカトラリーはもちろん、ドリッパーとともにONIBUS COFFEEの珈琲豆や調味料一式が備え付けられている点にも、きめ細やかな心配りを感じます。

「SANU CABINは、どこの拠点でも基本的に同じ造りになっています。自然の中にもう一つの家を持ち、“より良い日常の延長をつくる”がコンセプトなので“帰ってきたな”と感じられる安心感を提供したかったんです。空間デザインについては、面積よりも体積が重要だと僕は思っているので、施工パートナーのADX代表 安齋好太郎さんにお話して光の入り方や天井の高さにこだわって設計してもらいました。ベッドリネンは、sinso(シンソー)というブランドのものです。山梨で綿を打ち直して長く使い続けるロングライフな布団をつくっていて、このコットンのシーツはあえて洗いざらしで使う提案です。ホテルのベッドリネンはアイロンがピシッとかかっているのが普通ですが、このリネンの魅力はお家のリラックス感というか。最初にこのベッドで寝てみた時、あまりにもぐっすり眠れてちょっと驚いたくらいです」


スピーカーやステーショナリーも長く使える良質なものを。

本間さんのワーケーションの経験をもとに設けられたワークスペースには、リサイクル・アルミニウムで作られたGenelecのRAWスピーカーを設置。SANU CABINの独特な壁の曲線は、窓を開けた時に自然の音をより良く取り入れるための構造でもあるのだそう。また、ステーショナリーは蔵前にある「kakimori(カキモリ)」のインクとつけペンが用意されていました。

「自然に触れて心に余裕が生まれたら、普段は書かない手紙をインクでゆったり書いてみるのもおすすめです。ここに置くものはどれも、長く使い続けていける良質なものです」

今後さらに拠点が増えていく「SANU 2nd Home」。ランドスケープの選択肢が拡大していく一方で、訪れた先にはつねに変わらない“安らぎ”がある。その新しいバランス感覚、物選びのセンスまで学べそうなこのサービスから今後も目が離せません。

都心から気軽に自然に還る。画期的な宿泊サービスの着想。


都会で暮らしながら、繰り返し自然に通い生活を営むことができる「自然の中のもう一つの家」を提供するサブスクリプション型サービス「SANU 2nd Home(サヌ セカンドホーム)」。このユニークなサービスは、どのような着想から実現したのか? ファウンダーでブランドディレクター 本間貴裕さんに、OSAJI ブランドディレクター 茂田正和がお話を伺いました。


バーラウンジ併設ゲストハウスの先駆的ホステルとOSAJIのご縁。

茂田正和(以下、茂田)
本間さんと最初にお仕事をご一緒したのは、本間さんがSanu を立ち上げる前の会社で、僕たちもオフィスを構える東日本橋エリアにカフェやバーを併設したホステル「CITAN」をオープンされた時ですよね。

本間貴裕さん(以下、本間さん)
そうですね。お互い共通の知人がいてその前からお知り合いでしたが、次のホステルを立ち上げようというタイミングで「ぜひOSAJIをアメニティにしたいです」となって。その「CITAN」も今年で5年です。

茂田
そうですよね、OSAJIも同い年なので5周年を迎えました。理想とするホステルを立ち上げ、話題となり、軌道に乗せていった先にどんな想いが芽生えて新たにSanu を創業されることになったのでしょうか?

本間さん
前の会社が100人を超える従業員数になった時、やはり少人数で会社を立ち上げた当初の熱量とスピードで物事を進めることが難しくなってきていました。このまま熱量が下がると、宿が傾くことに繋がると感じ、2年くらいかけてトップダウン型の組織形態から、フラットに一人一人に意思決定を託す組織形態に転換していきました。自主性を持って何をやりたいかを考え、周りにプレゼンして納得してもらったら、それを責任を持って進めてもらいます。

茂田
「ティール組織*」ですね。日本ではまだ広がっていない組織形態ですが、とても興味があります。

*ティール組織
社長や上司の指示による組織マネジメントや予算や売上の目標設定など、従来型組織の慣例を廃し、個々の社員が意思決定権を持ち、それぞれの意思によって目標の設定や実現を図る次世代型の組織形態。

本間さん
それまで消極的に見えていた社員が、個性的なアイデアを出してくるようになったりしました。「ティール組織」であることと、それぞれがより良い日常の延長をつくる意識を持つことは、セット要素だと気づきました。そんな活気づいた光景を見て僕自身も“次は何をやろう”となって。仲間とブレストするうちに、「自然の中にホテルをつくる」というのがヒットしたんです。僕自身が自然豊かな福島県・会津若松の生まれということもあって、圧倒的な感動は自然の中にあると思ってきたので。

茂田
群馬が本拠地の僕も、自然を求めてよく車を走らせているので共感します。都会でユニークな宿やサロンを立ち上げてプロデュースしてきた本間さんが自然に強く惹かれる理由がわかりました。


定期的に自然を訪ねられるサブスク型の背景にはコロナ禍が。

本間さん
ただ、誰もが自然のあるところに拠点を移せるわけではないし、サーフィンやスキー、登山にしても、自然の中でのフィジカルな遊びを仕事にできるわけでもないですよね。都会で働く人が、ちょこちょこ自然にお邪魔させてもらうための宿をつくる、しかも宿をつくることがカーボンネガティブ*を実現し、自然の回復を促すことにもなる、というところまで目指したいと思ったんです。

*カーボンネガティブ(Carbon negative)
経済活動によって排出される温室効果ガス(CO2や水蒸気など)よりも、植林活動などによって吸収する温室効果ガスが多い状態を指す。

茂田
それで環境に配慮した別荘、2nd Homeというところに向かうわけですね。

本間さん
数年くらい前から「自然というフィールドで仕事をしたい」という気持ちは湧いていたのですが、「SANU 2nd Home」がサブスク型サービスとして完成した背景には、2020年の非常事態宣言があります。ZOOMを使えば仕事は問題なく進められることがわかって、サーフィンが好きな僕は千葉に部屋を借りました。その時の、仕事をしながらすぐに海にも入れる生活というのが、自分の心身にとってものすごく健康的な良い体験だったんです。

茂田
確かに自然が近くにあると、仕事をしていてもオンオフのバランスが整いやすいですよね。

本間さん
はい。とはいえ、この感覚を宿泊サービスに落とし込もうとした時、ホテルではないし、B&B*だと当たり外れが起こりやすい。別荘というのが近いけれど、セカンドハウスを持つのはハードルが高い…となって。それで、今月ちょっと海に行きたいな、あるいは山に行きたいなと思った時「そういう旅に出せる金額は5万円前後じゃない?」という結論にいたりました。

*B&B
「Bed & Breakfast」の略。宿泊と朝食がセットになった簡素な宿。家族経営が多く、通常の住宅や民家をリフォームした小規模施設が一般的。相部屋、バストイレの共有などにより、手頃な料金で利用できる。非英語圏では比較的低価格のホテルをこのように呼ぶこともある。

茂田
コロナ禍によって具現化するチャンスを得て、このサブスク型サービスが誕生したわけですね。

本間さん
いつかはきたであろう未来が、あの非常事態宣言の影響で加速した感じです。潜在的にあったものが、くっきりと意識に上ってくるのが5〜6年早まったような気がしています。


地域の自然や人と共生するには、宿づくりを環境再生の推進力に。

茂田
あとは、宿をつくる土地の人の意識についてお聞きしたくて。地方のウェルカム感というのは現在のところどうですか? 難しさはあるのでしょうか。

本間さん
まさにそこは、課題の一つですね。今までの観光業の影響から、どうしても“都市の人間がストレスを発散しにきて、自然を壊して帰っていく”というイメージを持たれる節はあります。でも人は、何度か訪ねてその土地に愛着が湧くと、そこの自然環境を守ろうとすると思うんです。“都会から消費的に自然に向かう旅”という時代ではもうなく、僕たちは“繰り返し通って自然の変化を認知しに行く旅”を提案していきたいです。

茂田
自然の変化を認知しに行くって、とても良いですね。僕らが環境の変化と皮膚の適応を見つめて化粧品づくりをする感覚と、どこか通ずるものを感じます。

本間さん
5年、10年と時間をかけて「SANU 2nd Homeがあることで、自然環境も良くなっている」と言われるようになりたいですね。やるべきことは沢山あります。

茂田
素晴らしいです。今後の具体的な展望はありますか?

本間さん
Sanu はまだ少人数のベンチャー企業ですが、一つ一つ課題をクリアしてリジェネラティブ(環境を再生する)な未来を見据えて突っ走っていきたいです。そして会員の方が世界の自然にも通うことができるよう、将来的にはアジアや欧米、世界中にSANU 2nd Homeを拡げていきたいと思っています。


PROFILE

本間貴裕

Sanu Inc. ファウンダー / ブランド ディレクター

福島県会津若松市出身。2010年「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」を理念にゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanを創業。同年に古民家を改装したゲストハウス「toco.」(東京・入谷)をオープン、後に「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」(東京・蔵前)、「Len」(京都・河原町)、「CITAN」 (東京・日本橋)、「K5」(東京・日本橋)をプロデュース、運営。2019年には次なる目標「人と自然が共生する社会の実現」を掲げ、Sanu Inc.を興す。


茂田正和

株式会社OSAJI 代表取締役 / OSAJIブランドディレクター

音楽業界での技術職を経て、2001年より化粧品開発者の道へ進み、皮膚科学研究者であった叔父に師事。2004年より曽祖父が創業したメッキ加工メーカー日東電化工業の化粧品事業として多数の化粧品を開発、健やかで美しい肌を育むには五感からのアプローチが重要と実感。2017年、スキンケアライフスタイルを提案するブランド『OSAJI』を創立しディレクターに就任。2021年にOSAJIの新店舗としてホームフレグランス調香専門店「kako-家香-」(東京・蔵前)、2022年にはOSAJI、kako、レストラン『enso』による複合ショップ(鎌倉・小町通り)をプロデュース。2023年、日東電化工業の技術を活かした器ブランド『HEGE』と、HEGEで旬の食材や粥をサーブするレストラン『HENGEN』(東京・北上野)を手がける。著書『42歳になったらやめる美容、はじめる美容』(宝島社)。2024年2月9日『食べる美容』(主婦と生活社)出版。


text:Kumiko Ishizuka

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